買い物と子ども 7/24

「冷姫、ありがとねー」


「やっぱり俺は荷物持ちなんだな。別にいいけどよ。暇つぶしにはなったし」


 私と冷姫は学校から一番近いショッピングモールに来た。休日なので、人で賑わっている。年齢層は様々で、夏休みに入ったであろう子ども連れの家族層もいれば、魔装の生徒もちらほらと見る。友達とも数人会った。そんな時、冷姫はそっぽを向いて付き合ってないよというフリをする。そっちの方が疑われると思うんだけどなぁ。

 結局買い物の内容は、夏休みに学校に留まる榊原君のためのものだったり、私の服だったり。冷姫は買い物中は私が話しかけなかったら、基本的に無言なので機嫌を損ねてしまったか心配になる。


「そういや、今日風船配ってるんだな。俺が小学生の頃にも風船とか見なかったのに、珍しいな」


「珍しいね、冷姫から話しかけてくるなんて」


 私がこう言うと、冷姫はしょぼくれた顔をする。


「それぐらい別にいいだろっ。ヘリウム抽出がより高いステップに来たんだろうな。確か天然ガスから採取されるんだよな」


「……難しい話しないで」


「というかリニアが当たり前になってきたから、余計にヘリウムの需要が高くなっているはずなんだがな。中に水素でも入ってんじゃないか?」


「それ、火に近づけたら危なかったよね。子どもにあげたらダメでしょ」


「冗談だよ」


 冷姫は一度こうなると、自分の世界にのめり込んじゃうんだよね。そういう点では榊原君の方が良いのだけれど、榊原君はチームで一番多忙な人だからなぁ。大空君も大空君で忙しそうだし。


「なぁ、鳳。ちょっと待っててくれよ」


「どうしたの?」


 冷姫は持っていた袋を右手に全て移す。急にどうしたんだろう。

 冷姫が歩いていく方向には、キョロキョロと周りを見渡す子どもが立っていた。

 冷姫は子どもの前に立つとゆっくりしゃがむ。


「ちびっ子、お母さんとお父さんはどこだ?」


「……」


 いや、あんたのルックスじゃビビられるでしょ。銀髪のヤンキーにしか見えないから。幼い少年が泣きそうになっている。


「やっぱり、迷子なんだな。ちょっと待ってろよー」


 なんだかんだで、冷姫は子どもが好きなんだよなぁ。過去を思い返しているのかな。


「ほいよ、風船持ってきたぞ。これで元気出せ」


 冷姫がかがんで、少年と目線を合わせる。泣き顔を浮かべていた少年が、一瞬で笑顔になる。


「鳳、迷子センターの場所探してもらっててもいいか?」


「了解」


 私、冷姫のそういうところ、嫌いじゃないよ。


「よし、お兄ちゃんが肩車してあげよう!」


「本当に!?」


 いつもは何事も興味無さそうな雰囲気を醸し出しているくせに、実は誰か困っていないかとか気を配っているの知ってるんだから。


「冷姫、迷子センター2階だってー」


「わかった。今からエレベーター乗るからな、頭ぶつけないように気を付けろよ」


「うん!」




「本当にありがとうございました!ほら、お礼言って!」


「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう!」


 冷姫はポンと少年の頭を撫で、名残惜しそうな笑顔で言った。


「もう迷子になるなよ、元気でな」


 私はこの笑顔を見て、彼を買い物に誘って良かったと心の底から思った。

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