それぞれの夏休み 8/1

 蝉が煩い。輪唱によって、耳がガンガンする感じがして、気持ち悪くなってくる。だが、夏を感じることは悪いことでもない。都会の空気を吸いすぎるのも良くないだろう。実際、昨日まで由緒ある冷姫家に戻っていたところだ。あんな場所よりこっちの方が落ち着く。

 毎年の恒例行事となりつつあるが、夏の暑さばかりは毎度毎度参ってしまう。自然の空気で肺に綺麗な空気を送り込むのもいいが、さっさと用件を済ましてしまおう。


「姉貴、ただいま」


 俺はバケツに水を汲み、あるところで止まる。目の前の石柱に刻まれている文字は『冷姫家ノ墓』であった。


「魔装に入って、やっと4ヶ月ほど経ったのかな。色々あったよ。そんでさ、スゲェ奴と出会ったんだ。そいつは超弱いんだけど、超強いんだ。

 ……わけわかんないよな。実力は全くないんだけど、状況判断出来るし、なんといっても精神面がタフでさ。俺すらも振り回されるんだ。もう今となっては、背中を預けられる数少ない人間の一人だよ。

 いつもの二人とは、良くやってるよ。ちゃんと三人でチーム組んで、大空っていうさっきの強い奴もチームに入ってもらった。あと雪ノ下というスピードスターも入ってきた。それで姉貴の『冷酷姫暗殺鎌メデューサズサイズ』も今でも使ってるよ。

 あと他に、何話せば良いかな……」


 とは言っても、一言も返事は無い。何故なら、俺の姉、冷姫みぞれは既に亡くなっているからだ。

 小学生の頃から姉貴は憧れの存在だった。魔法戦闘に於いて、全国大会出場はほぼ確実で、全国3位まで登りつめた事すらある。そんな姉が俺自身の誇りでもあった。

 姉に弟子入りを申し出たが、彼女が死ぬまでそれを認めてもらう事は一度も無かった。

 彼女が亡くなったのは、彼女が高校生三年生の時で、俺は中学二年生の時だった。俺は絶望に暮れた。どうしようも無かった。

 だから、姉貴の断片が少しでも残っている魔装学園に入学し、彼女のわだちをひたすら辿った。

 そして手に入れた学年2位の称号。だが、全く誇れはしない。姉貴は全国3位であり、俺は学園内でも3位より下なのだから。


「でもね、俺は絶対姉貴を超えてみせる。そう誓っているから。あいつらとなら、きっと超えられる。

 じゃあ、また冬にでも来るよ。それまで待っててくれ」


 陽炎がユラユラと揺れる中、俺はツカツカと汗にまみれて、歩いていく。明後日には魔装に戻るかなぁ。

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