伍 残りし強者達

第15話 伍の1 アキバの陣 その壱

 う〜ん、どう考えても作者に騙されたような気がしてなりません。

やっぱりうまいこと言いくるめられたのでしょうか?

でも、ちゃんとクイズに正解してたら……………、アレ?

正解しててもやっぱり私にはいいことは、アレ、アレ、おかしいな?

な、何でみんな、私見てクスクス笑ってるんですか?

笑ってないで教えてくださいよ。

うう、そうでした。そちらからは話せないんでしたね。

エアガンで撃たれたトコは痛いし、お土産没収されるしで、もういいとこなしです。

もう何もする気はしませんが、話しを進めておかないと、また作者にセクハラや嫌がらせを受けるのは目に見えています。

仕方ないので、とりあえずその後のコトをお話しします。


 それはある週末のコトでした。

ガッコーはお休みです。今週は運良く宿題もありません。

「あ~、天国だわ…………………♡」

安っぽい天国だとか言わないで下さい。

現役高校生にとっては、マジで夢のような一時なのですから。

え、やっぱ私だけ? 

そ、そんなことありませんよ。

きっと他のクラスメートも同じ気持ちに違いありません!

と、とにかく週末をエンジョイです。

そう言えば、テレビで秋葉原に話題のケーキのお店が開店するとか言ってました。

超甘党の私がそれを見過ごすわけがありません。

意気揚々と出発ですが、駅で店のコトを聞いてみると、何とそのお店は、来週開店だということが分かりました。

ショーック! 

一気に週末のルンルン気分はジェンガのように崩れ去りました。

はいはい、どーせね、私はね、不器用ですよ。

もーほっといてください。

「よ~し、こうなったら………………」

アキバに来たからには、ついでに伊勢さんを冷やかしに行こうと思いました。

しかし、しか~し困ったコトに、どこのお店で勤務しているのかを、小狐丸に聞きそびれてたので、すぐに途方に暮れてしまいました。

いったいここに何をしにきたのやら、今さらながら自分の天然ぶりにビックリです。

このまま帰っても仕方ないので、オタクの町を銀ぶらならぬ、アキぶらに予定変更です。

そう言えば、深夜アニメの録画でBDの容量パンパンだったっけ! 予備を買っておかないと一大事です! 

確か裏路地に、安く古いタイプのBDを専門に特価で売ってるお店があったハズ! 

しかし、前に来たのがわずか半年前だったけども、超弩級方向音痴な私の方向感覚は、いつの間にか海上に出ているという年代物のGPS以下なので、案の定、道に迷ってしまいました。

目的地の店の場所どころか、今いる場所さえも分かりません。

分からないなりに、あいまいな記憶をたよりに路地を奥へ奥へ入って行くと、

「………………さらに迷ってしまった(汗)」

いい歳して、迷子になってしまいました。

それどころか、どちらに行けば表に出られるのかさえ分からなくなって焦ってます。

誰か助けてください(シクシク)。

まあ、少し歩けば広い道も見えるには見えるのですが、駅の方向も分からないし、やはり最初の場所に戻る方が懸命な気もします。

早くこの路地から脱出しないと、このコンクリートジャングルで遭難、数年後にミイラになって発見……………なんてことはさすがにないと思いますが、気分はダンジョンに迷い込んだRPGの勇者さながら、脱出アイテム探しです。

いえ、駅の方向が書かれた案内板を探しているのですが、不思議なものでこういうときに限って、なかなか見つかりません。

武器屋も魔法アイテムショップもありません。

アキバならそういった店も、ありそうな気がするのですが?

その代わりに、

(…………………………で、出た…………)

ラスボス級のモンスターが現れました。

狭い道のその先を、辺りを見渡しながらこちらに歩いて来るのは、先日、朝のニュースで私にだけ見えた殺人鬼の一人です。

鎧武者の方じゃなくて真面目そうなスーツの方です。

(な、なんでこんなタイミングでぇぇぇ? マジでヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!)

一見、普通の人のようですが、あの三人の中では間違いなく一番危険な人です。

そういった雰囲気だったのです。

(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ、斬られる斬られる斬られる斬られちゃう!)

脂汗ダラダラです。

その脂汗でお肌ツヤツヤです。いえ、ベトベトです。

このまま道を進めばイヤでも鉢合わせしてしまいます。

かといってここで道を戻っても怪しまれるだけです。

相手に見えていることを悟られないよう、進むしかありません。

私は明後日の方を見ながらハナウタを唄いつつ、相手を横目に道を進みました。

近づいて改めて顔を見ると、テレビ越しで見るのと違ってイケメン………………いやいやそうじゃなくってぇ。 

顔を、表情を見ると何か険悪っていうか、不愉快そうです。

何か気に喰わないコトでもあるのでしょうか?

そう思いつつ、何とか横を素通りしようとすると、

「おいっ、小娘っ!」

(ヒェッ!)

少し通り過ぎた所で、あの殺人鬼が振り向いて私に声をかけてきました?

「おまえ、私が見えているな?」

(ヒィ~ッ、見えてません見えてません見えてません!)

背中に悪寒が走りました。再び脂汗が溢れ出します。

もう脂汗ドバーを通り越して、冷や汗ブシャーです。絶体絶命ナッシー!

で、でも、何で見えてるって分かったのでしょう?

「………………………」

(……………………)

「あ、今川焼が落ちてる」

「どこどこどこっ? ………………あ!」

し、しまったぁぁぁぁぁぁっ!

