矛と盾 7/20

「いよいよ、真『ブレイヴ・ハーツ』最初の試合、尚且つ一学期最終戦か。気を引き締めていこうぜ」


 七月は基本的に試合はない。理由の一つには、真夏に決闘をしてしまうと機械をオーバーヒートさせないためにも、出来るだけ機械への負担を減らすようにする暗黙の規定が存在するからだ。あとは、『BCP』には冷房という冷房の完備がされていないため、クソが付くほど暑い。戦闘中は、意識をデータ化してゲーム内に潜行しているから外気は全く関係ないのだが、問題は戦闘が終わってからだ。意味が分からないほど暑い。科学技術が進歩してきているとは言えども、自然には未だに逆らえない。


「今日の相手は、『アルマドゥーラ』か。一年生八位以内を狙えると名高いチームだな。ダークホースであること間違いなしだ。今日のメンバーは、私的には正義と氷牙、椿が適役だと見受けられるな。爽乃の遠距離攻撃も欲しいところだが、チームを指揮するキャプテン、最大火力のエース、翻弄する迅雷こそが相手には合ってるからな。悪いけど、爽乃は休んでいてくれ」


「別に私は大丈夫ですよ!その代わり、皆勝ってきてね!」


 快く返事をしたいものだが、今回ばかり、いや最弱の俺的には、常に全く以て自信がない。むしろ不安しかない。

 『アルマドゥーラ』は、防御こそ最大の攻撃と言い表しているようなチームだ。チーム名が、スペイン語で鎧を意味するのが、またピタリと当てはまっている。

 山野大騎を筆頭に、魚野燐次りんじ、皐月める、河野亜麻の四人チーム。河野亜麻は整備士であり、非戦闘員。戦闘メンバーは固定ということだ。

 俺に到底防御を崩せるとは思わない。


「あぁ、正義。君は深く考えるな。君には君にしか出来ないことがある。それを冷静に考えるんだ」


 ……俺にしか、出来ないこと?先生は一体何を俺に期待しているんだ?


「難しいことじゃないさ。君の実力は、到底『アルマドゥーラ』には及んでいない。はっきり言うと、爽乃の遠距離の方が『アルマドゥーラ』には刺さる。だが、私が君を選んだ理由を、考えるんだ。深くは考えるな。柔軟に頭を動かせ」


 この先生は、ジェスチャーを多彩に用いてわかりやすく説明してくれる。そして、同時にチームのことを詳しく理解してくれている。きっと俺を選んだのには理由があって、俺を試しているんだ。

 今の俺にできることは、桜花と音による翻弄。他に何もできることはない。


「大空は、一人で抱え込み過ぎなんじゃないか?肩、力んでるぞ」


 榊原は俺の肩をポンと叩く。


「……榊原。ありがとう。頑張ってくるよ」


 榊原は俺に向かって、拳を出してくる。俺の拳を榊原の拳にコツッと当てる。


『さぁ、今学期見納めに近い決闘の始まり!最近息を吹き返している『ブレイヴ・ハーツ』とダークホースと名高い『アルマドゥーラ』の戦いだ!前者を率いるのは、学年最下位である大空正義選手!彼は戦闘では未熟ながらも、作戦は一線級で見事『グラディウス』を打ち破っています!このチーム全キャプテンの冷姫氷牙選手は、凄いダイヤの原石を見つけたものです。更に、公式戦未出場の雪ノ下椿選手にも期待です!

 対するアルマは、リーダーの山野大騎選手が2丁拳銃の使い手として有名。そして魚野燐次選手と皐月める選手による絶壁で敵を寄せ付けないというスタイル!今回はどう出るのか乞うご期待!』


「学年最下位か……もう少し良い紹介してよ……」


 冷姫と雪ノ下が笑いを堪えている。仲間まで笑うなよ。

 俺はその姿を横目にのっそりと『BCP』の席に着く。やっぱり暑いなぁ。溜め息の1つや2つ吐きたくなる。


位置についてセット


 俺は、パスワードを打ち込む準備をする。


電脳空間潜行開始ダイブスタート


 素早くパスワードを打ち込む。さぁ、今回も勝つぞ。


 ーー今回の地形情報ーー

 フィールド、石油コンビナート

 天気、曇り

 環境、通常

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