新メンバーとエース決定戦 7/14

 俺が大罪を犯した?一体、俺が何をしたって言うんだ、この先生は。冷姫にした悪いことは、退学阻止の時に尽力してくれたことくらいだ。これは、俺が犯した大罪でもない。他には全く心当たりがない。


「さあ、ここがお前らの部屋だ。くれぐれも食堂の一件のようなことは起こすんじゃないぞ。あんなことされたら、私も溜まったもんじゃないぞ?」


 あ、知ってたんだ。主犯はほとんど冷姫だけなんだけど。

 まあ、思ったより広い部屋で安心した。


「遅れてすみません!あ、皆さんもう着いて……って冷姫さんだけいませんね」


「……え?誰?」


 玄関から部屋を見ていると、後ろから女性の声がする。幽霊?怖。


「そんなおぞましい物を見るような顔で見ないでくださいよー。冗談きついですよ!キャプテン!」


 待って、色々整理つかない。このお淑やかそうな黒髪美女、誰。てかなんでこの子が俺のことキャプテンって呼んでんの。ちょっと、わけわかんない。


「え、もしかして、お前ら、氷牙から聞いてないのか?」


「聞いてるか?二人共」


「「全く」」


 お淑やかな少女は、口に手を当て、ええっと叫んだ。驚く姿までお嬢様風なのね。


「冷姫氷牙、只今到着いたしました」


「到着いたしました、じゃねえよ!なんで一番伝えるべき事柄伝えてねえんだよ!」


 先生が氷牙の首を掴み、ぐらんぐらん振る。それは先生よ、冷姫死ぬ。

 というか、冷姫と先生以外疎外されている。蚊帳の外ってヤツだ。


「いや、それは、てか、先生。そろそろ首」


 冷姫の顔が真っ青になり始めている。先生はようやく首から手を離す。


「この子に実力があるか試してからにしたいんですよ。本当にこのチームに入るべき実力があるのか」


「まあ、それは一理あるけどだな。その旨こそ、仲間に話せよ……」


 先生に完全同意する。鳳と榊原と女の子が頷いているのを見て、この三人も同意していると見受けられる。


「でも、気に食いません。お言葉ですが、冷姫さん。私は貴方に勝てるかもしれませんよ?舐めてもらっては困ります」


「……ほう?俺に喧嘩売るって言うのか?」


 女の子と冷姫はブチギレ寸前といった状況。なんでこうなったよ。新メンバー迎える時くらい温厚に過ごせないかね……。俺の時だって、相当暴れてたし。


「わかった。わかったから、二人共落ち着け。なら、二人が模擬戦すれば良いじゃないか。それで実力を測ればいいだろ。面倒くさいな」


「先生に俺も賛成だ。だが、容赦しねえぜ」


「こちらこそ、手加減はしません。

 あ、申し遅れました。私の名前は、雪ノ下椿です。今後ともよろしくお願い致します。皆さんのお名前はお見受けしているので、自己紹介は結構ですよ」


 ご、ご丁寧に……。気が行き渡り過ぎて、こちらこそよろしくという言葉すら口から出せない。

 大雑把な冷姫とは、背反する関係、犬猿の仲という印象しかないな……。この子にとって『ブレイヴ・ハーツ』は良いチームなのだろうか……?




『準備はできたな?じゃあ、3番勝負で、どちらかが2勝した時点で終了ってことで良いな』


 BCPは部室棟に1階毎に6台置いてあるため、そのうちの2台を使い、一騎討ちの3本勝負とする。先生が審判役として、アナウンス室に移動している。俺達はAV室オーディオビジュアルルームで観戦しか出来ない状態にある。


「榊原、鳳さん。どちらが勝つと思う?」


「普通冷姫だと思うけど……」


「俺は、雪ノ下さんの言動が少し引っかかる。学年2位に、冗談でもあんな大口は叩かないよ」


 榊原の指摘通り、俺もそこが気になっていた。雪ノ下は見た限り、謙虚な性格。しかし、同時に、自分に絶対なる自信を持ち合わせているように見えた。何か策があるのかもしれない。


 雪ノ下の刀は、『蓮華不知火』。武器固有スキルは『加速』。時間が経つにつれ加速する曲者の武器。対して冷姫は『冷酷姫暗殺鎌メドゥーサズサイズ』。固有スキルは、使用者の体の通過。一見地味に見えるが、自傷しないのはかなりのメリットと言える。


『1ラウンド開始』


 両者の差は、50メートル。冷姫がいきなり、速攻を仕掛ける。すると、突然雪ノ下の場所に突風が巻き起こる。何故か、雪ノ下にとって追い風だ。どういうつもりなんだ、自分を遅くしてどうする。


「いきなり冷姫の十八番か……。これは雪ノ下さんの一本負けだな」


「榊原。それって一体」


「見てたらわかるよ」


 あれ、冷姫からすると向かい風のはずなのに、冷姫は遅くなる気配すら見せない。むしろ速くなっている。雪ノ下に至っては、前に進むまいと踏ん張ろうとしているが、徐々に前に押されている。


「どういうことだ」


「向かい風は向かい風でも、受ける位置を変えれば、揚力と空気抵抗の合力で加速するんだよ。帆船の原理だよ」


『電光二連撃・月光』


 冷姫はスピードを緩めることなく、蝶が空を舞い踊るように一回転し、超高速の斜め斬りスラッシュを雪ノ下に二撃食らわせる。雪ノ下は防御に入ろうとしたが、間に合わなかった。

 このRは冷姫の勝利だ。初めて冷姫がまともに闘っている姿を見たが、強い。頭脳プレーを駆使した、自分のポテンシャルを最大限に活かした戦闘だ。


『やめるなら、今のうちだぜ』


『いえ、大体わかりました』


 ほう。雪ノ下がこの勝負を受けて、どう出るかが見ものだな。


『2R開始』


 冷姫はやはりすぐに動き出す。『蓮華不知火』の加速を気にしているのだろう。この判断は、間違っていないと思う。しかし、安直に行動してはならない。まだ椿の付与スキルが判明していない。冷姫の付与スキルは、『風』。相性さえもわからない状況で、攻めることは安易なことではない。

 今度は雪ノ下も動いた!今度は風を起こしていない。どんな攻め方をするつもりなんだ。


十六夜イザヨイ陽炎カゲロウ


『神羅八連撃・天地創造』


 雪ノ下のスキルは、『炎』なのか!一瞬、ペースを遅くして、冷姫を乱してから、即座にスピードをトップスピードに戻して、更に翻弄する。冷姫は唐突な神速攻撃に、真っ向勝負で挑む!

 がしかし、一本上手だったのは、雪ノ下だった。冷姫の技を予想していたのか、パルクールのような機敏な動きで、冷姫の地面をえぐり取る連撃を避けながら、素早い突きを放ち、冷姫を戦闘不能に陥れる。


『私の強さ、わかってくれましたか?』


『まあどっちが強いかは今にわかるさ』


 二人の模擬戦は、想像以上のものだった。AV室にいる俺達は息を飲んで見守ることしかできなかった。


「これ、どっちが勝つんだろうね……」


「さ、さぁ。まさか、雪ノ下さんがここまでやるとは、俺も想像してなかったからね」


 二人の意見に同感だ。俺達は雪ノ下を甘く見ていた。よく、こんな逸材が、1学期終了時点までチームに入らず残っていたものだ。


『3R開始』


 今度は、冷姫が動かない。何を考えているんだ。相手を速くさせるだけだぞ。


十六夜イザヨイ吹雪フブキ


 雪ノ下の攻撃は、『炎』だけじゃなかったのか!?今度は氷の攻撃。やはり、変速攻撃。稲妻模様のように動いて、出来る限りの加速と氷を貯めている。

 冷姫だけでなく、全ての人物が察していたに違いない。この攻撃を食らうと、負ける。

 しかし、冷姫は落ち着いていた。


未完成のアンフィニッシュド運命ディスティニー


 風によって、大鎌の回転を起こし、加速させる冷姫。これも凄まじい威力。ギャルギャルという空気が怒り狂う音がしている。

 冷姫が、回転を止め、炸裂する風をまとった鎌を振り下ろそうとするモーションに移る。


『その技は知ってます!』


 冷姫の背後に、雪ノ下が回り込む。

 これは冷姫の負けだ。この場の全員が、そう判断しかけたその時。


『どうかな、見方を変えなけりゃわかんねえモンもあんだよ』


 冷姫はそのまま大鎌を振り下ろす。

 そう、全員がこの時忘れてしまっていたのだ。


冷酷姫暗殺鎌メドゥーサズサイズ』は、冷姫の体をすり抜けることに。

 冷姫の体を通過した鎌は、そのまま雪ノ下の体を断ち切り、完全なる一本勝ちだった。

 これが、冷姫氷牙。学年2位の実力は、本物だった。


『この勝負、冷姫氷牙の勝ち』


 そう先生の言葉が締めくくった。

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