心情と心象 7/14
もう空は、ギラギラと元気な光を撒き散らすのをやめて、静かな黒へと変わってしまっていた。
「氷牙、悪かったね。私が教師としてしっかりしていなかったばかりに」
「なんで先生が謝るんです?先生が姉を殺したわけじゃないでしょう?あれは、事故なんですよ。先生が言った通りね」
彼の言う通り、事故、ではない。断言はできない。ただ、彼女が自殺する理由など、皆無だった。彼女は、才能、友人、家族、全てに恵まれていて、毎日を幸せそうに過ごしていた。ところがある日突然、この学園の屋上から飛び降りる。救急搬送されたが、間も無く死亡した。だが、私も、彼のように、姉が自殺のようには思えなかった。
『……先生。先生は知っているはずです。姉は、自殺じゃないんでしょう?殺されたんでしょう?』
『……そんなわけはないよ。自殺さ。根拠がないことを言うもんじゃない』
しかし、私は嘘をついた。彼が何を仕出かすかわからなかったからだ。
『なら、なんで先生が生徒の異常に気付けないんだ!そんなこと、そんなことってあり得るわけないだろ!』
『先生だってな、神じゃないんだ!気付けるものと気付けないものがある!』
『だからって、だからって……!』
氷牙の姉の葬式の時だ。彼は、殺人鬼の目をしていた。いや、殺人鬼の目ではない。復讐に満ちた獣の目をしていた。氷牙の姉、
「まあ、そうだが……結局のところ、君を傷付けてしまった。あの時も、君は姉の目指したものを探ろうとした。教師たる者はね、生徒の可能性は無限大として信じるものなんだ。だから好奇心という芽は摘み取るべきじゃないんだよ。私は君の心から好奇心を奪ったんだ。私の罪は、そこだよ」
「いえ、あれは好奇心なんかじゃなく、無謀でした。先生の判断は、正解なんです。だから、もう馬鹿な話はしないでください」
「……氷牙。私はね、君のチームの担任を自ら志願したんだ。勿論、他の教員からは、ブーイングの嵐だった。また同じ事を起こす。二の舞だってね。
だけどね、私は、二度と君に同じ事をさせないために、このチームに来たんだ。あの時の私は明らかに間違っていた。いや、今の君にだから言える。君は、男なんだ。自分の世界があり、それを貫くのが君の役目だ」
「……先生、貴女の事を俺は過小評価していたみたいですね。俺はてっきり、貴女は俺を止めに来たのかと思った」
「あぁ、知ってるとも」
「まあ、俺は先生に止められようが、そうで無かろうが、することは同じだと思いますがね」
「……霙はね、本物の強さを知った君と闘いたかったんだよ。輝く目で、『氷牙は、私より凄いんです。ただ、まだ世界を知らないだけなんです』と言っていたよ」
「あ、姉貴が……?」
冷静だった氷牙が突如として乱れる。
「あぁ」
「……そうですか。その話聞けてよかったです」
氷牙は、夜空の静まり返った大気の中に消えるように一人、そう呟いた。その少年の顔は、心の中の葛藤や悩みが消えたような、晴れやかな顔をしていた。晴れ晴れしい顔で、泣いていた。……まるで狐の嫁入りだな。
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