第3話 3分
天気の良い日の午前中、2階のベランダにて洗濯物を干していると、男女の2人組がご近所を回っているのが見えた。
1件1件呼び鈴を鳴らし、
「新聞とってください」
と。
右隣に住んでいる御家族は最近越してきたばかりだった事もあるのか、新聞を取る事には前向きで、玄関を開けて詳しく話を聞いているようだった。
右隣のご家族と、15日間だけ。とか言う細かい契約を交わした2人はその後、
ピンポーン♪
ついに俺の家の呼び鈴を押した。
しかし、俺は2階のベランダで洗濯物を干している最中、2人は呼び鈴を押しつつも俺を見上げているので、居留守は使えない。
目までしっかりと合ってしまったので、仕方なく手すりから身を乗り出し
「なんですか?」
新聞の勧誘だと知りつつ、とりあえずそう声をかけると、
「新聞とってくださーい!」
普通の声でも聞こえていたというのに、大声でそう言って来るものだから、俺の方が少し恥ずかしくなった。
昔は新聞をとっていたのだが、あまりにも誰も興味を示さなかったので、それ以来1度もとった事はない。きっと、今からとった所で同じだろう。
スーパーのチラシがあれば献立を考えやすくはなるかも知れないが、そう何件も回って買い物をしないのだから、今まで通りスーパーに行って、安売りしている物を見て献立を考えれば良い。
新聞は、とる気がないし、読む気もないのだから、早々に帰っていただこう。
「いいえ。新聞はいりません」
普通の声で返事をすると、
「1ヶ月だけでも良いので」
普通の声で言ってきた。
「新聞、読まないですから」
フルフルと首を振りながら言うと、
「15日間だけでも読んでみてくださいよ」
と、片手を伸ばして掌を向けられた。
きっと15日間の“5”を表現したのだろう。
ベランダから下に向かって話す俺と、見上げながら喋る男性。
いらないと首を振る俺と、是非読んで欲しいと手を俺に伸ばしてくる男性。
あぁ、貴方はどうしてロミオなの……。そう言って、おぉ、どうしてキミはジュリエットなんだ。と返してくれたら、1ヶ月新聞をとっても良いかも……。
返ってくる訳ないわ!
恥ずかしい事になるだけだわ!
しかも、どうして俺がジュリエット役なんだ!?いや、まぁ……それは構図的にそうなるか……。
「新聞は、いりません」
俺は人差し指を交差して×を作って男性に言った。
「そうですか……もし、気が変わったらお電話くださいね!」
少ししょんぼりした男性は、終始笑顔だった女性と共に左隣の家の呼び鈴を押した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます