第9話 弐の5 ローカル対決
あの後、母からたっぷり説教を受け、私は年甲斐も無く半泣きで詫びました。
小狐丸と出会ってからというもの、私はホント不幸続きです。
誰です? 普段の行いが悪いんだろ、とか言ってる人は?
まあいいです。情けないけど、バカにされるのは慣れっこですから(シクシクシク)。
とにかく気を取り直して話しの続きを………「うぐっ!」
ふふふ、さっきはよくも蹴飛ばしてくれたな、この愚かな主人公め!
(さ、作者、な、何を? 何、このハンカチは???)
お返しに、危ないサイトから入手したクロロホルムでしばらく寝入っててもらおうか。
(お、おのれ〜、ま、負けるかぁぁぁ………ZZZZZZZZZ………ムニャムニャ、もう食べられないよぉ〜)
早っ! しかもベタな夢見てるし?
まあいい。今のうちにさっき読者様に話しそびれた、備前刀の魅力についてたっぷり語らせてもらおう。
読者の皆々様方にも一時間ばかりつき合ってもら、え? もうページがない? そろそろ第参章に突入?
し、仕方ない。 備前刀の話しはまた今度ということにして、残ったスペースであのローカル名刀の話しをしましょう。
{滋賀県、某山中}
東に向かう二人の忠吉の前に、一人の大男が立ちはだかる。
色黒で身の丈六尺を上回る、ガッチリした体格。
しかし何より、その見た目以上に辺りの空気を震わす強大な覇気が、この名刀の素性を物語っていた。
「越前の康継……………………だな?」
「いかにも。待っていたぞ、肥前の忠吉」
そう言って大男、康継は抜刀して切っ先を二人の忠吉に向けた。
(越前康継)
元は越前下坂と名乗っていたが、徳川家康に刀匠としての腕を認められ、家康より『康』の一字を賜り『康継』と名を改めた名工である。
「今までの腕試しとは違うな。しかし、ならばこの場でやり合うわけにもいくまい。演武は東京で…………………」
「演武は関係ない。私は貴様を斬るため、ここで待っていたのだ」
同時に康継の覇気が、殺気を重ねて増大した。
「はて、恨みを買った憶えはないが?」
初代忠吉も抜刀して答える。
不本意ながら、肩ならしはここまで来る間に、何度も済ませている。
しかも元々が実力のある名刀なだけに、突然戦いを挑まれても落ち着いたものだ。
睨み合う事しばし、視線が重なった刹那に両者はほぼ同時に動いた。
次の瞬間、二人は刀身を交え火花を散らした。
一撃、ニ撃、辺りに金属音が響く。
彼らの姿が見えない普通の人間には、何事かと思えたことだろう。
見えずとも、強烈な覇気と殺気を感じて、近くの木に止まっていた野鳥が一斉に飛び立って行った。
「ふふ、なかなかやるではないか。今までの手合わせとは全然違う」
「殺す殺す、折ってやる折ってやるっ!」
「………………………?」
康継の殺気には違和感があった。
そもそも、今まで殆ど会った事もない相手だ。
ここまで恨まれるようなことを、何かしたのだろうか?
「つかぬことを聞くが?」
鍔迫り合いのまま、忠吉は聞いた。
「何をそんなに怒っている。ひょっとして、恨む相手を間違っているのではないのか?」
「きさまに間違いないっ! 肥前忠吉っ!」
「肥前がどこか知っているか?」
「九州は筑後の西、今の長崎と佐賀一帯」
佐賀を知っている者がいたのは喜ばしいが、この状況ではそうも喜んでもいられない。
康継は何やら怒りに刀を握る手を震わせている。
いったい何に怒っているのだろう?
「我が作者は元は生国、近江(滋賀県)の下坂から名を取って越前下坂を名乗っていた」
「……………………それで?」
「滋賀と佐賀。まぎらわしいだろっ!」
「そんだけの理由かぁっ?」
「黙れ黙れっ! きさまに分かるか? 近畿の水瓶と言われながら、隣県の京都や奈良に比べ、マイナーな県の惨めさがっ? なのに似たような名前のせいで、ますます存在感が薄くなってしまった」
「バカやろうっ! 佐賀だって、佐賀だってなぁ、福岡と長崎ばかり目立って、何もない所だと思われてるんだぞ。県の魅力度ランキング九州最下位だ、くそ!」
「それが何だっ! 滋賀は雨が数日続くと琵琶湖の水位が上がり、陸地面積が半分になってしまうと言われているのだ(嘘です)。高校野球部も場外打ったら、ボールが湖に沈んでしまうから、本気で練習できず、甲子園で長年優勝お預け状態だ(それが理由か?)」
「佐賀は九州新幹線も通っていないし、高速道路や鉄道は通っていても名前は何故か長崎自動車道に長崎本線だ。国土交通省もJRも、佐賀県を無視していやがるっ!」
両者共、何かを言う度に虚しさを感じ始めていた。
「ちくしょう………、佐賀はな、佐賀はなぁ………」
「よせっ、聞いてる方が悲しくなる」
いつしか刀を持つ手が震えていた双方の間に、三代忠吉が入った。
「そうか、佐賀も大変なんだな……………」
「分かってくれたか?」
手と手をとる二振りの名刀達。
その後、何故か二人の間に、妙な友情が芽生えたのだった。
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