第4話 通 ルーツを辿る

「日本人はDNAが農耕民族なわけ」

「ん?なんだって?」

「だから、日本人は農業からは離れられないって話」

「へぇ~……で?」

「うちは先祖代々農業じゃん」

「知らんけど、親父さんは農家やってるよね」

「爺さんも!農業!」

「へぇ~……で?」

「俺、エリートじゃん」

「なんの?」

「農業の!」

「農業のエリートってなんだよ」

「DNAに受け継がれたエリート家系なわけ!」

「それは関係ないんじゃない」

「あるよ!お前とさ、俺じゃ全然違うじゃん!」

「うん、俺は農業知らないしね」

「そう、コンバインとか乗れないでしょ!」

「乗ったことはないね、フォークリフトの免許はある」

「子供の頃から、田んぼに入って遊んでた俺と、靴が汚れる的なお前とでは違うわけ」

「まぁ、そんなお上品に育ってないけどな、田んぼは落ちたことしかないよ」

「だろ!エリートはさ、田んぼに対する見方も違うわけ!」

「で?今日、農道を走りたがってるのは、その話をするためか?」


本日、目的もなく真昼間の農道を軽トラックでドライブ中である。

世は、田植え真っ最中であり、トラクター的な乗り物が道路に泥をまき散らしながら走行中、一般車にとってはイライラが募る時期でもある。

(遅い!汚れる!国道で荷車に人乗っけるの違反じゃないのか?スピード違反は取り締まるくせに、トラクターの無秩序はフリーパスか!)

と思ってる私にとって、農道ドライブはストレス以外何物でもない。


「農業とか興味ないので、家に帰りたい」

「はぁ~、今日はお前に米とか農家のありがたさを解ってもらいたいの、俺は」

「大きなお世話だから、帰りたい」

「そもそも、農業ってさ弥生時代からさ~卑弥呼が天候を占ってさ~発展させて、現在に至るわけ」

「弥生時代、3世紀から21世紀までざっくりと端折はしょったなぁ~」

「色々あんだよ、その間に江戸があって昭和が来て、今じゃん」

「お前、年表埋められないだろ?」

「…………」

「弥生時代の次、ナニ時代?」

「えっ?鎌倉……いや、なんかその前にあったね~アレ、おじゃる丸の時代」

「おじゃる丸?」

「知らない、プリン好きなんだ、俺毎回観てる!まったり~まったり~♪」

(なんか観たんだろうな~TVで農業のナントカみたいなの)

とりあえず主題歌だろうか、歌い終わると機嫌が良くなったのか農作業中の農家の方々に軽トラックから話しかける。

「いや~どもども、精がでますね~、このあたりだと、あの山から水引いてるんですか?」

「あんた、どこの人?」

(他人へのハードル低いよな~コイツ)

「N県です。ウチも農家やってるんだんが~田んぼ見せてもらいにきましたて~」

(なんか、不思議なイントネーション使い出した!)

「変わってるの~、まぁお茶のむけぇ」

「おう、おほおほ、すいません頂きますて~」

(えっ?エンジン切った?)

「おう、呼ばれようて!」

「はい?」

(誘うなよ~)


通は地元の人にお茶を貰い、田んぼの脇に腰かける。

私は助手席でコーラを飲んで待ってる。

「お茶、うめぇですて~」

「おにぎり食うか?」

「おほっ、いいんですか!いただきます!」

私は車酔いだとか言って丁重にお断りした。

通は三角形のおにぎり貰って、お茶飲んで、春の陽だまり満喫中である。

私は助手席で変わり映えのしない田んぼに飽きてきていた。

パッとクラクションを鳴らす。

「おう~わかったいや、帰るよ、うるせぇな!」

「じゃあ、ツレがいますんで、戻りますわ」

「そうかい」

「さすが、地元のお茶とおにぎりですてぇ、美味いわ!コンビニしか知らねぇアイツもこういうのが解るようになるといいんですけどさぁ~、まぁ俺は代々農家の家系で米とか野菜、水に至るまで恵まれて育ってるんです。子供にもねぇ、コンビニの弁当なんか食わせたことねぇんです。舌がバカになる!」

「あぁ……そうかい……悪ぃことしたなぁ~」

「えっ?なにがです、美味かったですよ、おにぎり、そりゃ俺の実家のも美味いけど、ここらの米だって美味いですよ」

「いや、そうじゃなくて……コンビニで買ったんだ、おにぎり……お茶も」

「えっ?……ビニール無かったじゃないですか?」

「俺、うまく海苔を巻けないから、子供に紙を剥いてもらったの持ってくるんだ」

「お茶は?」

「2LのPETボトルを水筒に移して、保冷が……な……いやだから、コンビニの弁当を食わねぇなんてアンタに食わせちゃって、スマンことしたな~って……」

(やべぇ!笑いそう!)

「…………じゃあ、邪魔してすいませんでした」

(しゃべりかた戻った!)

軽トラックを走らせる通、国道へ戻るまで無言であった。

「ねぇ、そこのコンビニ寄って」

「あぁ」

コンビニでおにぎりを選ぶ

「なぁ、お前さっき何の具食べたの?」

「えっ?……梅干し」

「違うのにするでしょ?鮭とか」

「いや俺いいよ」

「そっか、食ったもんな、コンビニおにぎり」

「…………」


車でコンビニのおにぎりを食いながら聞いてみた

「エリート農家のDNAを弥生時代から受け継ぐオマエからみて、コンビニおにぎりはどうなの?」

「……美味かった……よ」

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