第18話 伍の4 フォレスト………ではない

小狐丸は一歩前に出て一呼吸つき、その名を、お爺さんの名を呼びました

「木下藤吉郎…………、いや、現代ならば太閤、それとも豊臣秀吉と呼ぶべきっすかね?」

(な、何ですとぉぉぉっ!)

意外すぎる超超超超超超弩級大物の御名前、キターッ!

ビ、ビッグネームにも程があるでしょっ!

さすがに、さすがにこの御人だけは、私でも何した人かくらいは知ってます。

草履暖めて天下とった人です。 何でそれで天下とれたのかは謎ですが?

にしても、この場に学校の歴史の先生いたら卒倒もんだよ。イヤ、マジでっ!

驚いて飛び退いた私は、座布団荒川をそのまま秀吉公に献上です。

土地を五万石ほど下さい。

「何故、このような催しを?」

「分かっているとは思うが?」

おおよその察しはつきますわ」

「では、そういうことだ」

「仕方のないお方やねぇ」

小狐丸は、何と罰当たりにも秀吉公に切っ先を向けました。

ここに家臣の誰かがいたら、大激怒確実です。

島流しどころでは済みません。

打ち首か種子島で銃殺ものです。

「やめなさいっ! 第一、この方は刀の化身では…………………えっ?」

小狐丸を止めようと、私が間に立とうとして秀吉公を見ると、秀吉様(さっきから尊ぶような言い方をしていますが、別に家臣の血筋とかってワケでもありません。ただ長いものにグルグル巻きされてるだけです)のすぐ背後から、まるで空間に溶け出すように、別の人影が現れあした。

「ス、スタ○ドォォォッ?」

気のせいか、『ゴゴゴゴ』って書き文字とか見えそうな気がしました。

その人物は秀吉公とどこか似たような、初老の老人の姿をしていました。

目つきも優しくて、悪人そうには見えません。

見えませんが、こっちは間違いなく正宗と同じく刀の化身です。

しかも今までの経験からして、かなりの業物だと直感できました。

どうやら私の前世の記憶か才能のようなものが、少しばかり呼び起こされたみたいです。

「あ、あの刀って…………………?」

戸惑いながら小狐丸に聞きました。

「御物『一期一振』やね」

「えっ、フォレスト・ガンプ?」

「いや違うから。言うと思ったけど」

呆れ顔で言う小狐丸。(←怒)

『言うと思った』って、遠回しに私をバカにしている証拠です。

やっぱ失礼なヤツです。

「あの刀は正宗と並ぶ天下三名工の一人、粟田口吉光の作や。秀吉公の愛用品だけあって、主に貫禄とか雰囲気とか、何との~似とるね」

「………………………」

「秀吉公は戦国武将随一の刀剣オタクでな、今なら国宝級や重要文化財級の刀を、数多く所蔵していたそうや。正宗を有名にした張本人だけあって、見る目も確かやったようやね」

「いやぁ、それほどでも……………」

小狐丸のお世辞に、気恥ずかしそうに照れ笑いの秀吉公。

偉人のお茶目な一面発見です。

小狐丸は一期一振を気にしつつ、私にも分かるように、そして秀吉公に、確認するかのように言いました。

「あなたは死んでも尚、最強最高の刀を探し求めた。それが業物演武を催した切っ掛け。しかし参加したのは、いずれも甲乙付けがたい名刀ばかり。たとえ一回覇者となっても、次回で敗退することもあったやろうし、なかなか真に最強の刀を見出すには至らなかった」

「………………………」

その話しを黙って聞く秀吉公と一期一振。

その表情を見る限り、どうやら小狐丸の言うコトは図星だったみたいです。

「分からんのは、何で今回に限っては百年以上もの長い休止期間があったか? それまではせいぜい数年ごとにやってたのに?」

「ふむ、その事か」

秀吉公は座布団荒川の上で、座る姿勢を直しました。座り心地がイマイチのようです。

座布団代わりにもならないとは、何て役に立たないアホでしょう?

「徳川の世になっても、最初のうちはまだよかった。まあ、あのタヌキめに天下を取られたのは不愉快ではあったがのぉ」

(え、またタヌキ?)

(徳川家康のあだ名が狸親父やったんよ)

小声で小狐丸が教えてくれました。

そう言えば前に時代劇で、秀吉公のコトを誰かが猿って呼ぶシーンがあったような……………?

キツネにカラスにタヌキにサルって、もう戦国時代というより野生の王国です。

気を取り直して、サ………………い、いえ、秀吉公は話しの続きを(ごめんなさいごめんなさい、いえ、マジですんません! 悪気はなかったんです。つい勢いで言いそうになっただけです。信じて下さい!)始めました。

「最初のうちは、まだ刀の質はよかったが、泰平の世が長く続くにつれ、戦から遠のくにつれ、刀は見た目ばかりで実用性を失った、鈍らばかりになってしまった。

いっそ、演武そのものを中止することも考えたが、そんなある時期、戦国時代の名刀達を彷彿するような、素晴らしき名刀と出会う事が出来たのだ」

仰ると、恐れ多くも心から敬愛いたしまする秀吉様(ホント、マジですんませんって!)は、私を指差しました。

「幕末期の名工、源清麿の登場に、儂は年甲斐もなく小躍りしたよ。時期を開ければ、また他にも名工が誕生するのではとな。事実、大阪月山も現れたしな」

「それで百数十年の月日を?」

「うむ」

「……………姉ちゃん」

「はい……………ホント、別の意味ですんません」

どうやら前世の私が、それほどまでにビッグでさえなかったら、前回ので演武は終わっていたかもしれないそーです。ってか、そんなの知らないわよっ(怒)!

「うん、まあええわ」

よくねーよ…………え、私のコトじゃない?

小狐丸は一期一振に向き直り、改めて切っ先を向けました。

結局演武やんのかよっ!

「いざ」

「喜んでお受けしましょう」

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