参 バカ、逆恨みする

第10話 参の1 キツネVSカラス

「むにゅむにゅむにゅ……………、ふごっ! わ、私のイチゴショートォッ!」

………………………って??? あれ? え? 夢?

ま、まさかケーキバイキング年間フリーパスも、バスタブプリンも、カステラベッドに生八つ橋布団も全部?

「な、何てこったぁぁぁぁぁぁっ(大絶叫)!!」

いや、まあ、あまりに出来すぎた話しだとは思ってました。

そんな美味しすぎるコトがそうそうあるわけがないのです。

いくら最近、不運なコト続きだからって、神様もそこまで私を甘やかしてくれるわけありません。

小狐丸にいじめられたり、生首飛んできたり、作者に眠らさせられたりとか、その程度の不運は、読者に皆様だって人生に一度や二度くらいは………、

「あっ!」

そ、そー言えば作者のヤツ、私が気を失ってる間に、何かやらしいコトしたりはしなかったでしょうか?

胸触ったりとか、パンツ見たりとか、そ、そのパンツ脱がして………(想像→赤面)キャーッ!!

あ、あのヤロー、後で殺す(怒💢)。

どーせあの変態のコトです。 またしゃしゃり出て来るに違いありません。

そのときに、改めてとっちめてやることとして、今はあいつのいない間に、話しの続きをしましょう。


 小狐丸が姿を消してから3日が経ちました。

伊勢さんもあれっきり姿を見ていません。

辻斬り事件もあの後で何度か、都内や近郊で起こっています。

被害者はやはり何かしらの凶悪事件の犯人です。

(罪人を罰するのは当然のコト)

伊勢さんはそう言ってました。

ソボロのお爺さんや、他の刀達も同じ考えなのでしょう、どうやら刀達は、業物演武のついでに、悪人狩りをしているようです。

天罰覿面と言う人もいますが、江戸時代じゃあるまいし、いくら罪人でも打ち首はやりすぎのような気も、しないではありません。


 不思議なもので、先日ゴスロリと床兵衛さんから聞いた刀の歴史の話しは、まだ頭の中にしっかり残っていました。

すぐに忘れてしまうと思っていたのですが、今なら刀に関するテストが授業で出ても、満点がとれそうな気がします。

学校卒業したら、代々木の『刀剣博物館』にだって就職できそうです。

その道に進む気はありませんが。

んで、そんなある日のコト。夕食前に自室で休んでいると、

「敦子~、今夜はハンバーグだよぉ」

母の言葉に、思わずよだれが溢れそうになりましたが、すぐにあの斬首事件の記憶が脳裏に過り、よだれが吐き気に変わります。

マンガとかに出てくるような、超ど天然なヒロインとは違います。

食欲に流されて、あの事件を忘れる程、私はおバカさんではないのです。


「あ~、喰った喰った。満腹満腹♡」

夕食、おいしくいただきました。

やっぱり母の手作りハンバーグの味はなかなかです。

おそらく玉葱と肉との比率がいいのでしょう、超甘党の私でもこの味だけは………………は? 肉は喉を通らないんじゃないのかって? 

無茶を言ってはいけません。

お腹はジッとしてても空くのです。

ご飯を食べないと死んじゃうじゃないですか!

何よりうちの母は、食べ物を祖末にすると、すっごく怒るのです。

食べないと、今度は私が明日の夕飯にされかねせん。

ですから私も気乗りしませんが、仕方なく、そう、仕方なく渋々完食したのです。

ご飯のお代わりも、3杯までしかしませんでした。

お父さんが仕事で帰宅が遅くなるとのことなので、お父さんの分も私がありがたくいただきました。ごちそうさまです♡

「ほら、やっぱりね」と言う、読者様の声は聞こえません。気のせいです、気のせい。

 まあ、バカなこと言って今までと同じような生活を送っている私ですが、伊勢さんのことが頭の中から消える事はありません。

ご飯を食べてても、ずっと気にはなっているのです。

こうやって夕食を終えて自室に戻れば、ひょっこり窓の外にいるのではと、ここ数日、何度も外に目をやっていました。

もしかしたら、今日こそ心配させた私に挨拶とばかり、また赤福とか持って来てくれるのでは、とか思って…………………いえ、別にお菓子が目的ではないですよ。

き、決まってるじゃないですか………………、私は心の底から、彼女の身を心配しているのです。

ですが、世の中は思った通りに進まないもので、自室に戻ると、

「んなっ?」

ベッドの上に、見覚えのある人影がいました。

「小狐丸っ!」

いたのは心配してた伊勢さんではなく、私からプリンを奪った、あの憎ったらしい悪戯狐です。

しつこいと言われるかもしれません。

ですが前にも言いましたが、食べ物の恨みは怖いのです。

いったいどの面下げてと、文句の一つも言いたいところだったのですが、何故か彼はベッドの上に突っ伏して、死んだようにピクリとも動きません。

さすがに私も心配になってきました。

「あの~、もしもし。そこ、私のベッド……………………」

「う~ん」

数日前とは別人のように、彼は弱々しい声でうめき声をあげます。

「………生きてます?」

「うう~ん、ああ、現役女子高生のニオイが………………………」

「ど、ど変態かぁぁぁぁっ!」

何の事はない、悪戯狐でもオスはオスでした。

布団に顔を埋め、歓喜の声をあげる彼に、私は母直伝の踵落としを喰らわそうとしましたが、彼はそれをヒラリとかるく躱し、一方、標的を失った私の踵は布団にめり込みます。

布団とはいえ、本気で蹴ったのでマジで足が痛かったです。

「ぬぉぉぉっ! 曲がった曲がった、膝が一瞬反対側に少し曲がったぁぁぁっ!」

この世の終わりのような悲鳴をあげて、悶絶しながらベッドの上に腰を下ろすと、そこに私の足を膝枕に小狐丸が横になってきました。

「ひゃっ! な、何をするんですかぁっ!」

「いや、ゴメンて。マジで疲れてっから、少しの間だけ休まして」

言って彼は、ホントに気持ち良さそうに目をつぶって寝てしまいました。

「………………んっとに、もうっ(少怒)」

払い落とすのも気が引けたので、しばらくそのまま寝かしてやりました。

ですが、こうしていると不思議とあまり悪い気はしませんでした。

私自身、最初は小狐丸をイケメンと思っていたコトもあり、こうしていると何だか、お互いいい関係になったようで、何だか少し気恥ずかしい気もします。

小狐丸は疲れていると言ってました。

最初はまた私を騙そうとしているのだろうと思っていましたが、膝の上で休んでいた彼の表情は、だんだん安らかになっていきます。

どうやら本当に疲れていたようです。

ですが私だって気になる事が幾つもあります。

寝ている所を申し訳ないのですが、私は彼に小声で問い掛けます。

「ねぇ…………………」

「うん?」

「今まで何してたのよ?」

「聞いてなかった? 業物演武やってたんよ」

「いや、だって3日も経ってるし?」

「相手が強ぉてなぁ、すっかり長引いてしもうたんよ」

「うそっ、マジであれからずっと、チャンバラしてたの?」

「いやぁ、さすが有名な名刀なだけあるわ。でも、背中に刃付いてるなんて反則やと思わへん?」

「何の事?」

「小烏丸、パねぇ!」

「は? カラス? あなたの親戚か何か?」

「ほ乳類と鳥類が親戚なわけないやん」

「いや、そうじゃなくって、刀でしょ。造った人が同じだとか?」

「いやいや、作者は別人だけど」

「はぁ、それにしても似た名前だね」

小狐丸vs小烏丸ですか。

よく分かりませんが、どうやら狐とカラスが数日に渡ってケンカをしていたようです。

動物同士、仲良くすればいいのに。

でも「背中に刃」の意味が分からなかった私は、小狐丸を膝枕したまま、ベッド脇の机の上で埃をかぶっていた、中学入学祝いに親戚のおじさんが、そう、私が狐に憑かれてパン一で近所を走り回ったと、ウソを言ったおじさんが買ってくれたパソコンの電源を入れ、ネットで「小烏丸」を検索しました。

両手の人差し指でチョンチョンっと、たっぷり1分かけて文字入力を、ええ、ブラインドタッチなんてできませんよ。すみませんねぇ。

それで調べてみると、背中に刃の意味が、ようやく分かりました。

普通は片側だけに刃がある日本刀ですが、この刀は刀身の中頃あたりから切っ先にかけて両刃になった、鋒両刃きっさきもろは造りという、珍しい形式の刀だったのです。

さらに備考を見ると、長々とこの刀の歴史が記されています。

歴史社会のテストで30点以上とったことのない私は、歴史年表を見ただけで体調を崩す特異体質です。

ちなみに他の学科でも同じようなものです。

頭を使ってはいけない人なのです。

勉強できないおバカさんではありません。

これもきっと遺伝です。

そういう病気なのです。

とはいえ、やはり気になるので、その備考の説明文の所々を飛ばし飛ばし、ワープしながらも決死の覚悟で読んで行くと、何やら『桓武天皇』とか『平貞盛』とか、歴史ダメダメ人間の私でも聞いた事のあるビッグネームが、いえ、何をした人かは知らないのですが、そんな名前がチラホラ記されています。

その他の説明も……………………あっ、ヤバッ! 

珍しく勉強っぽいコトしたから、お腹がだんだん痛くなってきた。これ以上読み続けたら命に関わります。

とはいえ、備考の中の『御物』との文字が気になった私は、恐々クリックして説明文を開きました。

どうやら国宝とか文化財とかといった意味のようです。

こっちも飛ばし飛ばし読み続けると、今度は『皇室』とか『宮内庁』とか、恐れ多そうな文字が………………………、

「なななななっ?」

本能的に(まずいっ!)と直感した私は、無意識に膝の上の小狐丸を放り投げました。

小狐丸はキツネのくせに、ネコのようにニャンパラリンと、空中で3回転して見事に床に着地しましたが、追い打ちの私のキックが炸裂! 

彼はマンガの1コマのように、吹っ飛んで壁に張り付きました。

「ななな、何するんっ?」

「何じゃないっ! あんたとんでもないコトしたんじゃないでしょうねっ?」

「は?」

「あんたが倒したカラス君は『オムツ』だったんでしょっ!」

「オムツ違うから、『ごもつ』または『ぎょぶつ』やから」

「ど、ど、どっちでもよろしいっ」

「よくねーよ。それより姉ちゃん、顔紅いよ」

「と、とにかく相手は国のお宝のようなものでしょーがっ! そんな相手に傷とかつけたりしなかったのか、って聞いてるのよっ!」

「そんなコト言うても、チャンバラするのが僕らの仕事やから、傷つくのは仕方ないよ」

「黙らっゃいっ! このバチ当たりがっ!」

「僕かて、伝説級の代物なんよ」

「え~いっ、誰が信じるか、あんたみたいな軽いヤツの言うコト!」

「そりゃ軽いよ。いくら鉄で出来てるからって、体格が体格やから2キロないし」

「う、うらやましいヤツ…………って、じゃなくて、いい加減な性格って意味っ! あんたがそんな凄いわけないでしょ!」

「ホントやて~」

「お黙りっ!」

するとそのとき、部屋のドアがバタンッ、と開いたかと思うや、

「おまえが黙れぇぇぇっ!」

飛び込んで来た母のラリアートが私を直撃!

勢いでさっきの小狐丸のように、私も吹っ飛んで壁に張り付きました。

「さっきから何一人で騒いでんのっ! ご近所迷惑でしょっ!」

「ひぇぇぇぇぇっ…………………だ、だって小狐丸がぁぁ~」

「キツネ????」

怪訝顔で室内を母は見渡しますが、今は普通の人に見えないステルスモードの小狐丸が、見えるわけもなく、

「何言ってるの! 誰もいないでしょ!」

「いでででで……………」

私の頭のてっぺんに、ビシビシとチョップを打ち込みながら母は言います。

打ち込まれる度に、背が縮んでいきそうです。

母に見えないのをいいことに、小狐丸はそんな私に「アッカンベー」をしていました。

(ううっ、おのれぇ~。いつか泣かす)

涙目で私はそう心に誓いました。

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