第9話 通 美味いモノ博に行く

「週末、空いてる?」

私は、つうと同僚を誘って『美味い物博』へ出かけた。


満員御礼……駐車場が空いてない。

付近の有料駐車場はポツポツと空いていたのだが、通が

「駐車料金が高い」

で停めることを許さない。

(お前、同僚の助手席で座ってるだけだろ……お前の金じゃねぇ)

「ちょっと歩くけど、スーパーの有料駐車場に停めて歩こうよ」

後部シートから私が同僚に話かける。

「いくらなんだ?」

つうが聞き返してくる。

「いいよ、お前に金出せとか言わないよ、200円か300円くらいだ」


同僚の車を停めて、いざ伊勢丹へ……。

「しかし、お前の私服はヤクザみたいだな」

つうが私の服にケチをつける。

(お前、作業服じゃん……)

そう、あまり伊勢丹にはいない服装である。

その作業服に出発直前、私がやったチロリアンハットを被っている。

(違和感丸出しだな……)

断わっておくが、私は白のドレスシャツに黒のスラックス、革靴、サングラス。

至って普通である。


伊勢丹に入るまでは、先陣切って歩いていたつうだが入店した途端、歩みを止めた。

そう、入口からブランド店がズラッと並ぶ威圧感にアッと言う間に飲まれたのである。


エスカレーターに足を掛ける頃には、完全に私の後ろを歩いていた。


会場に着くと、とりあえず何か食べようということになり、私と同僚は北海道のラーメンに決めた。

つうは珍しく、ハンバーガーを食べると別れた。

「塩と味噌ください」

「かしこまりました」

食券が渡される。

「あの、醤油じゃなくて塩頼んだんですけど」

「はい?醤油ですよね?」

「だから、塩を頼んだんです」

「え?すいません」

どうも、私が塩ラーメンを頼むとナニカが起こるらしい。

塩か味噌で悩んだのに、まさかの醤油では悩んだ時間が無駄になる。

運ばれる前で良かった。

(美味かった)


ブラブラと彼女のお土産を物色する。

(プリンと千疋屋のシュークリームは買おう)


会場で通を見つけた。

「ハンバーガーどうだった?」

「高かった……」

「あぁ、まあ有名店だしこういう場所だしね、で美味かったの?」

「食べなかった……」

「あぁ~そうなの?他にもあるからな、牛タン弁当もあるよ」

「あぁ……」

つうが私の後ろを付いてくる……同僚は会場を物色中だ。


「いかの塩辛を買う」

「そうか?」

私が、試食を薦められると、すかさず手を出すつう

「美味いですね」

「そうでしょ、コレも食べてみて」

おばさん2人が両脇から交互に色んなモノを差し出す。

「あっちのも食べてみる?」

「おばさんに張り付かれると、財布ごとココに置いてくことになりそうだよ」

「まぁ、ホント?でも美味しいでしょ、アハハハ」

たわいもない会話を楽しんでいる脇で試食を詰め込むつう

私は塩辛とタコワサビを購入した。


「俺、彼女の土産買ってくる、お前どうする?」

「俺は、ここで待ってるよ」

「じゃあ悪いけど、カバンと荷物だけ見ててくれる?」

「おう、いいぞ」


つうを残し、会場へ戻る。

同僚はジェラートに並んでいる。

「アイスとジェラートの違いってナニ?」

「俺がなんでも知ってると思うなよ、食ってみて考えろ」

「そうだな買ってくる」

かなり長蛇の列だが、それほど知りたかったのだろう。


私は、プリン2種類、クリームパン3個、カツサンド、マンゴーシュー、バナナオムレットを購入、彼女の好きそうなものは全て買ってみた。

先ほどの買い物を含めて結構な金額を使ってしまった。

だが、たまの機会だ、まぁ良し。


戻ると同僚がジェラートを食ってつうと待っていた。

「違い解った?」

「解らんけど、美味い」


「お前なんか食ったの?」

「いや、試食だけだ……」

(何しに来たんだ……)

「コレ食べる?」

クリームパンを1個差し出すと

「おう!」

同僚は車出したし、さっきラーメン奢ったし、でもなんか悪いからと思ってパン差し出したら食べた。

(まぁいいけど……)


「もう帰ろうぜ」

つうが飽きてきたようだ。

「じゃあ、抽選券だけ引いてきたら?」

「おう!もう引いた」

とポケットティッシュを私に差し出した。

抽選券は同僚が2枚、私が6枚貰った。

5枚で1回引けるのだ。

ティッシュ1個ってどういうこと……。

「1回しか引いてないの?」

「5枚で1回だもん」

「お前……何も買ってないの……」

「おう!」

で何も買ってない、お前が抽選券使って、ポケットティッシュなの?

(なんか釈然としない)


帰りのエスカレーターで思い出した。

彼女からのメール。

「行ったら、ゴ……ゴ……のチョコ」

そう書いてあった。

ゴのチョコ……ゴディバである。


「ちょっと地下に寄る」


ゴディバの新作を購入して、今日は金を使ってしまった……。

「お前……その土産、彼女のだろ?」

つうが聞いてくる。

「そうだが」

「いくら買ったんだ?」

「1万2千円くらいかな」

「……俺だったら、そんな女と付き合わねェ!絶対嫌だ!」

「いいじゃねぇか、別に」

同僚がつうをなだめる。

「考えられねェ!甘やかしすぎだ!」

(まぁね~、そうなんだけどねぇ)


帰りの車内

(彼女を迎えに行くまで時間が空いちゃうなぁ)


同僚の携帯が鳴る。

「はい」

「警察署ですが……」

(警察?)

「今、移動中ですよね、申し訳ありませんが、お父様の引き取りをお願いしたいのですが……」


(何事?)


電話を切った同僚に尋ねた

「警察ってなんかあったのか?」

「あぁ、親父が万引きして捕まった……」

「それで引き取りに行くんだ……」

(空気重いよ……)


「そうか~、歳だからな~ボケてきたんじゃねぇ」

つう

(慰めてるのだろうか……)

「俺もよ~最近、警察にマークされてるんだ」

(バカなの?)

「行く先々で警察がいるんだよ」

(交通安全週間じゃない?)

「なんか、俺、危ないことやってるって思われてるんじゃないかな~」

(警察もヒマじゃないと思うが……)

もう捕まったらいいと思う。

被害妄想と自意識過剰で病院行け!

そして頼め、バカに付ける薬をください!って叫べ。

地元の警察署の真ん中でバカを叫べ。

『遅き春 強くなりゆく 日の明かり 沈みしこころ 光とどかず』

良いことはなかなか起こらない バカが増すつうの言動が 同僚の沈んだ心を慰めることはない。

という意で、心で読んでみた。


土産の行方は『序』のほうで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る