何で、何で同じ手に何度も引っかかるんだ!

バカッ、私のバカッ! おバカさん日本一だおまえはぁぁっ!

「ひぃぃぃぃ~…………………」

恐る恐る振り返ると、例の殺人鬼は無表情で私を見下ろしています。

おバカな私を笑いもしていません。逆に傷つきました(悲)。

「な、何で見えてるって………………」

「見えていない者が、そんなに挙動不審な動きをするものか」

どうやら、知らないうちに態度に出ていたようです。

今思えば、冷や汗ブシャーはあまりに不自然だった気もします。

「そう案ずるな。何も見えたからとて斬り捨てたりはせん」

なんてコト言ってますが、しっかり腰の刀に手を添えています。

下手な態度を見せようものなら、きっとバッサリです(恐)。

「少し訊ねるが、確かこの辺り一帯は武家屋敷が多くあったはずなのだが?」

彼はさっきにも増して不愉快そうな顔でそう聞いてきました。

「ぶ、ぶ、武家屋敷……………ですか?」

そう言えば前に聞いたコトがあります。

近くに神田明神があって、鎮火社とか何とかが、どうとか? 

で、その跡地が秋葉の駅になったとかって、ああもう、超うろ覚えです。

「む、昔はあったそうですけど……………」

「そうか。この辺りもまた、ずいぶん変わってしまったものだな。まあ、徳川の治めた都がどう変わろうと知ったことではないが」

そう言うと彼は、振り返って去って行こうとしました。

「あ…………あの……………」

「何だ?」

「いえ……………」

(何であんなにたくさんの人を斬ったんですか)と、私は聞きそうになりました。

でも、聞かなくても彼の動機は小狐丸から聞いて知っています。

彼らにとってそれは紛れもなく正義なのです。

人に造られたとはいえ、人間のような邪な心がない分、心も魂もあちら側に、自然界側に近いのです。

「な、何でもありません」

「そうか」

彼は何もなかったように、そのまま去って行きました。

どういうわけか、いつの間にか恐怖心も失せています。

すると、

「いや~、小娘よ。おまえは勇気があるな」

「え?」

声がした方を見ると、若い侍の姿をした、また別の知らない刀の化身が、苦笑いを浮かべていました。

「え、あなたは………………?(惑)」

「ああ、そう気にするな。儂もおまえを斬る気などない。すでに別の刀に演武で負けておるしな。去る前にちと東京見物をしていたところだったのだ」

「は、はぁ……………………………」

聞けば、彼は備前(今の岡山県辺りだそうです)の刀で、名を元重さんというそうです。

悪い人ではなさそうで何よりです。

「でも、何で勇気があるって? やっぱ怖い人なんですか、あの人、いえ刀は?」

「いや、別にそういったわけでもないのだがな。ただ、あまりに高名でな」

「え?」

「ヤツは『石田正宗』だ」

「まっ、まさむ……………え、石田って?」

「石田三成のコトな」

「いっ、石田三成ぃぃぃぃっ?」

歴史ダメダメの私でも、石田三成の名前だけは知ってます。

PSの戦国ゲームでめっちゃ強い人です。

あ、実際は何をした人かはやっぱり知りませんが。

「重要文化財『石田切込正宗』。言わずと知れた大名人、相州正宗作の刀だ。正宗は自身の作に銘を刻むのは稀でな、今日では使用者の名前を添えて呼ばれる事がよくあるのだ」

なな何と、あの正宗の刀で石田三成の名前の合体技だなんて、まさにビッグネームのスパーコラボです!

フリーダム&ジャスティス、エクシア&バルバドス、もはやスパロボ対戦とでも言いましょうか?

大物です。超大物です。刀界のメカゴジラです。右投げ左打ちみたいなものです。

演武の優勝、決まったようなモノじゃないですか?

「今回は他にも、高名な刀が多く参加しており、我らとていったいどの刀が勝利をおさめるのかは見当もつかぬわ」

「そ、そうなんですか?」

どうやら私が知らないだけで、他にもすっごい名刀が、たくさんいるみたいです。

伊勢さん床兵衛さん大ピ~ンチ。

小狐丸とゴスロリは適当に負けて下さい。

「娘よ、我らが見えるのはいいとして、やはり我らとはあまり関わらない方が無難であろうな。普通の人間では危険だ」

「はぁ、肝に銘じておきます。それはそうと」

去り行く元重さんに私は念のために、

「ちなみに元重さんって、業物とかですか?」

と、聞くと彼は気恥ずかしそうに、

「一応、最上大業物に数えられているが」

とだけいい、そのまま去って行きました。

私はしばし彼の後ろ姿を見送り、頭の中を整理しなおして…………………、

「さ、最上って、ゴスロリと同格ぅぅぅっ?」

つまり彼も、正宗レベルに並びうる名刀ってコトです。

そんなすごい名刀が普通に敗退するとは、もしかしたら業物演武は、想像以上にとんでもない大会なのかもしれません。

「何だか今さら緊張してきた」

そもそも、あのゴスロリと正宗が同格ってだけでも信じられないというのに、他にもあんなのがウヨウヨいるのでしょうか?

イマイチ納得できないまま、私はその後、1時間がかりで駅を見つけて帰宅しました。

そして、秋葉の私がいた場所の近くで昼頃、万引き犯が斬首されたというニュースが放送されたのは、その日の夜のコトでした。

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