第4話 壱の4 諸国の名刀 集い始める

え〜、作者です。 この(壱の4)は地名や人名がたくさん出てくるため、アホの主人公あつこには解説不可と判断。今までの展開でオーバーヒートした脳をあのアホが冷却してる間に、少し話しを進めておきましょう。


 小狐丸が言った通り、敦子の知らない所で今も、魂を持った刀達が東京を見指していた。


  {石川県と富山県の県境}

 かの新撰組の衣装を纏い、天才、沖田総司の姿を模した若侍が一人。その沖田総司の差料(愛刀の事)と同じ加賀の名刀、加州清光。


  {鳥取県山中}

 平安時代の、古いながら金の装飾を施した鎧を纏った武将と、その後ろを行く荒武者の両名。酒呑童子を退治した源頼光の差料、国宝にして天下五剣『童子切』の安綱と、史上最強の剣豪、宮本武蔵の差料、大原真守。


  {福岡県から山口県に渡る旅客船上}

 手甲脚絆に旅装束、羽織に傘、刀の鍔の眼帯。宮本武蔵と並ぶ剣豪、柳生十兵衛三厳の姿を模した筑後の名刀、三池典太光世。


  {熊本県熊本城天守閣上}

 鎧を纏った二人の大男。覇気とも殺気ともつかぬ気に、屋根瓦がガタガタと鳴っている。加藤清正が称えた最強の実戦刀、胴田貫正国と清国。

「我らが御殿の為」

「我らが御殿の為」

両名は天守閣から一気に外堀まで跳躍した。


  {宮城県仙台・震災慰霊碑前}

 三日月形の飾りの兜に隻眼。伊達政宗の姿を模した政宗の差料、最上大業物の初代国包は、慰霊碑に手を会わせてから東京の方角を見据えた。

「レッツパー…………いやいや自粛自粛」


  {岐阜県関市近郊}

 和とも洋ともつかぬ派手な衣装。歌舞伎者前田慶次こと前田利益を模した最上大業物、二代関の孫六兼元。友人を待っていたが、どうやら先に東京に向かったようだ。

「まあいい。伊勢のヤツも江戸は久しいだろうしな」


  {奈良県桜井市・三輪山}

 県道脇で、博多人形と見紛うほどの美しい肌をした和装美人が一人。所在無げに辺りを見渡しながら、その細身に似つかわしくない大刀の鞘に、細い指先を添えて暇を持て余していた。もちろん、彼女も名のある名刀である。

そこへ大阪方面からやって来た目つきの鋭い長身痩躯の男と目が合った。そしてこちらも名刀。

「見事な綾杉肌……………月山か?」

「ええ、鬼神丸さんですね?」

女は奥州月山を源流とし、綾杉肌と呼ばれる美しい鉄の地肌が特徴的な、幕末に復活した大和月山。

男は新撰組三番隊隊長、斎藤一の差料として有名な摂津国の業物、鬼神丸国重。

「会場は東京のハズだが?」

鬼神丸は刀の柄に手を添えた。

「ええ、もちろんここでやり合う気はありません。ただ、江戸までは長い道のり。旅は道連れと申します。幕末の生まれですので、初参加ということもあって、どうも不安でしたので、誰か連れとなってくださる方はいないものかと、こうして待っておりました」

「ほう………………」

柄から手を離した鬼神丸ではあるが、しかし彼は知っていた。この女の姿を模した名刀もまた、優勝を狙えるに十分な実力を持っていることを。

「分かった。お供をしよう」

「まあ、嬉しい」

彼女は鬼神丸に腕をまわして寄り添った。

刀身の地肌の美しさでも有名な月山である。

その刀が変化した娘の姿も当然のように美しい。鬼神丸としても悪い気はしなかった。

「まあ、いいか」

二人はそのまま、東を目指して歩みを進めた。


  {そして福岡西部山中}

 山道を進む二人連れ。共に武者姿の名刀である。

「SAGA佐賀♪、SAGA佐賀♫」

「……………………」

「SAGA佐賀~♬、歌詞の続きは忘れた!」


「何の歌だ?」

「佐賀県の歌だろ。よく知らないが」

陽気に一方が答えるが、武人とともにある刀の品位が落ちそうな気がして、もう一方は連れのそういったところが、あまり面白くない。

すると、

「失礼いたすっ! 名のある名刀とお見受けするが?」

道路脇から飛び出てきた、若武者の姿を模した刀が道を塞ぎ、深々と頭を下げて聞いた。

「いかにも。我らは初代と三代の肥前忠吉だが」

「あ、あの最上大業物の……………」

二人の正体は肥前国の名刀、初代忠吉と三代目陸奥守忠吉であった。高名な二振りの名刀を前に、若武者の刀は生唾を呑んだ。

「私は無名ながら、永禄の頃、薩摩は島津家に仕えた武人の差料にございます。この度の業物演武に参加したく思いはしたものの、知られた作でもない故、己がどれほどのモノか分かりませぬ。はたして自分が参加するに足る刀なのか、どうなのかを知りたく思い、名のある名刀の方と、お手合わせ願いたく、こうして待っておりました」

「なるほど。つまり我らのどちらかと、この場で闘ってみたいと?」

「はっ」

「いいだろう。胸を貸そうではないか」

「申し訳ない。ところで、さっき何か歌のようなものを唄っておられましたが、、とはいったいどういう意味なのでしょう?」

「佐賀だよ、佐賀県!」

「???????、ああ、琵琶湖のある?」

「それは滋賀。SIGA」

「越後の沖にある金山で有名な島?」

「それは佐渡。SADO」

「………………はて?」

「おまえ薩摩の出って言ったよな。鹿児島だよな。同じ九州で何で知らないんだよ。地図見りゃ載ってるだろ、福岡と長崎の間にある」

「え? そんなところに県がありました?」

「あるだろっ、有明海に面した」

「ああ、オランダ村のあった」

「そりゃ長崎っ。しかも古っ! 今はハウステンボスだっ。マジで知らねぇかこのヤロー」

「はぁ、残念ながら…………」

「ゆ………許せんっ!」

「うわぁぁぁっ、な、何をををっ?」

何故かバーサークした初代忠吉に、薩摩の無名刀は、必要以上にメッタ打ちにあい、業物演武には、参加する前にリタイヤすることとなった。

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