チームと仲間 6/28

 この日の昼休憩、冷姫にチームの仲を深める為に、集まりたいと校庭に呼び出された。


「大空に紹介しよう。あの日いなかった、俺達のチームの一員、榊原恭介だ」


 醸し出す雰囲気は、ごく普通の爽やか系男子の榊原。髪色は黒で、自然なウェーブが薄っすらと掛かっている。メンバーの顔を頭の中で並べて浮かべると、さっぱりした見た目のチームだ、という感想しか出てこない。


「おっす、大空君。話は聞いてるよ。これからよろしくな」


「こちらこそ……とは言え、明後日負けたら」


「まあそう深く考えるなって!冷姫もいるんだし」


 榊原は冷姫の方をちらっと見るが、冷姫は俺に話したいことがあるような目線を送っていた。


「あぁ、そうだ。

 ところで、紹介がてら言っておくべきことがある。こいつはお前と同じ整備士だ」


 その冷姫の言葉を聞いて驚いた。


「という事は、戦闘メンバーは二人だったのか?」


「まあ、そうなるな。榊原もある程度は戦えるけど、俺と戦闘形態が似ているからな。あんまり合わない。整備士の方が向いてるしな。それに、このチームにはリーダーを張れる奴がいない。だからスカウトしたってわけ」


 駿河の言葉が的を射る。俺は、誰からともなくリーダーとしての資質を求められている。


「でも、俺も整備士がメイン。面倒な事にならないか?」


「「気にすんな」」


 ……見た目だけでなく、性格も結構さっぱりしているのね。


「じゃあ、今から鳳も入れて何か食いに行くか」


 あれ、試合もうすぐだよね……?まあお昼時だけれども。


「練習しないのか?」


「クソ真面目だなー、お前は。

 相手は斎藤剣真けんま率いる『グラディウス』。攻撃重視の戦闘スタイル。斎藤が攻撃の中心って感じかな。その他はあんまり強くないからイメージないな。余程の事がない限り、勝てるだろ」


 斎藤剣真、彼は大剣を自由自在に操り、学年上位の50位以内に入る猛者。真霧や冷姫などといった名前ばかりで見劣りがするかもしれないが、全国の猛者が集まるこの学校で、50位以内に入るのは、栄えあることなのだ。


「流石、学年2位から出てくる言葉は違うね。自信に満ち足りてるね」


 榊原の発言は、俺の言いたいことを全て代弁していた。


「まあ、大空が負けても、鳳と俺がいるんだし、気楽に行けよ。退学はないさ」


「お待たせ〜」


 そこでチーム紅一点の鳳が到着した。冷姫は榊原の紹介が終わったところだ、と言いつつツッコミを入れる。


「そんなに待ってないぞ。てかくれぐれも学校内なんだし、たかが知れてるだろ」


「まあね」


 鳳はお下げにした髪を揺らしながら笑う。


「じゃあ食堂行くか」


「なんか、味気ないな……」


 俺の完全なるイメージだが、高貴な冷姫の見栄えに見合わない、質素な行動に対して、思わず俺は本心を口に出してしまった。



 駄弁だべりながらダラダラと数分歩くと、食堂に着いた。


「今日は、俺のおごりだ!まあ、だからと言ってはなんだが、生きて帰れると思うなよ!」


 俺はその冷姫のおぞましい言葉を聞いて、恐る恐る榊原に質問する。


「何、何が起こるんだ?」


「大空……命を覚悟しといた方が良いぞ。あいつの奢るという時は、基本鬼だ」


 榊原の青ざめた顔を見て、冷姫の顔をもう一度見ると、そこに居るのは、魔王そのものだった。


「え?皆、食べないの?」


 しかし何食わぬ顔でラーメンを頬張りながら、話しかけてきたのは、鳳だった。その食べているラーメンの中身を見ると、七味を大量に入れた醤油しょうゆラーメンだった。あり得ないほどの辛さと煮豚の脂身が乗ったそれは、地獄絵図そのもの……。そうじゃないッ!そこじゃないッ!


「なんで食えてんだよォォォオ」


「ん?美味しくない?普通に。冷姫、お代わり」


「……はいよ」


 鳳は幸せそうな顔で、ラーメンを食べる箸の勢いを落とさなかった。魔王が今まさに、天使に浄化された瞬間だった。


「鳳さん!冷姫の財布空っぽにしろ!」


「そうだ!日頃こいつ調子に乗ってるから、その報いを放ってくれ!」


「ソレダケハ、ヤメテクレ」


 その男子の会話を気にせずに、ちゅるちゅるとラーメンをすすり続ける鳳。


「やっべぇ、食堂中の七味なくなった……」


 冷姫の悪徳が遂に地に落ちた。


「……もう無いの?」


 鳳は不満そうな顔をしていた。もう既に完食したラーメンは8杯。強い、強過ぎる。彼女の三大欲は、食欲に全て割り振られているに違いない。きっと恐らく多分。


「悪い、もう無い。代わりにあるのは……」


「誰や!食堂の七味全部使ったんわァァァァァァァ!」


 代わりにあるのは、食堂のおばちゃんのお叱りだった。


「逃げろ!食堂のおばちゃんに捕まったら、死ぬぞ!」


 榊原のアドバイスを聞かずとも、全力疾走で皆は食堂から抜け出した。


「はぁ、はぁ……あぶねぇええ……」


「あともう少しで捕まるところだったな」


「食堂のおばちゃんに俺の財布救われたわ。食堂のおばちゃん女神だわ」


「ラーメン……」


 一人一人が、コメントを一言口にすると、数秒間の沈黙が起こり、皆で顔を見合わせる。そして、その沈黙を破り、四人の大爆笑が場を満たす。


 一分笑い合った後、冷姫は俺の顔を見て、こう言い放つ。


「ま、俺のチーム『ブレイヴ・ハーツ』はこんなチームだ。お前のお気に召したなら、歓迎するよ」


 そう言われて、皆の顔を見渡す。


「気に召したも何も、最高だよ。逆に入れてもらって心の底から光栄に思う。

 感謝するよ、ありがとう」


 そう言って、俺はチームメイト一人一人と握手を交わした。

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