第2話 壱の2 プリンと生八つ橋
幸いにもイケメン幽霊は、私に取憑くわけではありませんでした。
近くの公園へ行き、彼は色々と説明を、というよりも私を事態に巻き込むように、状況を語りだしたのです。
しかも、買ったばかりの私のプリンを勝手に食べながら(シクシク……………)。
「ほほ~、最近の人間には珍しいくらい、霊感が優れとるねぇ~」
私には彼や幽霊が見えることを、改めて確認するや、関心するように彼は言いました。
「ど、どうも、お褒めに預かり恐縮至極にござ、えと、ございまする(焦)」
まだ緊張のとけない私は、言う言葉もしどろもどろです。
「いやいや~、マジで珍しいよ、最近では。今どき感性が動物並みの人間って、そういないもんねぇ」
「あうっ(涙)」
「まさに原始人並の感覚やね」
「うえぇぇぇ~ん(目の幅涙)」
「まあ、それはそうと…………………」
「女の子が号泣してるのに、サラッと流さないで下さい!」
「何っ、泣けんような身体にしたろか?」
「いいいいいいいえ、ケッコーですぅ」
刀の柄に手を添え言う彼に、私は何も言い返せません。
「それはそうと、お姉ちゃんの名前は?」
「はぅ~、私は山城敦子ですぅ~」
「そか、僕は小狐丸、いうねん。子狐と違うから。小狐やから」
「はっ、き、狐? もしかして私が小4のときに取憑いたのってまさか、……………?」
「ん、何のコト?」
「そ、そうですよね。私に取憑いたのは悪い狐の霊であって……………」
「うん、あのときは楽しかった」
「ややや、やっぱりあなたがぁぁっ?」
「わはははははっ」
再び泣き出した私を見て彼は大笑いです。
「まあ、冗談はさておき」
「冗談だったのかよ?」
「まあ気にせんと」
「気にしますよっ! 楽しみにしてたプリンも食べられちゃったしぃ!」
さっきより緊張感のとけた私は、彼に口を尖らせて言います。
「いやあ、悪いコトしたなぁ。スィ~ツって言うの? 今風の甘いもんに目がのうて、つい食べてもうたわ。代わりにコレあげるから堪忍やで」
「そ、それはっ!」
雷に撃たれたような衝撃! 驚愕する私!
彼が懐から出したのは、京都名菓の『生八つ橋』でした。
主食の9割がお菓子で、先日もご飯に生クリームをかけ、家族にドン引きされた私は、もうよだれジュルジュルです。
特に生八つ橋は好物で、以前、親戚のおばさんが京都嵐山にある美空ひばり記念館へ行ったときに、土産で買ってきてくれたとき以来病み付きで、しばらく夢に見る程でした。プリンと一緒に、ペットボトルのお茶も買えばよかったと後悔しましたが、
「い、いえケッコーです」
溢れ出るよだれを手の甲でぬぐい、何とか理性を保って私は言います。だって私は知っているのです。そう、狐も狸もカブト…………じゃなくて、こういった動物は人をバカすのです。小さいとき、何かのアニメで見たのです。あの生八つ橋も実は泥団子が馬糞に違いありません。
ああ、私のプリン。食べてあげられなくてごめんね。
「そっか、ほなしゃあないな」
心の中で涙する私の気持ちも知らず、小狐丸は生八つ橋を懐にしまいなおし(ああ、やっぱもらえばよかった)、言いました。
「まあ、こうやって知り合ったのも何かの縁、ゆうことで」
「は?」
「お姉ちゃん、道案内頼むわ」
「え? な、何で????」
「いやぁ~、しばらく見ない間に、江戸の町もすっかり変わってもうて、右も左も分からんで困ってたんよ」
「え、江戸の町って、いったい前にこっちに来たのっていつ頃なんです……………?」
「うん、百五~六十年ほど前かな?」
「えええええええっ! って、幽霊なんだから、長くこの世にいても不思議じゃないか?」
「ん、あれ、お姉ちゃん、何か勘違いしてないかな?」
「え?」
「僕、幽霊と違うよ」
「ええっ、じ、じゃあいったい?」
「僕らはコレや」
言って彼、小狐丸は刀を指差しました。
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