第2話 30分
俺が住んでいる場所はそこそこ田舎なので、派手な人はやたらと目立つ。
そんな中で俺は、黒のカジュアルパンツに灰色のパーカーという、かなり地味な装いで駅前を歩いていた。
特に用事があった訳ではなく、たまたま駅の近くまで来たから、序に駅前のファストフード店にでも行こうかな?と、そんな軽い感じだった。
歩道橋の階段をあがり、時計塔の前を通り過ぎた辺りで、正面から金髪の高身長2人組の外国の方が歩いて来るのが見えた。
かなり目立っていた2人を遠巻きに見ている地元民達。
だから俺もそうしたかったのだが、2人は俺がどう道を避けても真正面に来る。
まずい、話しかけられてもどう返せば良いんだ!?
ここは俯いて通り過ぎよう!
「ハーイ」
ガシッ!
話しかけられた!?しかも腕を捕まれた!
どうしたら……アイキャンノットスピィクイングリッシュ?アイムジャパニーズ??ドントタッチミーか!?
「今、何してる?」
高い位置にある顔を見上げていると、片言の日本語で喋り始めた。日本語ってだけで少しホッとしてしまった俺は、
「今から帰る所です」
と、ファストフード店に行く事を諦め、そう答えていた。
外国の方だし、ファストフード店と説明したら着いて来るかも知れない。とか言う偏見があったのだと思う。
「帰る?」
え?
日本語で話しかけてきたくせに「帰る」が通じないだとぉ!?ホッとした気分を返せ!そして腕を離せ!
「ゴッ……ゴーホーム……」
発音もろくに出来ないのに、英語で答えてみると、2人の外国の方達は、
「ゴ……ゴォ?」
「ゴー……GO HOME!」
とか意味を当てて楽しんでいた。
クイズに出来るレベルで俺の発音は可笑しかったのだろう。
でも、急に見ず知らずの外国の方に腕を捕まれて、突然話しかけられたんだ、受け答えが出来ただけ凄いと思う!
「私達、今少し時間ある。話す、OK?」
OK?と軽い感じで言われても、お断りだ!そもそも「家に帰る」と伝えるだけでどれだけの時間を費やしたと?それなのに良くもまぁ話そうという気になったものだ。そして腕を離せ!
これは、本当にドントタッチミーと声に出した方が良いのだろうか?しかし、あまりにも恥ずかしい。
「あの……腕、離してもらえますか?」
「話す?」
Oh……。
「帰りたいので……腕を……その……」
どうしてもドントタッチミーが声に出ない。そもそもこれであっているのかも分からなくなってきた。
「貴方、何か趣味はある?」
腕を離してもらえないのだから、話に付き合うしかないのだろうか?それにしても“離す”が通じなかったのに“趣味”とは。
そもそも俺の趣味を聞いてどうするのだろう?困った時の話題振り?話題も何も、俺はもう早く帰りたい。
「特に何もありません」
言いながら腕を払おうと大きく振ってみると、外国の方も俺に合わせて振るもんだがら、特にどうにもならなかった。しかし腕を持たれている事に嫌悪感を抱いている事は通じたのだろう、
「帰る?」
と、やっと腕を離してくれて、膝を曲げて姿勢を低くしつつ俺の顔を覗き込んできた。
物凄い至近距離である。
「はい、帰ります!」
パッと後ろに下がって距離を開けると、外国の方は鞄の中からボックスティッシュ程の大きさの箱を取り出し、物凄い良い笑顔を向けて来た。
「募金してます。1口1000円」
展開が急過ぎる!しかも募金?1口?そもそも、何をするための募金だ!?
「えっと、今500円玉しか持っ……」
「NO!お札しか駄目!」
拒否早っ!
ゴーホームの辺りから薄々感じていたけど、絶対に日本語分かってるだろ!
金髪長身外国の方2人が、俺に声をかけてきた理由がズット分からなかった。だけど、納得したよ。
この強引な募金活動に参加させるためだったんだ。
お札しか駄目なんて怪しい募金には、500円所か、1円だって出さない!
「お札持ってないので、失礼します」
俺はクルッと回れ右してその場を立ち去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます