第16話 伍の2 アキバの陣 その弐

 私の知る限りでも、演武で十数人ほどの刀が敗退しています。

見かける数も、めっぽう減ってきました。

ですがやはりと言うか、残念と言うか、さすがは前回優勝のゴスロリはまだ勝ち残っているそうです。

床兵衛さんの話しによると、名前は忘れましたが、先週あたりから参加している、S、A、G、Aをやたら連呼する人が勝ちまくっているそうです。

あの殺人鬼三人も健在だそうで、何だか危なそうな連中ばかり残ってます。

そうしてまた一週間が過ぎました。

「と、いうわけで荒川、荷物持ちお願い!」

秋葉原の駅前、前回はとんだトラブルで買いそびれた予備のBDとケーキ、ついでに新作ゲームの予約のために来たのですが、偶然にも駅前で、ボケ~ッと突っ立っていた荒川の変態ヤローと遭遇しました。

どうせアニメのエッチなフィギュアか、ガンプラでも買いに来たのでしょう、ついでだから荷物持ちの役を与えてやることにしました。

しかし何故か荒川は不満そうです。

「何が、と、いうわけだ?」

「前に私のスカートめくったでしょーが! その許されざる大罪をチャラにしてやろーってんだから感謝しなさい!」

「げ、外道め……………(怒)」

もちろん、パンツ見た作者めは許しません。 いつか殺す!

まあ、てなわけで、変態を連れてアキぶらです。

まずはモチ、ケーキ屋直行です。

お店は開店したばかりで混んでいましたが、何とかお目当てのケーキを、ホールで大人買いできました。

でもって他の買い物済ませ、コンビニで買ったアイス食べながら歩いていると、

「にしてもおまえ、喰い過ぎだぞ」

大きな美少女フィギュア2体と、ガンプラらしきプラモ3箱(やっぱりかい!)に、私が買ったケーキとBDを両手に持って荒川が、ケーキの箱を見ながら毒づきます。

「いくら甘党の私でも、こんなには食べれないわよ。私が食べるのは3割くらい。残りは全部お母さんへの年貢としての献上品」

「悪代官かっ! でも、それだとおまえの親父さんの分はどうなる?」

「え? ナイフについたクリームで十分じゃないの?」

「親子揃って鬼だな」

「分かったよぉ。ホールの下の台紙に張り付いたスポンジもつけるよぉ」

「女ってこえーっ! もうスカートめくりませんから殺さないで!」

拝むように私に両手を会わせ、脅えるそぶりで言う荒川。

それをニンマリと笑顔で私は見下ろしますが、そこでふと、

(あ、今の私って傍目から見たら悪者?)

そう思うと、急に怖くなってきました。

もしも演武参加中の刀が見てたら、私を悪と見なしてバッサリやられかねないのです(恐)。

仕方ありません。ここはウソでも善人のフリをしなくては………(あ、やっぱ悪者?)。

「ま、まあまあ、今のは冗談だから、ね。ああそうだ。荷物持ってもらった代わりに、何かおごるからさ、ね、ね」

急にあたふたしながら私がそう言うものだから、荒川は余計に怪しそうな目をします。

「お、おまえ何を企んでるっ!」

「ええーっ、そ、そんな事ないよぉ。私は心の底から荒川を心配して………………(焦)」

「ち、超怪しいんだけど」

「怪しくない怪しくないっ!」

言いつつ、辺りに刀がいないか、キョロキョロ見渡すします。挙動不審さMAXです。

その様子を荒川は、痛い人を見る目、と言うより、かわいそうな人を見る目をしています。

(うあ、すっげーむかつくんですけど!)

幸い、近くに刀はいないようで助かりました。

荒川が私の過去の悪行を喋りださないうちに、さっさと始末、じゃなかった、帰宅です。


 その帰りに秋葉原駅の前で、私は久しぶりに小狐丸の姿を見かけました。

彼は何かを探しているのか、こちらに気付かず上野方面だから、え~と、北の方へと走って行きました。でもその表情は…………、

「あれ、ホントに小狐丸? あんなマジな顔も出来るんだ(驚)」

私のプリンやアイスを勝手に食べたり、何かと私をバカにする生意気な、いつものふざけた感じは微塵もありません。

一瞬、見間違いなのではないかと思った程です。

「お~い、どうした? 先行くぞ~!」

私の荷物を持って、先に切符を買いに向かった荒川が声をかけてきます。

小狐丸は気になりますが、荒川が人質のケーキを持っている以上、放っておくわけにもいきません。

去り行く小狐丸を何度か振り返って見送りながら、私も切符販売機に向かいました。

するとそこで、私の携帯に母からメールが届きました。

私は荒川に先に行くよう促して、メールの確認をします。

母からのメールは、1分以内に返事をしないと、後で関節技フルコースという罰ゲームが待っているのです。

メールの内容を確認しようと、あ、ちなみに私の携帯はガラケーです。パソも満足に使えないのだから仕方ありませんが(悲)。

『帰りにケーキ買ってこい!』

(承知しております、大殿様!)

『PS/買い忘れたら殺す!』

(ご、ご乱心を。切腹だけはどうか~っ!)

だいたいの内容は分かっちゃいたけど、やっぱ恐ろしかったそのメールに返事を送り、恐怖に頭を抱えていると、

「あれ?」

駅の方からこちらに向かって、一体の幽霊が飛んできました。

それもミサイルのような高速飛行でです。

今まで、あんなスピーディーな動きの幽霊なんて見た事ありません。

私の知る限り、幽霊の動きはだいたいスローモーションなものです。

忘れられた読者様もおられるかも知れませんが、私は霊感体質の女なのです。

幽霊とかお化けがバッチリ見える女なのです。

でもって狐とか狸とかカブトムシの幼虫にも取憑かれやすい悲しいさがの女なのです(シクシク)。

それはともかく、一体何事かとよく見れば、その幽霊は荒川にいつも憑いてた、背後霊のお婆さんでした。

背後霊は私を見つけるや、幽霊なのに必死の形相で、私を手招きしています。

何だか早くこっちに来いと言っているかのようでした。

「え、何事? そんなに急がなくても、電車なんて何本も来るから、乗り遅れるなんてコトないのに……………………???」

ワケが分からないまま、私は背後霊に促され、駅の中に走って行き構内を見ると、

「あっ!」

あの超危険人物、石田さんとこの正宗が、抜刀して歩いています。

今はステルス状態なので、他の人には彼が見えません。

「いったい誰を………………まさかっ?」

正宗が向かう先を見れば、ホームでゲームかメールでもしているのでしょう、携帯をいじくっている荒川の姿が。でも、何で?

『車内では携帯電話の電源を切るか…………………』

別のホームの電車からアナウンスが聞こえます。

まさかそのことを正宗は怒って?

たしかに電車内での携帯使用は、心臓に病気のある人のペースメーカーに異常をきたして、人命に関わる事もあると聞きます。

見方によっては、立派な殺人未遂です。

いえ、でも荒川がいるのは車内ではなくホームだし…………でも思い起こせば、前に彼が車内で携帯を使っているのを見た事があります。

他にもそういった輩をよく見かけます。

ってぇ、そんなこと言ってる場合じゃありません! 

正宗はもう、荒川の目の前に立って自分自身を、刀を振り上げているのです。

「荒川っ!」

「?」

「伏せっ……………いや、Hな本落ちてる!」

「え、どこどこ?」

伏せろと言っても、あのバカが理由も分からずに、言う事を聞くわけありません。

荒川の性格から、私が咄嗟に考えたウソです。

我ながら『グッジョブ!』です。

荒川は私のウソとも気付かず、情けない顔で慌てて足下に目をやりました。やっぱバカです。

一方、急に荒川が前屈みになったものだから、正宗の一太刀は空振りして、荒川のすぐ後ろにあった支柱の一本を両断しました。

「え、え、えっ……………?」

鉄筋が切り裂かれ、コンクリートの断面がこすれる音に荒川はワケが分からず、呆気にとられています。

ホームにいた他の乗客も、同じような顔で辺りを見渡していました。

全員が状況を理解するのに数秒かかったほどです。

『うわああああああっ!』

いち早く、辻斬り事件と悟った誰かが叫ぶや、構内はパニック状態になりました。

「荒川っ、こっちこっち!」

「あわわわわっ!」

慌てふためきながらも、私のケーキと自分の玩具を持って、荒川は私の方に逃げてきます。

玩具はともかく、ケーキを捨てて来なかったところは、なかなかに天晴れなヤツです。

後で褒めてつかわす事としましょう。

「い、いったい何事???」

「辻斬りだよ、バカッ!」

未だにまだよく事態を、理解しきってなかったバカに蹴りを入れ、駅の外に促します。

正宗を見ると、こっちを恨めしげに睨んでいました。

(ひぇぇぇぇっ!)

私は荒川の手を引っ張って、今にして思えばどこをどう走ったのか、駅近くのビルとビルの間を走り、どこかの路地裏奥の、殆ど光の届かない場所に逃げ込んでいました。

「何で駅の柱があんなことに???」

「だから辻斬りだっつうてるでしょ!」

荒川の頭にチョップを打ち込みながら言いますが、本人はまだパニクっているのか、私の攻撃を受けるままのサンドバッグ状態です。

やっぱアホです。最上大業物級のアホです。

「つ、辻斬りって、誰も見えなかったぞ?」

「見えてたら、とっくに目撃者の一人もいたでしょうが! 普通の人には見えないのよ」

「え、え?????」

「だ~っ、もう、このアンポンタンめっ!」

昆虫レベルの知能の彼に理解できるとも思えませんが、ダメもとでバカに説明します。

「辻斬りの犯人は、魂が宿った日本刀の化身なのっ。前にも言ったコトあると思うけど、私は幽霊が見える。霊力とでも言うのかな、私のような特殊な目を持った者でないと、連中の姿は見え……………、ナニ、その哀れむような視線は?」

「いや、お前、頭でも打ったか?」

「だーっ、もう! だから言いたくなかったのよ。モノホンのバカにそういった目で見られると、超ムカつくんですけどぉ!」

「ああ、まったくだ。実に腹立たしい」

「…………………え?」

その声に、私は硬直します。

間違いありません、あの正宗です。

逃げ切ったつもりでしたけど、ずっと追いかけて来ていたのです。

声がした方、逃げて来た道の方を見ると、怒りの形相で彼は抜刀して、こちらを睨み据えていました。

しかも、人目がなく、私には見えていると分かっているからでしょう、荒川にも見える可視化モードになっていました。

「だ、誰???」

薄々は分かっているのでしょう、荒川が声音を震わせ聞いてきます。

こうなると男のくせに情けないとも言ってられません。

もはや私達のようなトーシロにも分かるくらいに、彼の殺気で全身に鳥肌が立っていたのですから。

「小娘、きさまがその咎人をかばうのであれば、同罪と見なして斬らねばならんな」

「………………………」

言い訳の一つも言いたいところですが、恐怖で声も出ません。

(こ、殺される………………)

恐らく隣の荒川もそう思った事でしょう、見なくても彼の緊張と震えが伝わってきます。

「安心しろ。痛みを感ずる暇もなかろう」

いつの間にか正宗は目の前に立ち、刀を振り上げていました。

無意識に私と荒川はお互いの手を握り合って肩をすぼめ、身体を硬くします。

もう最期と諦めかけたそのとき、

「おかえりなさいませ、ご主人様ぁ~っ!」

何だか間の抜けた、それでいてどこかで聞き憶えのある声がしたかと思うと、金属と金属がぶつかり合う音が路地裏に響きました。

「え?」

顔を上げて見ると、目の前にレースのフリフリがついたピンクのスカートをたなびかせた、こんな路地裏に似付かわしくないメイドさんがいました。

片手に巨大パフェを乗てた盆を持ち、もう一方の手に持った刀で、私達に振り下ろされた正宗の刀を受け止めた彼女は、

「い、伊勢さんーっ!」

ソボロのお爺さんと演武に向かって以降、何の音沙汰もなかった伊勢さんでした。

小狐丸から聞いてはいましたが、まさかホントにメイドさんをしていたとは(驚)。

それにしても、なかなかに可愛い衣装じゃないですか。センスいいぞ店長さん。

可視化していて、その姿を見れた荒川も自身の危機を忘れ、目をハートにして「萌え~っ」とか恥ずかしいコトを言ってるくらいです!

