現実と救済 6/25

「やっと授業終わったー!」


 土曜と日曜、祝日を除き、毎日六時間ある授業が、やっと終わる。


「今日何する?」


「俺と模擬戦してくんね?携帯ゲームの方の」


「なぁ、大空ー」


「何?」


「お前もやらねーの?」


「……ああ、俺はちょっとやりたい事あるから」


「最近、連れねーよなー」


 いつもなら、瞬間的に首を縦に振っていただろうが、今はそれどころではない。


「だって、退学するの嫌だし」


「あ、そうだな」


 そう言って、友達同士で笑い合った。俺は若干の苦笑いだったが。


「大空君!」


 そう言って、放課後の教室に入ってきたのは、意外や意外、駿河雀。教えを受けていた時、急に出て行ってから会っていなかったので、少し驚いた。表情を見る限り、焦っている。


「おい、大空。誰だ、あの美人」


「知らねーのかよ!山ちゃん!この学校の第3席だぞ!」


「え!?マジで!?」


 俺は急に白い目を浴びせられる。


「待て、そんなんじゃない!」


「それどころじゃないの!君、今月退学だって、たったさっき決まったの!」


 その言葉の意味を理解するのに、時間が掛かった。いや、理解したくはなかった。



 それから、駿河と共に職員室を目指した。会話は何一つなかった。

 そして、先生の一人から中に入るように言われる。


「君は、技術面では頑張っていたのだが、どうにも実戦の成績が芳しくない。残念だが……」


 目の前に座っているのは、学園長の虹村透。この学園創立時、つまり十年間学園長の座に居座り続けている。その誇り高き姿は、まるで皇帝。


「この日が来るのは、わかってました」


「……そうか。では、寮の支度をしてくれ給え」


「失礼しました」


 俺は学園長室から出ようとしたその時、部屋のドアが開く。


「失礼します。冷姫氷牙です」


 髪の毛を整えた冷姫が目の前に立っていた。


「その、こいつの退学の事なのですが、まだ今月の集計は、完全には、終わってませんよね?」


 学園長が顔をしかめ、前のめりになって、机に肘をつき手を結んだ。


「ああ、確かにそうだが?」


「こいつは、俺らのチームに今日入る事を志願しました。これがその新規登録願です。そして、今月末の三十日に決闘を受理しています」


 そう言って、冷姫は手に持っていた書類を学園長に手渡した。


「チームに入ったって、俺ハンコとかも押してな」


「話は後だ、黙ってろ」


 俺が最後まで言い切るのを、冷姫は制した。

 学園長が書類に目を通し始める。


「確かに、これは正当な申し出だ。生徒会からの印鑑もある。受け入れよう」


 これは、退学阻止。しかし、冷姫の顔はまだ深刻なままだ。まだ何か残っているのか。


「だが、月末の決闘は、来月の成績に加味される事になっている。この意味が、わかるね」


「……そんな」


 天国から地獄へ堕とされる気分に陥る。しかし、諦めずに冷姫は口を開く。


「なら、学園長。この交渉が決裂となると、俺も退学するって事なら、良いですか?」


「なっ、馬鹿かお前」


「黙ってろ、馬鹿」


「……わかった。学年2位の君の交渉だ、今回は受け入れよう。しかし、この決闘に負けたら、予定通り退学処分とする」


 ……冷姫のお陰で首の皮一枚だけだが、繋がった。


「ありがとうございます!」


 俺は声を張り上げたが、冷姫はペコリと礼をするだけだった。しかし、頬は緩んでいたように見えた。



「ありがとう、冷姫。なんと礼を言って良いかわからないよ……」


「礼は駿河先輩に言え。この作戦を作ったのは、駿河先輩だ。私はあの子を助けられる立場じゃないからって、俺に任されただけだ」


 突然、目頭が熱くなるのを感じた。周囲の人に何から何まで助けられっぱなしだ。


「助けられたからには、やるべき事をちゃんとやれよ。俺達は、お前のためにチャンスは作った。そのチャンスをちゃんと活かせ。言いたい事はそれだけだ」


 俺は、冷姫が冷徹な奴だと思ってきたが、心優しく熱いものを胸に秘めている男だという事を悟った。


「おう!」


 そして、彼から借りた恩。また駿河から借りた恩を返す為に、必ず次の決闘で勝たなければならない。

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