陸 演武再び
第20話 陸 ………んでもって、答え合わせ。
あの後、一同は何も無かったかのように、その場を去って行きました。
小狐丸とゴスさんの演武が始まるのではと思っていたのですが、本人の疲労だとか、消耗した相手に勝ってもどうとかいった理由もあって、刀達にとって演武は一日一試合と、決められているそうなのです。
意外とルールはしっかりしているみたいです。
ちなみに、床兵衛さんも伊勢さんも、ゴスさんみたいにダメージ受けてたみたいですが、何とか勝って少し遅れてやって来ました。
秀吉公はというと、自分の一期一振が負けたとはいえ、これも勝負と諦めたようです。
解散するその前に、私は意を決して秀吉公に訊ねました。
「これからも演武は続けるのですか?」
その問いに、秀吉公だけでなく、ゴスさんも小狐丸も目を輝せました。
(え? 何か悪いコト聞いちゃった? でもでも、床兵衛さんだって気にしてたじゃないですかぁ?)
「あ、あの、罪人を罰するのは分かりますけど、その…………………」
「やり過ぎだと?」
「は……………はい」
秀吉公の私に向けた視線が、今までより数段鋭くなったような気がしました。
あっ、私、死んだな、と、本能的に感じました。
ですが、死を覚悟したのに、恐怖は不思議と全然ありません。
私と秀吉公は、しばし無言で見つめ合いました。
笑った方が負けです。いえ、ウソです。
「…………………」
「……………………」
「……………え~と」
「いいよ」
「はっ?」
「だから、いいよって」
か、軽いっ! 意外と軽過ぎです、秀吉様! それでいいのか戦国武将?
「長く生きて、いや、死んでいるが、こうして長らく浮世を見ていれば、性格も丸くなるというもの。斬った張ったと血なまぐさいのももう飽きた。儂から刀達に、殺生もほどほどにしておくよう言っておこう。何より、血油で刀身を汚すのももったいないからのぉ」
「あ、あざ~す!」
「演武そのものはやめんよ。そもそも、刀達もそれは望んでおらんし、自由参加でもあるしな」
何にせよ、これで斬首事件も減ることでしょう。
斬られて当然の輩は、どうなっても知ったことではありませんが。
※※※※※※※※
あれから一週間が経ちました。
演武の決着がついたかどうかは知りませんけども、ここ最近は刀の化身を見かけるコトも少なくなりましたので、今回の演武もそろそろ終了間近と思われます。
ああ、それからホントについでですが、不忍池での出来事をキレイさっぱり忘れてしまっていた荒川ですが、彼は自分が座布団にされたとも知らず(アホです。本物のアホです)、何故か腰が痛いとぼやいていました。
でも、よくよく考えてみると、彼の上に座ったのは私と秀吉公にゴスさんだけです。
そして秀吉公は霊だし、ゴスさんは刀なので重さはせいぜい2キロそこそこ…………ってコトは彼の腰痛の原因は、私の体重が…………………いえいえ、そんなワケありません。
たまたまです。たまたま荒川は寝違えたか何かで、ぎっくり腰になっただけです。
もしくは、彼が超軟弱者のヘタレなのでしょう、本当に情けないヤツです。
前世の私だったら、最上大業物並に頑丈に焼き入れしてやるとこです。
そんなアホの話しはさておいて、さらに数日経ったある日、私が宿題に頭を悩まし勉強していると、久しぶりに小狐丸が訪ねてきました。
ええ、もちろん窓からの不法侵入です。
「悪り~ね、こんな時間に」
「まったくだよ。で、演武は終わった?」
「昨日な。壮絶な決勝やったよ。姉ちゃんにも見せたかったわ」
「あんたはどうなったのよ? まさか優勝?」
「イヤイヤ、なかなかそうはいかんよ。僕は準々決勝で二代虎徹に負けてもうた」
「おおっ! 床兵衛さんエラい!」
「傷つくなぁ~。ちなみに初代は村正と丸一日の長期戦の結果、判定負けやったね」
「伊勢さんもエラい。でも傍目には、ゴスロリファッションの痛い娘と、巫女さんのチャンバラに見えたわけだよね? 何かスゴい画なんだけど………………」
「うん、あれはスゴかった。パイオツポロリもあったし」
「ええーっ(驚&赤面)!」
「いや、ウソだけど」
小狐丸の顔面に右ストレート炸裂です。
セクハラは断固許しません!
