第19話 通 テニススクールへ通う

「俺、最近テニス習ってんだ」

「お前…テニス?…」

「いやいや…面白いよ」

「いや、面白いかも知れないけど、お前がテニスってガラじゃないって話」

「良かったら見学来る?」

「見学?」


―――

「今日もお願いします」

「通さん、こちらこそ」

「こいつ、見学で…」

「あ~どうぞ、どうぞ」


「テニスのご経験は?」

「軟式をちょっとやったことがあるくらいです」

「えっ?そうなの?」

驚くつう

話さなかったっけ…?


つうさんはどうされます?」

(どうされます?って)

「いつもどおりで」

「そうですか?ラケット貸しますけど…」

「いえ、まだ早いと思うので」


なんの会話かさっぱりわからない…。

「じゃあ、桜雪さん、ちょっと素振りしてみてください」

「はい」

「軽く打ち返してみてください」

「ラリーできそうですね」

「そうですか」

まぁ、温泉卓球みたいな、ゆっくりとしたラリーを続ける。

小学生から主婦まで思い思いにコートで試合や練習をしているわけだが、気づけばつうの姿がない。

「桜雪さん、どうされました?」

「いや…つうは?」

「あ~、また草むしりしてくれてるのかな?」

「はっ?草むしり…」

「はい…つうさん、ここに通いだしてからラケット持ったことないんですよね~、いつも草むしりとか、球拾いとか…ありがたいというか…バイトがいるからいいんですけどね」

「球拾い…ですか…」

「えぇ…あっ!ほらっソコ」

コーチが指さす方向…つうがカゴに球を入れている。

「あの~、アイツずっと、あんなですか?」

「はい…施設管理をしていただいてる方々と仲よくされているようで」

「はぁ…………」

つうが球拾いしながら話してる相手は麦わら帽子と白いタオルが良く似合うご老人。

会話は聞こえないが…楽しそうである。

(なにしてんだろう…アイツ)


体験コース…1時間が過ぎて帰ろうとつうを呼ぶ。

「おう!終わったか、どうだ、汗流すのもいいもんだろ」

「いや…お前…どこで汗かいてんだ…」

「うん…テニスにはあんまり興味がないんだ…気取ったヤツ多いし…」

(あの主婦達のことだな…まぁ、うん、嫌いだろうな…)

「初日、俺のこと笑ったんだ…陰でさぁ、なんかゴチャゴチャうるせぇの、そんで隅っこでタバコ吸ってたら、あの人が話しかけてきて、仲よくなったんだ」

「お前、コートでタバコはダメだろ…」

「うん、そんなこと言われて…カチンときたんだ、アイツらに」

(話が飛ぶなぁ~、まぁタバコを注意したのが主婦層なんだろうな)

「話しかけてきたって…そのじいさんが?」

「喫煙所教えてくれたの」

(あるんだ、喫煙所…テニススクールに)


「んで…俺、あの人の仕事手伝うことにしたの」

(うん…なに?)

「お前、金払ってんでしょ?」

「払ってる。もちろんだ」

「なぜ…働く?」

「ん…いや…テニスしてるより、あの人の話聞いた方がタメになるよね」

(うん…バカ?)

「いや~良いこと言うんだわ、あの人、苦労は金払ってでもやるほうがいい、とか」

(よく聞く話だな…)

「勉強しに通ってる感じだな」

「あ~、じいさんの話聞きに行ってんだ~」

「おう」

「お前が、あそこでバイトすればいいんじゃないかな」

「……どういうこと」

「いや、金払ってるぶん無駄っていうか…」

「そうじゃないんだよね~ネット越しの関係っていうか…同じ方向を向いてする感じ?じゃないっていうか」

「よく解らないけど…じいさん、ずっといるの?」

「いや、あの時間が多いね…主婦層が多い時間」

(ん?主婦層が多い時間?)

「あの時間、だいたいアソコで草むしりしてんだ」

(それ、アレだな…)

「じいさん、女見に通ってるだけだな」


つうは翌月…退会しました。

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