いやいや、そうじゃなくって…………………、

「な、何でココに?」

「いや、バイト先がすぐそこなもんで」

相変わらず病人のような顔で、申し訳なさそうに言う伊勢さん。まあ何はともあれ私達は彼女に助けられたのですが…………、

「何のマネだ?」

もしも私が伊勢さんの立場だったら、マジでチビりそうな恐ろしげな声音で、正宗が伊勢さんを見据え言います。

でも伊勢さんはあっけらかんと、

「まあ、知人のピンチを無視するのも何なので。でも、男の方は知らないヤツなんで、斬ろうが突こうがどうぞご自由に♡」

つ、冷たい! 

さすがは金属製。ハートも鉄で出来ているのでしょう、荒川のコトは別の意味でバッサリ斬り捨てです。

しかしバカでも知人でパシリの荒川を、私までが見捨てるワケにはいきません。

何とか彼も助けてくれるよう言おうとすると、

「伊勢さん………………」

「いいから」

「え?」

伊勢さんは私達に、早くここから去れと、手を振って合図をしてくれてます。

そして正宗に刀の切っ先を向けました。

彼女は正宗に演武を挑んでいるのです。超カッコイイです。

それに対して荒川はというと、もう辻斬り犯のコトを忘れたように、「誰、誰、彼女?」とか間抜けなコトを私に聞いてきます。

正宗に代わって私が斬り刻んでやりたい気分ですが、

「いいの? いくら何でも相手が悪いよ。あいつはあの正宗なんだよ!」

「よ~く知ってる」

誰もが知る超有名な名刀の名を聞いても、伊勢さんは少しも臆するコトはありませんでした。

それどころか、あの死んだ魚のような目からは、とても信じられないような、挑戦的な勇ましい眼光を放っています。

そしてそれは、正宗の方も同じでした。

「よかろう」

正宗も切っ先を伊勢さんに向けて不適な笑みなど浮かべ、ターゲットを荒川から伊勢さんにロックし直したようです。

「丁度よい機会だ。貴様とは前々からケリをつけたかったところだしな」

「そりゃどうも~」

真顔ながらヘラヘラと答える伊勢さん。

「ど、どういうコト???」

「ああそっか。私のホントの名前、まだ言ってなかったっけ」

「?」

「アイツと、正宗と名前が少~しだけ似てるから、よく混同する人がいるんだよね。彼はそれが気に喰わないんじゃないかな」

「………………そ、それって?」

その問いに答えたのは、相手の正宗の方でした。その名前とは、

「伊勢の、伊勢の千子村正っ!」

「ムラ……………マサ???????」

しばし硬直する私。

何かイメージがずいぶんと違う伊勢さん、もとい、村正さんの実像に脳がついていけません。

実は『村正』という刀の話しも、前に床兵衛さんから聞いて、多少なりと知っていたのです。

そう、『妖刀・村正』の逸話です。

いかにも恐ろしげな、妖怪の呪いでも憑いているかのように思われていますが、実は昔、徳川家の人が何人か、村正の刀がらみで被害にあったとかで、将軍家に仇なす刀だと、そんな呼び名が付けられたらしいのですけど、実はそれは後々の作り話で、ホントは少しも呪いとか何にも関係ないそうなのです。

にも関わらず『妖刀』とか呼ばれて、何かと白い目で見られているそうな?

