第13話 通 昔話を語る

「だから、昔話ってのは、なにか俺たちにも伝えたいコトがあるわけ」

「へぇ」

浦島太郎の絵本を立ち読みした35歳の男の感想である。

「で、なにを学んだの?」

「人助けすると、いいことがある!」

「亀だし!じじいになってるし!」

「溺れた亀を助けて、海底の都で遊びまくって……」

「じじいにされる……と」

「…………」

「そもそも、溺れた亀ってなに?」

「亀、溺れてなかった?」

「苛められてたんだろ!」

「えっ?」

「亀、溺れるって0とは言わんが、なかなかのアクシデントだろ?」

「あれじゃね、ゾウガメだったんじゃね!」

「ウミガメだよ!竜宮城は海の中にあります!ゾウガメに乗ってドコ連れてかれんだよ!地底の国か?ガラパゴス島しか行けねえよ!」


「なぁ、浦島太郎って実話かも知れないって話、聞いたことある?」

つうに聞いてみた。

「いや知らない、マジなの?竜宮城あるの?」

漁師が、海流に乗って南の島に流されて現地人としばらく暮らした後、また海流に乗って帰ってきたという話である。

実際に、たどり着いた島には、日本語と思われる言語が存在し、腰みのをまとった島民が今も暮らしている。

「マジで!」

「だから、腰みの付けてるけど、日本の漁師は腰みの付けないでしょ」

「おぉーっ!お前すげえな!よく気づいたな!」

「いや、俺じゃなくて、TVでね……」

「あぁ~そうなの、でも、なんか解る」

「でね、宇宙旅行って説もあるんだよ」

「太郎が?」

つうが夜空を指さす。

「うん、相対性理論って知ってる?」

「知ってる!エジソン!」

「アインシュタインな」

「そうだっけ?」

「光の速さで移動してると時間が限りなく0に近づくってヤツな、双子のパラドックスって知ってる?」

「…………」

すでに聞いてない。


つうが車をUターンさせる。

「なに?ドコ行くの?」

「本屋」

「なんで?」

「もう一回、浦島太郎読んでくる」

「なんで?」

「亀が溺れてた気がするんだよ」

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