第13話 35分
こうして振り返ってみると、変わった人の遭遇率が高い気がする。
大阪に変わった人が多いのか、俺の遭遇率が高いだけなのか……。
そんな俺が、人生で始めて変わった人に出会ったのは、小学校低学年の時だった。
怖い話には出来ないほど何もなく、笑い話に出来るほどの事もなく、ただただ不可解だったので、今までネタとしても出した事がない。
それは学校からの帰り道での事。
日直だった俺は、黒板を綺麗に消して翌日の日直の名前を書き、戸締りを確認してから下校していた。
黒板を綺麗に消すと言う簡単な作業。それを、完璧に綺麗にやってやろう。とか思って、水拭きした後空拭きして。と、膨大な時間を費やしてしまったので、帰る頃には下足箱周辺はガランとしていた。
校門を出て、自分の家に向かって歩き出していた俺は、シレッと寄り道する為に一旦大通りに出た。
いつもとは違った道を、出来るだけ人通りの多い道を選んで帰ろう。
出来るだけ後ろを振り向かないように……。
こんな事をしなければならなくなったのは、学校を出て少し歩いた所で何気なく振り返ってしまった事が原因。
全く知らない男性が、5メートル程後ろにいて、俺を見ていたのだ。
変な人がいる。
始めはそんな軽い気持ちで、だけどなんとなく気になって、チラチラと振り返りながら歩いていた訳なのだが、男性はゆっくりとした歩調で着いて来ていた。
目的地の方角が一緒なのかも?
だとしたってズット後ろを歩かれるのは気味が悪い。だったら少し立ち止まって、男性が通り過ぎてから歩き出そう。
ピタ。
その場で立ち止まり、不自然さが出ないように靴紐を結び直してみるが、一向に追い抜かれない。
あれ?いなくなった?
座り込んだまま後ろを振り返ってみると、男性は、俺の後方5メートル地点で立ち止まっていた。
えぇぇ!?
結び直せた靴紐をもう1度ほどいて、時間をかけて再び結び直しても、男性は立ち止まったままタバコを吸っていた。
タバコ休憩してるだけ?
だったら今のうちに帰った方が良いかも!
スッと立ち上がって、本当は曲がらなくても良い角を曲がって歩き出す。角を曲がった理由は、男性から俺の姿を見えなくするためだ。
見られている。それだけでも恐怖を感じてしまえるほどには気味が悪かったから。でも、角を曲がったんだからもう安心だ!
悠々と歩き出して少し、なんとなく嫌な感じがしたから振り返ってみると、そこにはさっきの男性の姿があった。
このまま帰ったら、家まで着いて来るかも!?
慌てて角を曲がって学校の方向を目指し、そのまま学校の周囲をぐるりと1週した。
ただの通りすがりなのなら、こんな無駄な歩き方をする俺の後ろからはいなくなっている筈。
しかし、校門の前に戻ってきた俺の後方には、相変わらず男性がいるのだ。
ただの通りすがりではありえない。
あまりもの異常さと恐怖が人見知りを上回り、俺は学校の前にある横断歩道にいる旗を持ったオバサンの方へ走り、
「オバちゃん!」
助けを求めた。
「どうしたん?」
不思議そうに俺を見るオバサンに、男性の存在を知らせる為に指を差すと、その途端男性はクルッと方向転換し、歩いて行ってしまった。
また戻ってくるかも知れない……。
そんな恐怖と共にオバサンの隣にしばらくいたが、男性は戻って来ない。
良かった、もう大丈夫だ。
そう安心して、やっと家に向かって歩き出したのに、角を曲がった所に立っていた。
さっきまでは後方5メートルの場所だったのに、今は前方にいる。
逃げ出したい衝動と、逃げても無駄だと言う諦め。そして、つけ回しやがって!と言う少しの怒り。
俺は、歩き出す。
横断歩道の所にいるオバサンの方ではなく、男性を目指して。
目を逸らさずに、ズンズンと歩く。
名札を見られないように握り締め、男性を睨むようにして凝視しながら。
男性も俺を見つめていて、ジッと立ったままいた。
そして男性を通り過ぎ、少しして後ろから聞こえた足音。
また、後ろをついてきているのだ。
俺は寄り道をするために大通りに出て、出来るだけ人通りの多い場所を選び、家までの道とは全く別の方向へ進む。
大通りなので車の音や、人の話し声、色んな足音が聞こえてきて、後ろに男性がいるのかも分からなくなっていたが、振り返らずにただ只管歩く。
親父が勤めている会社に向かって。
しかし、会社に着くよりも先に男性の姿は俺の後ろからは消え、前方にあった。
その後姿はズンズンと大股で歩いていき、徐々に小さくなって、やがて見えなくなったのだった。
この男性が何をしたかったのかは、未だに分からない。
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