間章 不可視の過去

知られざる陰謀 ?/??

 この学園の奇妙さに気付くのが遅すぎた。一見善良な計画には見えるが、遠い遠い未来を見通すと邪悪そのものだ。この決闘デュエルの裏に隠されたはかりごとはどうにかして静止させなければならない。だが、この学園の策略を阻止するには一人で行動するしかない。この学園に隠された陰謀を阻止するためには、自分自身の動きを知られてはならない。

 これは、学園だけではなく、日本、いや世界規模に影響する。この謀略を阻害しなければ、人類は自らの脆い部分を露出することになり、自らの方針により首を絞め、いつか世界は滅びる。

 これを止めるためには、一刻も早く『VR戦闘バトル』を終わらせなければならない。

 いや、それ以前に、個人パスワード廃棄を推奨しなければ始まらないのか。


 どうすればいい。


 ……そうか、この学園の心臓部分ーーつまり情報管理中枢部『NOAHノア』ーーを破壊すれば話は済むはずだ。これは学園の生徒全員に迷惑を掛けることになるが、背に腹は変えられない。




「これが、『NOAH』……」


 ある人物と内通し、この学園の設計を知ることができ、なんとか無事に心臓部に潜入することができた。

 見据えるのは、学園の地下にそびえる金属の塊。小型爆弾でも破壊できるかわからないほどの巨大さ。だが、壊せなくとも、自分には学園生活で培った潜入ハッキング能力がある。きっと全てのデータをデリートできる。やるしかない。


「この立入禁止区域で何をしているのかね、ーーー君」


 しまった、見つかった。しかも、よりによって、この計画を企てた最高責任者ーーー。


「君は、この学園の秘密に気付いてしまったようだね。どこから、この情報を手に入れたんだい?」


「吐くわけ、ないじゃない!」


 鈍い銃声が轟く。自分が撃たれたことに3秒ほどして気付く。最近開発された、と噂のショックガンか……。銃弾なしで内臓だけを破壊する威力を持った代物。死体解剖しなければ、他殺だと判明させるのは難しいらしい。しかも運の悪いことに、撃たれたところは急所だ。ここは電脳空間でも急所判定エリアになっているから、よくわかる。


「なかなか惜しい人物を亡くしたな。だが、計画がバレては仕方がない。さらばだ」


 呼吸が上手くできない。口から泡状の鮮血が止めどなく出てくる。意識が朦朧とする。失敗してしまった。不注意すぎた。結果を急ぎすぎた。しくじった。なんでこんな大事なところで……。このままだと隠密なる独裁が続くだけだ。そして、いつかこの計画が完遂する。それを死後の世界で指を咥えて見ていろとでも言うのか……。

 死後まで屈辱を背負うわけにはいかない。ここでなんか終われない。家族を守るためにも、世界を守るためにも。


 そうだ、冷酷姫暗殺鎌メドゥーサズサイズ。これに意識がある中で、打てる限りのダイイングメッセージを刻みこめば、誰かが気付いてくれるかもしれない……。

 希望は、未来は、まだ消えてないんだ……。

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