第8話 通 独特の語学力を披露する

「あのさ~カラオケ行かない?」

「いいけど、急にどうした?」

「彼女と行く前に、練習したいの、レパートリー作ってるの」

「あぁ、そういうこと……」


カラオケボックスにて……。


「これ歌おうと思うの」

紙切れを差し出してくる。

曲目が書いてある、きたない字で。

「どうだ!グッとこない!ねぇ!」

「うん……古いし、こう偏ってるね」

「伝わるモノない?」

「伝わるよ、吉川晃司と鈴木雅之が好きだってことだけは」

「そうか!それが伝われば8割成功だな!」

(コレが伝われば8割成功?)

「なにが?」

「いや、俺のことを理解してもらうのに」

「お前の8割はコレなの?」

ソウルの8割な!」

(残りの2割ってなんだろう?)

「いや~お前とは長いけどさ、未だに俺は、お前を理解できずに戸惑うばかりで申し訳ないな」

「気にすんな!」

通が突き出した親指の『グーッ』をへし折りたくなる。


「もう少し、流行はやりの曲も歌ってみたら?」

流行はやりのね~、そういうのなんか違うっていうか、なんだろうな~薄っぺらくない?」

「何枚かCD貸そうか?」

「そうか……せっかくだからそうしようかな」

「寮に戻ったら部屋に来いよ」

「おう!とりあえず今日は歌うぜ!」

相変わらずの歌唱力、独特のアレンジ、英語部分はハミング、読めない漢字は雰囲気、♪かぁ~っ!心を掻きむしるメロディ、殺意を呼び起こす笑顔。


そして当日。

「あのさ、付いてきてくれない?」

「デートに?」

「うん、なんか会話が弾まないの」

「あ~わかるゎ」

「わかる!そう、まだぎこちないんだ!」

(そうじゃねぇよ!お前が、なに言ってんだか解んないんだよ彼女)


「よしっ!歌うぞ!」

通、大はしゃぎである。

なんならソファが揺れるくらいにウキウキしている。

通が定番を何曲か歌い、彼女を見つめながらラブソングなんか熱唱する。

これが面白い!

一段落して、若干の談笑。

「桜雪さん、コレ歌えますか?」

通の彼女のツレが聞いてきた。

「そういうの聴かないんだよね」

「でも知ってるでしょ?」

「知ってるけど、あんまり自信ないな」

「どれ!おう知ってる!俺が歌ってやるよ!」

通が自信満々でマイクを持つ。

「じゃあ入れますよ」

「おう!」

チャーチャーチャチャチャチャーチャーチャー♪

イントロとタイトルが画面に表示される。

「リクエストいただきました!心を込めて歌います!ドーロ」

(はい?)

「ちょうど一年前~♪」

「ボケたのかしら?」

「えっ?さぁ?」

(ロード……言い間違えだと信じたい)


「どうだった?」

(俺に聞くの?)

「あぁ良かったよ、

「初めて歌ったんだけどな!

(やべっ、マジだ……)

彼女達もボケたわけではないことを察している、顔で解る。


「そういや、貸したCDどうだった?気に入った曲あったか?」

「おう!いい曲あったよ、歌おうかな!」

「そうか?なんの曲、えっとね、この歌手のね~コレ!」

「そうか、歌ってくれよ」

「いやでも、照れるな~」

「彼女の前でいいとこ見せたいって練習したんだよな」

「バカ!言うなよ」

「そうなんですか~、私も聴きたい!」

ツレもはやし立てる。

彼女、若干恥ずかしそうだが、満更でもなさそうだ。

(ここしかねぇ!)

私は、番号を転送する。

イントロスタート!


なんとか歌った。

美味い下手じゃない。

歌ったことに意義を感じる。

今は殺意を押えよう。


「いい曲だよね~」

彼女もとりあえず自分のために歌ってくれたことに満足している様子。

「この曲好きだもんね!」

「うん……」

いい感じだ。

今日はコレで帰ろう。


「いやぁ~、この曲いいよ!なんか心にくる!」

「あぁそうだな」

「タイトルはイマイチだけどな~」

「そうか?」

「ど忘れって!どうよ?」

…………一同フリーズ…………。

都忘みやこわすれだよ……通……」


もちろん、フラれました。

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