肆 バカの前世

第12話 肆の1 作者の復讐

 翌日もテレビではいつものように、朝から例の辻斬り事件の番組ばかりやってました。

何だか今回は、一気に十人以上もの被害者が出たとかで、いつもより放送時間を延長してやってます。

おかげで毎朝楽しみにしてた、朝の星座占いコーナーがお休みです。

昨日の占いの結果が悪かったので、今日こそはと楽しみにしていただけに、今朝の私は個人的に犯人を恨んじゃってます。ホント!

そう言えば今回の事件の現場は希少動物の生息地で、ゴルフ場建設反対する地元の人達と、業者とでいろいろもめてた場所です。

ウソかホントか、まだヒナがいた鳥の巣のある木を伐採したり、工事に邪魔な動物を射殺したとかいう噂もありましたから、当然、犠牲者は全員、建設業者でした。

どうやら刀達はゴルフが嫌いみたいですね。日曜のテレビ番組が中止や延期になったりするから私もキライです。

『被害者はいずれも全員、鋭利な刃物で………………』

いや、鋭利も何も日本刀だってば。と、画面のアナウンサーにツッコミを入れる私。

ツッコミ入れつつ、横目で私のオヤツのアイスを、勝手に食べてる小狐丸を睨みつけます。

アイスの水分で錆びればいいのに、なんて思うものの、口に出してニュースの被害者みたいに斬られるのもイヤなので、黙っているしかありません。

昨夜は感情的になって思わず彼にキックを入れながら、奇跡的に未だに斬られていない自分の幸福さに感謝です。

「それはそうと、昨日は聞きそびれたけど、伊勢さんはどうなったの?」

幸い、母は今朝から近所に出かけてていません。

小狐丸がリビングで堂々と私のアイスを食べていられるのも、そのためです。

「伊勢さん? ああ、そう名乗ってるのね」

「あの後、その、なんて言ったかな、えと、そうそう、ソボロ何とかってお爺さんと演武に行ったまま、姿を見てないのよ」

「昨日、見たよ。秋葉原で」

「はぁ? アキバで?」

「最近、あそこでバイト始めたらしいんよ」

「な、な、なんで???」

「いや、聞いた話しやと、買い物するのに可視化してたとき、例の巫女姿がメイド喫茶の店長の目に止まって、誘われたらしいんよ」

「何やってるの、あの人! あ、刀だった。何で巫女姿であんなトコに出歩くかなぁ?」

「オムライスにケチャップで文字を描くの、上手やて人気らしいよ。ただ、難しい字しか書かないって、よく注意されるって。先日も妙法蓮華経って書いて、画数多すぎるから、オムライスがケチャップで真っ赤になったってぼやいてたなぁ」

「な、何だかムツカしいコト言ってるぅ! ってか、せっかく心配してたのにぃーっ!」

ここ数日の私って何だったの? 

無事なら無事って、一言言ってくれたらよかったのに!

さんざん心配したのに、いったい何をしているんですか、あの人はっ?

どーせ今頃アキバで、アニメのコスプレして変なダンス踊ってるに違いありません。

バツとして、次に会ったらそのメイド喫茶で、チョコパフェおごらせてやります。

「そんなコトより、テレビ見てみぃよ。犯人が映ってるから」

憤慨している私を制して、小狐丸が言います。

見ると、やはり他の視聴者やテレビ関係の人達には見えないのでしょう、現場の映像の中に、普通に平然と立っている、事件現場に不釣り合いな姿をした三人の姿が映っています。

刑事ドラマなんかでよく言う、犯人は必ず現場に戻ってくる、ってのはホントですね。

刀を携えたスーツ姿と大柄な鎧武者が二人。

私にはテレビ越しでも分かります、この人達も刀の化身なのだと。

絶対こいつらが犯人に違いありません。怪しさ大爆発です。

殺人鬼オーラ全開です。

いえ、現代の世で、殺人事件現場に鎧武者姿は怪しいのは当然なのですが。

しかも怪しいついでに、この鎧武者の装飾が何とも変わっていました。

一方は虎をイメージしたのでしょう、肩の防具はシマシマのタイガースカラーで、それなりに強そうな感じでしたが、もう一方は鎧全体が虎柄の方と似てはいたのですが、シマシマ模様の代わりに、

「ク、ク○モン~ッ?」

某有名ゆるキャラが描かれていたのです。

絶対に県から使用許可をもらっていません。

鎧姿は迫力あるのに、何もかもぶち壊しです。

「肥後の加藤清正に仕えていたからね、虎退治のイメージと、地元の宣伝も兼ねているのと違うかな」

「誰に向けての宣伝??? いや、それより何でこんな大勢斬ったんだろ?」

「大罪犯したからやね。僕でも斬って捨てたかもしれんよ」

「ゴルフ場造る事が大罪?」

「人の目からはそうでもないかもしれんけども、住処を奪われた側の動物から見たら、そりゃ許せん所業やわな。何せ人が生きるために必要で森を破壊したわけやな

し、ただの遊び場造るのに他の動物の生きる権利を勝手に奪ったんやから、当然の報いとちゃう?」

なるほど、言われてみれば確かにそうです。

遊び目的で動物虐待なんて、神様でもやっていい所業ではないのです。

「それはそうと姉ちゃん。学校はええの?」

「あ、いっけね!」

時計を見ると、とっくに登校時間です。

遅刻して母にその事がバレたら、今度こそホントに殺されちゃうところでした。

「それともう一つ。ちょっと聞きづらいんやけども………」

「?」

「そのカッコで学校行く気?」

「え?」

「スカートとパンツ、履き忘れとるよ」

「んなっ(驚)」

さ、作者のヤロー、ホントにやりやがった(怒!!)。

危ない危ない。もう少しで作者の罠にはまるところでした。

私は涙目で小狐丸の手をとり、

「うう、ありがとう(感涙)」

「?」

初めて小狐丸に感謝しました。

おにょれ〜、作者め、また出て来たら今度こそは………(おっ!!)

ふと、部屋の隅をみると、ちょうどいいものがありました。

これさえあれば、次こそは作者を懲らしめる事ができそうです。

そう思うと、うふふふふふふふ、

「うひひひひひひ」

「姉ちゃん、キモいで」

「うっ!(ちょっと恥)」

うう、これも全て作者のせいです。

あのセクハラ作者め、絶対に殺ーす!

私はそう心に誓いました。

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