第13話 肆の2 マロ?

 人知れず、業物演武はホントに日々繰り返されているようで、先週よりも刀の化身をよく見かけるようになりました。

ですが、負けて脱落したら元いた場所に帰るのでしょう、逆に先週見たのに今週は見なくなった化身も何人かいます。

今朝会った小狐丸や、ゴスロリと床兵衛さんに、伊勢さんもまだ無事に残っているようですが、いつ名刀に負けるとも限りません。

とはいえ、私が心配してもどうすることもできっこありませんが。

それに現代っ子は、演武よりも学校生活の方が大事なのです。

受験という戦を闘う、現代の武士もののふなのです。

なんてコトを思いつつ、数学の時間に爆睡して職員室で先生に怒られてから(ああ、いつもの事です。気にしないで下さい。どうせ私は落ち武者ですから)、帰宅の途中、あの公園で偶然にも床兵衛さんと再会しました。

「あ、こんにちは」

「ああ、どうも…………………」

力なく床兵衛さんは答えます。

その声にはあのゴスロリの身内とも思えないくらい、素人の私でも分かるくらい覇気がありません。

「もしかして、負けたんですか、演武で?」

「いや、相手が名刀でね、思いの外長期戦になってしまって、疲れただけですよ」

(あんたもかいっ!)

小狐丸といい、何でそんなにチャンバラしたいかなぁ? 

まあ、仕方ないって言えば仕方ないのでしょうが。

「それにしても、さすがは天下に名高い『ノサダ』だけのことはある。予想以上の手強さだった。千両兼定の名は伊達ではないな」

よく分かりませんが、相手を賞賛しているようです。小狐丸のように今風に「っぱねぇ」とか言わない分、マシでしょう。

「のさだ?」

「美濃の二代兼定の事です。贋作防止のためでしょう茎の銘を刻むときに、名前の定の字を、ウ冠に之の字と記したので、そう呼ばれているのです。また完璧な作品造りをすることから、千両役者の千両を添えて千両兼定とも呼ばれているのですよ」

「よーするに、すごい刀だったんですね」

「…………………まあ、そういうことです」

「…………………………」

「…………………………」

か、会話が続きません。

気まずいです。

どっちも気まずいです。どうしましょう?

その気まずさのせいか、床兵衛さんの疲労が、さっきにま増して酷くなった気がします。

どうしたものかと、困って私は何気なく彼の肩に手を添えると、

「おっ?」

「え?」

「いや、そのまま手を…………」

言うと彼は私の手を取り、目を閉じました。

ふぅっ、と息を吸い気持ちを落ち着けているようです。

そのまま、じっとしていると、彼の表情は徐々に穏やかになっていきました。

それはまるで、私の膝枕で復活した昨夜の小狐丸のようです。

「なるほど、よい魂を持っておられる」

「は? ええ~と……………………は?」

「あなたの魂は、我ら刀剣に輝きを取り戻させてくれるようだ。まるで打ち直されたような、奇麗に研がれたような、そんな感じを受けました。前世は名のある刀匠だったのかもしれません」

「そ、そーですか? あまり自覚はありませんけど???」

当然、前世なんて覚えているわけありません。

ホントにそんな職業をしていたとは、今の堕落しきった自分を見る限り、そんなふうには思えないのですが?

するとそこへ、あの名刀ゴスロリが戻って来ました。

例によってプリン満載のコンビニ袋を手に持って。

「お、また会ったな」

「ど、どーもぉ~…………………(汗)」

正直私、このヒト苦手です。

母と同じニオイがするのです。

平気で人をボコるタイプに違いないのです。

きっとそういうヤツなのです。

「先代、実は……………」

床兵衛さんはさっきの事を話しました。

ゴスロリはそれを興味無さげに聞くと、

「まあ、そうだろうな」

と、一言。

「は? と、言いますと?」

「うむ、先日見たときから、妙とは思っていたのだ。この小娘の魂、前にどこかで会ったような気がしたとな。前の演武の際か、もしくはそれより以前と思っていたが、昨日、ようやく思い出したのだ」

何と、どうやらゴスロリは、私の前世を知っているようです。

さっきまでどうでもいいと思っていましたが、そうとなると興味津々にもなります。

「やはり名のある刀匠でしたか?」

「当時は『正行』と名乗っていたか」

「まさか『清麿すがまろ』ですかっ?」

(えっ、スガマロ?)

「現代では『清麿きよまろ』と呼ばれているらしい」

(えっ、キヨマロ? マロって……………)

頭の中で、顔を白塗りして目の上に楕円形の眉を描いた、バカ殿メイクの私の姿が浮かびます。

前世の私ってばいったい……………?

いやいや、でもそんなメイクで刀鍛冶ってどうよ? 何かの間違いじゃないの?

「ああ、あなたの思っているような容姿ではありませんよ。ちゃんとした刀鍛冶ですから」

あれこれ困惑している私を察したのか、床兵衛さんが説明してくれました。

よかった。前世まで天然じゃなくって!

「有名な人だったんですか?」

「ええ、幕末期の人物で、近年になってかなり知られるようになったそうですよ」

「うむ。まあ四十過で酒におぼれ、自作の刀で自刃したがな」

「あうっ…………………」

ニタニタと、私が滅入るコトを言うゴスロリ。マジで錆びればいいのに(怒!)

「で、でも『四谷正宗』なんて異名もあるくらいですから………………(汗)」

フォローを入れてくれる床兵衛さんですが、そういったフォローはあんまり嬉しく………え? 正宗? そーなの? な、なんかスゴくね? 

そんな風に言われるとちょっと嬉しくもあるような………………てへへへ(照)。

前世の私って、意外とビッグだったのかもしれません。

お菓子好きなのも、前世の酒好きの反動に違いありません。きっとそうです。

まあ、現世の私は自殺なんかしませんけど………………いや、多分(気弱)。

色々言われ、どうリアクションすべきか困っていると、ゴスロリは、

「まあ、それだけでもない気もするがな」

「え? それってどういう……………?」

「さあな」

なにやら意味ありげに言いましたが、それ以上は何も教えてくれませんでした。

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