第12話 通 植物園へ行く

家族サービス。


これが不得手な、お父さんも多いと聴く。

つうは割と苦手である。


いつぞや、遊園地に行ったそうだが、仮面ライダーショーに飽きて、サイン会になる頃には、子供を1人で並ばせ、ベンチでタバコを吸っていたらしい。

「だってジャンプしないし」

当然である。

バッタの改造人間はリアルでは弱い……。

飛ばないのである。


かくゆう、私も以前、ヒーローショーに戦闘員で出演したことがある。

段取り間違えて、青いヒーローを蹴り飛ばし、脳震盪のうしんとうにさせて、のびたヒーロー引きずりながら舞台袖に運び、結果、えらい怒られた。


そんなつうが植物園などという、らしからぬ所へ行った話。


「で、植物園に連れてったんだ」

「農業を学ばせるために?」

「そう」

「はぁ」

「だけど、稲とかねぇのよ、花ばっか、ときおり草」

「うん、そうだよね、珍しい花とか食虫植物とかが咲いてるよね」

「そうなんだよ、面白くないんだよ」

「俺は好きだけどね」

「なにが面白いの?草見て」

「草って言うな、落ち着くじゃないか、静かだし、キレイだし」

「あ~、そういうウソの自然が好きなんだ」

「嘘の自然って言うな」

「山って、あんなんじゃないからね!ヒルとかいるからね!ミミズとか這ってるからね!ヘビいるから、虫だらけだから」

「だから、手入れされた気持ちのいい自然を感じるから好きなんだ」

「自然ってそうじゃねぇんだよ!」

「うるさいな!ソレを学ばせたと思えばいいだろ!」

「ウソの自然しか知らないお前が、俺の家に泊まって本当の自然を知るなら解る。が、逆はナニを知るんだよ!」

「自然も人の手が介入することで、これほど快適な空間に変わるという現実と技術」

「お前、手品とか好きだもんな」

「なに言ってんだ?お前」


「農業学ばせたかったら、別のとこあるでしょ、自然史博物館とかさ」

「そういうとこ知らないんだよね~、お前よく知ってるよな」

「で、ガキはどうだったの?」

「なんか、喜んでたよ」

「じゃあ、良かったんじゃない」

「それが今さ~、病院通ってる」

「……なんで、植物園行って、病院行くの?」

「レストランがあるじゃん」

「あぁ、ハーブティとか飲めるとこね、バラのアイス食べた?」

「いや食わねぇけど、なんか軽くメシ食ったの」

「珍しいね、高い!とか言って普段そういうとこで食わないのに」

「たまにはね、そしたらガキが手がベタベタなんだ、キタネェ食い方するから」

「あぁ、なに食ったか知らんけど……なんか想像できる」

「おう、そしたら、あのガキ!俺のシャツで手を拭きやがって」

(うわぁ~想像できるわぁ)

「俺、アタマきてさぁ!思いっきりガキの頭殴ったの」

(お前の全力で、小学生を殴ったの?事件だよ)

「そしたら、ガキが倒れて医者行ったんだよ、そのまま」

(ほら事件じゃん)

「今さ、頭がベコベコしてて、医者通ってる」

「頭がベコベコってナニ?」

「なんか、柔らかくなってんの、殴ったとこが、気持ち悪りぃんだ、オホホホ」

(オホホホじゃねぇ)

「大丈夫なの?」

「大丈夫みたいだよ、包帯巻いてるし、金掛かってしょうがねぇよ」

「お前のせいだけどね」

「なんで?ムカつくだろ、お前だったら、そんなもんで済まさないでしょ」

「いや、他人にされたら、そりゃそうだけど……自分の子でしょ」

「だからこそだ……教育ってやつだ」

「行き過ぎたってやつだ」


「ところで、いつも思ってたんだが、お前の奥さんナニしてんの?」

「そんとき?」

「いや、まぁいつも話に出てこないけど、一緒に行ってんだろ?」

「おう!いるよ、でもナニしてんだろうな~あんまりコレといって、何があるわけでも、なんかするわけでもないというか、存在が薄いんだよね、よく知らね」


(想像できるな~、家族のすがたが……)

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