Justice Conductor 7/20

 山野とやり合ってる冷姫は最早頼れない。雪ノ下も遠距離系スキルは有していない。更には、俺も何1つ武器を持っていない。なら、俺の可能な限りの力は何か。

 ……残っているのは、音魔法。


「冷姫!雪ノ下さん!俺が一瞬時間稼ぐ!頼むぞ!」


「どっかで聞いたセリフだな」


 勝手に俺の口が動く。カッコつけてんじゃねえよ、俺。やるからにはやるしかない。冷姫もあの時のように期待している表情だ。


音魔法サウンド猫騙しクラッピング


 煙の中に姿をくらましている敵に向かって、指鳴らしフィンガースナップを炸裂させる。これは咄嗟の行動だった。俺自身いつの間にか撃っていた。

 フィンガースナップとは言っても、対象の聴こえる音は、クラッカーを耳元で鳴らした程の音量。怯むには丁度良すぎる。

 俺の耳元を矢がかすめる。相手にポイントがいこうと知ったこっちゃない。俺は仲間を信じている。仲間を信じることが正義だ!


「冷姫氷牙!お前の力はそんなものか!」


「槍相手はやりづれえんだよ!」


「余所見している場合か、冷姫!」


 山野の武器は、十字の刃の槍。鎌はモーションが大きすぎて、軌道が読めてしまう。完全に相性が悪い。かと言って、雪ノ下もリーチの差からして、槍に軍配が上がるだろう。

 なら、俺が時間を少し作ればどうなんだ。俺はこのチームで最も役立たずだ。自分を犠牲にする勇気も必要だろ!


「雪ノ下さん、氷の剣を!」


「わかった!」


「大空流弐ノ型・八重桜!」


 一か八かの勝負に出る。正直一度も成功していない。時間さえ稼げれば良い。カウンター技の桜花とは異なる、完全なるディフェンスモード。何度もスピード重視の雪ノ下に手伝ってもらっていた技。なんとかして、素早い連打を逸らす。氷が槍に当たると同時に脆くなっていく。


「残念だが、大空。お前の負けだ。どう足掻いても、最下位は最下位だ」


 槍が伸びた……?そんなの、ありかよ。俺の胸に完全に刺さり切る。山野、お前の槍のスキルは『伸縮』なのか……。俺がやられたことで、逆転される。敵が攻撃数を1つ上回っている。俺は撃破されるだろうから。


「だが、お前は大空に手間取っている間、何処を見ていた?『アルマドゥーラ』の残りはお前だけだ」


 俺は薄れ行く、景色の中、冷姫は鎌を振りかぶっていた。もう1人は、魚野だったようで、神速と化した雪ノ下が打ち破っていた。


未完成のアンフィニッシュド運命・ディスティニー!」


 山野と地面を抉る冷姫の一撃は、ゲームを完全終了させた。そして、俺も撃破されてログアウトとなった。



「大空君、凄かったよ!」


 鳳が俺のBCPに走ってくる。俺は蒸し暑いので、即座にポッドを開ける。


「俺は何もできていないよ」


「今回のMVPはお前だよ、大空。お前の稼いだ時間が勝利へ導いた。指揮者のようにな」


 敵の山野がこちらへ向かって来る。


「見事だったよ。最初の魚野の爆撃で倒せたと思ったんだがな。上手くいかないもんだな」


会稽かいけいの恥をすすぐってやつだ。俺達のキャプテンは、強いぞ?」


「難しい言葉で言うなよ、冷姫。今度やるときは、もっと楽しい試合やろうぜ、大空」


 山野が手を差し出してくる。俺は握手に応じた。戦いを通して、仲間が増える。そういう感覚を味わい、胸が熱くなった。


「あー、山野ばっかりズルい。今日の試合はハラハラして楽しかったよ!またしよう!」


「あなた達のタンク爆発攻撃を私がなんとか魚野ちゃんだけ守ったけど、まさか上手くあれを乗り切るとはねー、やられたよ!」




 大空君には、本当に不思議な力がある。仲間だけでなく、相手も指揮するように。彼と相手との実力差は歴然であっても、彼は相手を本気にさせるのに、熱戦を繰り広げる。本当にもしかすると、この学園の救世主になれるかもしれない。

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