桜花と決着 6/30

 もう音魔法は使えない。音魔法の魔力切れだ。しかし、それによって場所は分かった。


「鳳さん、今の聞いていたな?その方向だ」


『なかなか派手にやったね。音魔法は?まだ使える?』


「残念ながら、もう使い切ってしまった。あと残っているのは、剣と冷姫の風魔法、鎌だけだね。

 取り敢えず、一つしかトラップは作動してない。全員固まっているはずだ。援護射撃を頼むよ、鳳さん」


『任せといて。絶対、斎藤は私がなんとかして討ち取るから』


 もしものために、俺は話半分だと思って聞く。斎藤程の実力があれば、何かしらの鳳対策はしてくるだろう。

 あともう少しで俺があいつらと接触する頃だ。


『大空君!逃げて!』


 突然の鳳からの通信に焦りつつ、周りを見渡す。周りを囲まれたわけじゃない。俺が目にしたものは、完全なる鳳潰しのフォーメーションだった。


「影薄い二人の武器は、可変型ビームサーベル使い……」


 その二人はビームサーベルを傘状のシールドにして、主将の斎藤を完全に覆い隠している。上からの攻撃は完全にシャットアウト。ビームサーベルの光線は、光の流れに従って物体を流すということが可能。また、物体を高温の光で焼く事も可能。とは言っても、変形するのにかなりの時間を費やす上に、シールドにしても面積はあまり大きくないため使う人は少数派で、俺も想像だにしていなかった。しかし、それがかえって功を奏し、鳳のライフルによる援護は全く意味のないものとなった。


「一本取ったな」


 斎藤は大胆不敵に笑う。まるで悪魔のような笑み。

 まだ策はあるはずだ。鳳の場所は完全にはばれていないはず。ただ上の方から射撃するという予測をしているだけに違いない。

 鳳が下のビルに乗り移れば、振り出しに戻るはずだ。しかし、彼女の場所からは他のビルに飛び移るとすると、HPバーが残るか残らないかの瀬戸際。


「さぁ、覚悟しろ、大空!」


 斎藤が走り始めると、他の二人も走り出した。

 くじけるな。

 前を向け。

 もっと何かあるはずだ。

 研ぎ澄ませ、感覚を。

ーー頑張るんだ……自分のためにも、皆の

ためにも!一人だけじゃない!皆の力を合わせれば!


「そうか!」


 最高の策が閃く。

 冷姫の使用武器の鎌を出す。そして、念のために冷姫に連絡を入れる。連絡を入れないと心に決めていたが、これは仕方がない。


「これどんな使い方しても良いんだよなあッ!?」


『連絡が唐突過ぎんだよ!何でも良いから早く使え!馬鹿!』


 唐突だったにも関わらず、冷姫はコンマ数秒で応答する。


「おんどりゃぁぁぁあああああ!!!」


 ブーメランを投げるように、俺は手首のスナップを加えつつ、本気で鎌を投げる。


『おい!お、お前、何してくれてッ!!』


 冷姫は結局ブチ切れていたので、こちらも連絡をブチ切る。うるさいし、集中力切れる。

 投げた鎌の軌道は、低空飛行で斎藤達の方へ進む。


「「「な、何!?」」」


 敵三人が予期せぬ行動だったらしく、整っていた陣形が乱れる。ビームサーベルを持った二人がかろうじて、鎌の軌道を特殊な光線でで真上に鎌が飛んで行った。


「やってくれるじゃねえか」


 斎藤は冷や汗を垂れ流している。


「それはどうかな?」


 遠距離から、パァンッという心地の良い響きが聞こえる。紛れもない鳳の銃声。前の模擬戦から奇妙な行動を起こす俺を信じて、ずっとターゲットを狙い続けていたのだ。

 クリティカルヒット。斎藤を守っていた二人のうちの一人が、鼻腔びこうの少し上辺りの目と目の間を撃ち抜かれ、光を撒き散らして消えて行った。


「55pt頂きました!じゃあさようなら!」


「逃がさんぞ!大空ァッ!」


 敵に鳳の位置がバレて、斎藤はそちらの方向を重点的に守らせ、視線は俺に向かせているようだ。


「誰が逃げると言った?斎藤剣真。お前との別れを告げただけだぜ?」


 俺は体を翻したように見せかけて、体を元の方向に戻す。そして、もう一度銃声が聞こえる。鳳の銃弾を守っていたはずの最後の一人がポリゴンとなって四散する。


「なんだと!?」


 そう、俺が鎌を投げた理由は他でもない。冷姫の鎌をビルの一つに突き刺し、それを鳳の足場として、他のビルに乗り移るという手段として投げただけだ。体勢を崩すというのは二の次の目的だった。


「残念だったな、斎藤。お前の負けだ。

 大空流壱ノ型・桜花!!」


 斎藤の剣を持っている手の甲を一度剣の柄で殴打し、そして右上から左下に斬り込む。これが、俺自身で編み出した、俺なりのカウンター、桜花のお披露目だ。この一撃では消えないと思っていたが、よくよく考えてみると、冷姫のアタッチメントしていたスキルが俺に付いていたのだ。一人をオーバーキルするのには十分過ぎる威力だった。斎藤は桜吹雪のように消えていく。




 コントロールビットから出ると、歓声が沸き起こっていた。


「冷姫無しでよくやったな!!!」


「最後の怒涛の三人抜き凄かったな!」


 そういう賞賛の言葉で埋め尽くされていた。


「大空!」


 冷姫が走り寄ってくる。

 と思ったら、すかさず俺の背中にドロップキックを入れる。俺は漫画の出来事のようにすっ飛ぶ。


「グハッ……。お前……容赦なさすぎんだろ!」


「お前俺の武器を何だと思ってんだ!

 ……とは言え、まぁ、なんだ。俺がいなくとも、よくやったな。これはお前が掴み取った勝利だ」


 そう言いながら、冷姫は俺の左胸にトンと右の拳を当てた。


「斎藤が油断してなければ、負けていたはずだよ」


「土産話より、お前には、まず行くとこあんじゃねえのか?」


 冷姫が俺の後ろを見ろ、と言わんばかりのジェスチャーを俺に送る。その通りにすると、冷姫の後ろに立っている人物を見る。


「……駿河先輩」


「大空君、よく頑張ったね!」


 駿河が走り寄ってきて、いきなり俺に抱きついてくる。


「ち、ちょっと先輩!当たってます、当たってますって!」


 そこはかとなく、何処が当たったとは言わないが、柔らかい感触を下腹部に感じたので、俺は人生最大級に動揺する。しかし、駿河は俺の忠告が聞こえていないようだった。


「良かった……。本当に退学しちゃうかと思った……」


「勝てたのも、先輩のお陰です。先輩の速さを見てなかったら、あんな冷静な判断は出来ていませんでした」


 一年50位以上の斎藤の走ってくるスピードは、駿河よりずっと遅く感じていた。いつもよりゆっくり見えた、という感覚が一番近い。それも勝因の一つに違いはなかった。


「でも、これからが本当の勝負だと思う。君の実力をこの学園全体が本当に見出し始めたのだから」


 一難去って、また一難。これからは、エルドラードに進むための戦いが始まるのだ。

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