そう言えば、初めて伊勢さんと会ったときにも『昔っから変な悪口言われて…………』とか何とか言ってました。

(伊勢さん…………………)

私は最後に一声かけようと思いましたが、幽霊さえ見える私にも見えない、覇気とでも言うのでしょうか、何かしらの圧力に気圧されて何も言えませんでした。

今の私に出来るコトと言えば、伊勢さんの邪魔にならないように、荒川を連れてこの場を去ることくらいのようです。

私は伊勢さんに感謝と礼を込めて頭を下げ、バカで邪魔者の荒川の首根っこを掴み、この路地裏から脱出しました。

その直後、さっきまでいた場所から、刀と刀がぶつかり合う金属音と、両者の気迫が熱風となって私の背中を襲って来たかと思うと、近くのビルがゆれ、パラパラと砂埃が落ちてきました。

それだけではありません。

まるで伊勢さんと正宗両者の闘いに呼応するかのように、辺りで別の刀達の演武が始まってしまったようです。

きっと名刀同士の演武とあって、影響されたのでしょう、私がいる場所から見える範囲内だけで、三組の刀が演武を始めました。

あちこちで金属音が響き、火花が散って建物や看板、車が斬り刻まれていきました。

「ひええええ、まだこんなにいたぁぁっ!」

「なな、何だーっ! ア○ンジャーズか?」

頭の中が電波の荒川、いえ、このアキバ一帯には同族がたくさんいるからでしょう、似たような悲鳴が四方から聞こえます。

その悲鳴も、決して「キャー」とか「助けてーっ」とか言わないあたりはさすがです。

アホの戯言を無視し、早くこの場を去るために、私は近くを通りかかったタクシーを呼び止めました。

痛い出費です。帰りにドーナツ買うの、中止にしないといけません。とか思った次の瞬間、

「っ!」

私達の前で止まったタクシーが2台に増えました。ってか、2台になってしまったのです。

バッサリと両断されたタクシーの向こう側に目をやると、鎧武者が二人、あの正宗と一緒にいたタイガース&クマ○ンがいました。

もちろんステルスモードです。

(ま、まさか正宗の代わりに私達を?)

再び大ピンチです。

でも、伊勢さんに助けを求めるコトなんてできません。

「ななななな……………何だぁぁぁ?」

突然目の前で、桃太郎の桃のように真ん中からパックリ割れたタクシーを見て、さっきの駅の柱や正宗の迫力を思い出してか、完全に腰を抜かした情けない荒川と、それ以上に情けなくちょっぴりお漏らししてしまった私は、またも身動きがとれなくなりました。

ですが、そのとき私達と鎧武者の間に助け舟が、立ち塞がりました。

「し、床兵衛さん……………と、ゴスさん」

ダブル虎徹の登場です。

「誰がゴスさんだ誰がっ!」

「ひぃぃぃっ、すんませーん」

見えない相手に謝る私に、荒川は再び私に変な視線を向けています(心底怒)。

しかし今は、アホに構っているヒマはありません。

「勘違いするなよ小娘」

「は?」(え、助けてくれるんじゃないの?)

「歯ごたえのない相手ばかりで、腕が鈍りそうだったのでな。丁度いい手合わせが出来そうな相手だったので出て来たまでだ」

「は、はぁ?」(そんなスゴいのあの二人?)

「胴田貫正国と清国。名高き実戦刀の実力、しかと見せてもらおうではないか」

「キツネにカラスに、今度はタヌキって、どこのムツゴローですか?」

「いや、そのタヌキじゃないから。よく言われるけど」

ゴスロリと床兵衛さんは刀を抜いて、例の二人に切っ先を向けました。

「行けっ」

ゴスロリが私達に、逃げるよう顎で促します。

私は頷いて、一人蚊帳の外の荒川の手を引いて、急いで逃げ去りました。

何とか他の演武の巻き添えを喰わないよう、辺りを注意しながらアキバを離れます。

とは言え、どこまで逃げれば安全なのやら?

そこでふと、さっき小狐丸を見かけたコトを思い出しました。

(そ、そうだ。一応アイツもそこそこ強いハズだし、アイスやプリンの貸しもあるから、もしものときは助けてくれるかも?)

そう思い、小狐丸の向かった方、北に向かうコトにしたのですけど、

「ねぇ、北ってどっちだっけ?」

「は?」

方向音痴『レベル4』の私は、事情を知らない荒川に聞いて、小狐丸の後を追いました。

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