しかし小狐丸は鼻を押さえて、
「それはそうと、姉ちゃんに聞きたいコトがあるんやけど?」
と、何か申し訳なさそうに聞いてきました。
「実は次回の演武が、急に来月に決まってな」
「ホント、ずいぶんと急だね。今まで数年とか百数十年の間隔だったハズじゃ?」
「そうやねんけど、今回の優勝者が覇者特権で、次回の開催と開催場所を決めてな。何でも本人の出身地を世間に広めたい、言うて。でも、それがどこなのか分かへんねんよ」
「えっ、この私に地理問題???」
「確か、『SAGA』とか『さが』とかいう場所らしいんやけど、どこか知らん?」
「どこそこ?」
初めて聞く地名です。
いえ、単に忘れているだけかも知れませんが、その後、地図帳を調べてもよく分からず、ウィキペディアで調べて、ようやく九州の方だと分かりました。
「福岡と長崎の間に県があったとは?」
驚愕の事実です。勉強ってやっぱしておくものですね。
まあ、そんな遠方なら、また巻き込まれるなんてことはないでしょう、ホッと胸を撫で下ろす私。
小狐丸は佐賀の場所をメモって、また窓から帰って行きました。
「そいじゃ姉ちゃん、またな~」
「また、って、もう会うコトないでしょ?」
「あ、気付いてない?」
「ななな、何何何(焦)???????」
「まあ、それは来月の楽しみってコトで」
不適な笑みと言うか、怪しげな笑みと言うか、意味ありげにニヤニヤ笑い、小狐丸は夜の闇に消えていきました。
「い、い、い、いったいどういうコト?」
※※※※※※※※
ワケが分からず一ヶ月が経ちました。
そしてその日になり、ようやく小狐丸が言っていた意味が分かりました。
今月は修学旅行があるのです。
アキバのあの店で、修学旅行に持って行くおやつ(何と500円以内)を買うまで、気がつかなかったのですが、今回、修学旅行で向かう吉野ケ里遺跡が、まさか佐賀県であったとは………………。
「あ……………悪夢だ……………」
見知った顔が、遺跡や他の観光名所で演武をやってます。
「やぁ、姉ちゃん。お久ぁ!」
生き生きとした顔でチャンバラに興じる小狐丸やゴスさん。
きっと近くに伊勢さんも、いるでしょう。
他にもホームに近いからか、前回とは別人のように楽しそうなあの鎧武者二人もいました。
探せばあの正宗もいるかもしれません。怖いから探す気はありませんが。
ただ、前回と大きく変わった点が二つありました。
きっとゴスさんの影響でしょう、かなりの割合で、妙なコスプレした刀が増えた、ということです。
アキバでの大規模な演武も関係あるかもしれませんが、アニメキャラのカッコが特に多く、それが見える私にはもう、演武はコミケイベントに見えてなりません。
おかげで前みたいな、怖さがなくなったのは何よりです。
そしてもう一つは、斬首事件が殆どなかったということです。
斬られたのは極悪人オンリーでした。秀吉公の影響力絶大です。
ですが……………………、
「わ、私のおやつ返せーっ!」
夜な夜な小狐丸は、他の刀を引き連れて、私が宿泊しているホテルに遊びに来るのでした。
今日も小狐丸と名前知らない他の刀達が、ホテルの談話室でクラスメート数人と座布団荒川と一休みしている私にちょっかいをかけてきます。
先生に内緒で買ったアキバのケーキも全滅です。
「さぁ、次回の演武はどこでやるかなぁ~?」
「わ、私の安息がぁぁぁーっ!」
彼らが見えない他のクラスメートの冷たい視線を感じつつ、私は大絶叫。
そんな私に、冷たい視線と同時に哀れみの視線も向ける座布団野郎荒川が、言いにくそうに声をかけてきました。
「それはそうとおまえ、東京出るときから気になってたんだが………」
「な、何よ?」
「おまえ、背中にずっと何か封筒が張り付いてるけど、まだ気付かなかったか?」
「え?」
封筒って、どこかの刀剣からの果し状かもしれません。
今の私の立場だと、その可能性もあり得るのです。
冷や汗ダラダラ慌てて背中に手を回します。
「え、え、どこどこどこ、あっ、二の腕つったぁぁぁっ!」
私、身体硬すぎです。 こんなとこつる人見た事ありません。
悲鳴あげて悶絶しつつ、何とかその封筒を取った私は(荒川も笑ってないで取ってくれたらいいのに)、恐る恐る封を開けます。
そして手を震わせながら中の手紙を広げると、
(肆の3のクイズの答えは「164044」。京正載の各文字はすべて数の単位。ゼロの数が万は4、億は8、兆なら12になるので、京は16、正は40、載は44となる。いわゆる天文学的数字なので、普段使わないからちょっと難しかったかな?)
「知るかぁぁぁっ! こんなの忘れとったわぁぁぁっ!!」
作者からの嫌がらせとしか思えない答えの紙をクシャクシャに丸め、ホテルの廊下に投げ捨てると、見覚えるある人物がソレを拾い上げました。
「ゴミはゴミ箱に」
と、こちらを睨み据えるその人物の視線に、私も座布団野郎も声も上げれず硬直しました。
(まっ、正宗ぇぇぇぇぇぇぇっ?)
可視化モードの彼の視線だけで、十回は斬られた気がしましたが、
「ふん」
正宗さんはつまらなそうにそのゴミを廊下のクズカゴに捨てて、何事もなかったかのように別の部屋へ消えていきました。
「な、何で刀が旅行客みたいに???」
「ああ、石田正宗には棟側に切り込み傷があってね、先月の演武で古傷痛めたから、秀吉公に今回は休暇もらったらしいよ」
と、小狐丸が、やはり私のおやつをつまみ喰いしながら言いました。
ちなみに座布団野郎は、私の隣でちびって気絶しています。
「まあ、当人としても不本意の休暇ってこともあって、少々荒れ気味でな。ちょっとピリピリしてるんよ」
「危ない危ない危ない、一番危ないヒトが野放し状態じゃないのよ!」
「てな訳やからお姉ちゃん、旅行やからってあまり羽目外し過ぎなや〜。 そやないと、いくら秀吉公からの御達しがあっても、バッサリはありえるからねぇ」
「ひぃぃぃぃっ(恐)」
は、はたして私は、生きて家に帰ることが出来るのでしょうかぁぁぁ?
もしかしたら気付かないだけで、可視化した刀がいつも町中をうろついているかもしれません。
読者の皆様、くれぐれも自らの行いには気をつけて下さい。
うっかりゴミとか空き缶とかを道端に捨てようものなら、次の瞬間には自身の頭がそのゴミの横に落ちているかもしれませんよ。
業物演武 史上最強名刀決定戦 京正載 @SW650
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