第15話 通 子供の頃を語る

「桜雪、ガンダム好きじゃん」

「そうね、Zが好きだよ」

「あ~、飛行機になるやつね」

「うん……まぁ飛行機でいいや……」

「アレどこが面白いの?」

「う~ん、子供の頃は単純にガンダム正義で、ジオンが悪、みたいな印象だったけど、大人になってから観ると印象変わるんだよね」

「へぇ~、ジオンは悪いヤツだろ?」

「一概にそうじゃないんだな、ザビ家の独裁が先行しちゃうけど、もともと独立運動に端を発する戦争なわけで……」

「だけど、シャアは悪いヤツだろ?」

「いや、ガルマを殺したりしたけど、もともと復讐なわけで……子供の頃にはそこまで観ないよね、おじさんがかっこいいアニメだよね、ランバ・ラルとか」

「……俺、ガンダムって見た覚えないの」

「TVで観た世代だろ」

「そうらしいんだけど、観たって記憶が無いの」

「子供の頃、何観てた?」

「マジンガーZは覚えてる」

「俺、マジンガーZ観た覚えないな」

「そう、マジンパンチ!みたいな面白かった」

「ロケットパンチ……だよな……」

「帽子被るんだよ」

「帽子?」

「合体するじゃん!」

「合体?パイルダーオンか?」

「覚えてないけど……お前のほうが詳しくないか?」

「アニメを観たわけじゃないけど、ゲームでな」

「あぁ、ゲーム」

「でもマジンガーZって俺たちの、ちょっと前の世代じゃない?」

「いや、俺、観てたよ!絶対!覚えてるもん」

「へぇ、他は何か観てた?」

「そうだな~、好きだったのは、『燃えるお兄さん』『サムライトルーパ―』『奇面組』『北斗の拳』とか観てたな」

「ごめん、知ってるけど、観てなかったな~」

「お前は何、観てたんだ?」

「好きだったのは『パトレイバー』『不思議の海のナディア』かな」

「パトレイバー知ってる!でも全然、面白くなかった……」

「そう?俺、後藤隊長なんて未だに憧れの人だよ」

「誰だっけソレ?あ~おじさんみたいな人」

「いいけどね、別に……あ~必殺仕事人は好きだった」

「おう、時代劇ね、俺も水戸黄門好き!」

「俺は水戸黄門観ないけど、中村主水も憧れの人」

「桜雪は中年のおっさんばっかに憧れるのな」

「……そうかもしれない……」

「子供ってもっと、ヒーローに憧れない?」

「うん、変わっていたかもな」

「お前は変人だよ、今も昔も、子供の頃からだったんだな」

「お前は、なんに憧れたの?」

「俺か、色々だけど、今ひとり挙げるなら……『おじゃる丸』だな」

「なに?」

「おじゃる丸だよ!知らないの?俺、毎日観てるよ」

「録画で」

「ううん、夕方から毎日」

「はっ?無理でしょ4時くらいじゃなかった?」

「そうだよ、俺、仕事3時に終わるもん」

「3時って、何時に始業?」

「10時」

「5時間労働?」

「いや、休憩あるから、メシ食うから、4時間」

「バイト?」

「どうだろう?正社員とは書いてなかったかな」

(知らねぇのかよ……)

「マジンガーZって……やってたかな~」

「やってたよ、鮮明に覚えてる、思い出したら観たくなってきた」

「DVDとかあるんじゃない?」

「そう?レンタルしようかな」


レンタルビデオ屋へ、ツタヤとかじゃない。

つうが会員になっている店だ、基本アダルトが多く、パチスロなんかが置いてある、あまり女性向きとは言えない店だ。


「あっ、ちょっと打っていい?」

「あぁ、俺、立ち読みでもしてるわ」


「まだかよ?」

つうに声をかけると、パチンコ台……マジンガーZ。

「これ好きでさ~」

(お前、アニメをリアルタイムで観たんじゃなくて、パチンコで知ってるだけなんじゃ……)

何台か先に、パトレイバーもある……。

好きじゃないって……パチンコだかパチスロだかのことか……。

(たぶん、出なかったんだろうな……パトレイバー)


つうに時間の概念は存在しない。

私とは時間軸がズレた世界の住人なのだと思う。

つうの記憶は過去から現在に流れない、

よ~くシェイクされているのだと思う。

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