下剋上と独壇場 6/20

 冷姫氷牙、大鎌の使い手。彼の大きな鎌から放たれる風魔法によって、竜巻や衝撃波などを生み出し、攻撃したり、相手の動きを阻害する事を得意とする。

 鳳爽乃、狙撃銃の使い手。目に装備している特殊なコンタクトによって、風速や距離などを計算し、射撃成功確率を見抜く魔法に特化している。

 そしてこの俺、大空正義。基本装備は片手剣。音を操る魔法を使う。闘いでの使い道?それは聞かないでくれ。


 どうやら冷姫と誰かが接触したようだ。

 自らワックスで整えたのか、爆発したのか、寝癖なのかわからない髪型。速水流星しかいない。彼は、流れ星のような魔法を使う事を得意とする、学年でも有名な男。整備担当の目から見て、あれは火と光の合成魔法と俺は推測している。

 ふむ。速水対冷姫。なかなかの見ものだ。

 速水の魔法のスピードはかなり速いが、どうやら冷姫の風によって、綺麗に逸らされている。体ど真ん中に入りそうなものは、冷姫の優れた身体能力を活かして、鎌を使った軽業で避けたり、風魔法をまとった鎌で打ち落したりしていた。まもなく軍配は、冷姫に上がろうとしている。

 しかし、冷姫の後ろから新たな刺客。黒いオーラのような影に包まれた、俺が今まで見たものの中でも、とりわけ禍々まがまがしい本性は、まさか……。


「冷姫、後ろだ!」


 俺の声が届いたのか、ギリギリで学年トップの、闇を刃物状にした攻撃を体を捻って避ける。

 真霧聖司、闇魔法の使い手。闇によって、どんな物でも構築・破壊するというチート能力の使い手。流石、特待生を除いた学年第1位だと言える。もしかすると、それは何名かの特待生をも凌ぐ実力で、学園内の10本の指の中に入る日も遠くはないと謳われている。更には、容姿は端麗で、黒色の髪に白いメッシュがアクセントを加えている。性格も良いらしく、全ての男子が嫉妬心を抱くと言っても良い。


「おい、流星。君は他の二人相手って約束していただろ」


「あはは。ごめんごめん。じゃあ、ここはよっろしく〜」


 俺はこの瞬間、戦闘を繰り広げていた場所と比較的近い位置で傍観していた事、冷姫に呼びかける際、通信手段を用いなかった事を悔やんだ。速水に俺の場所がバレたのだ。

 どうする。俺には、音を使う魔法しかない。そうだ、倒すのは、鳳に頼めば良いのではないか。俺は速水を引き付けるだけで良い。

 小型マイクをふんしたトランシーバーを使い、鳳と連絡を取り合う。


「鳳さん、君がいる場所から速水は狙撃出来るかい?」


『ギリギリ射程範囲内だけど、彼の動きが速すぎて狙いが定まらない』


 それで良い。奴を倒すには、条件的に充分だ。


「じゃあ、俺は速水相手に、一瞬だけ、時間を作る。それを狙って狙撃してくれ」


 その無謀な賭けに、鳳は少し驚きつつも了承してくれた。


『……信じて、いいのね?』


「きっと、大丈夫さ。任せてよ」


 チャンスは本当に一瞬だけだ。速水は火と光の魔法を錬成し始める、その一瞬を狙うしかない。

 速水の攻撃の仕方は、一つ、のはず。魔法を生成した右腕を前に出すモーション、それたった一つだけだ。そうすれば、流星の如き攻撃が飛んでくる。

 つまり腕を上げた時、つまりモーションに移った瞬間が勝負なのだ。それこそが、走るという動作を停止する時であり、周りに集中を切らしている時なのだ。

 速水が全力疾走で向かってくる。速水は走りながら、右手を前で止めた。俺は速度が緩んだその瞬間を見逃さなかった。密かに仕込んでいた魔法を解放する。


ーーザザッーー


「おい、速水!待て!止まるんだ!」


「何だ、秦哉!?……いや、あり得ない!あいつは速水なんて呼ばない!」


 本当に一瞬だけだった。速水は完全に、静止、混乱した。

 そう、先程出した音は、俺が、相手の主将の真霧の声を『真似た』魔法だ。速水は正しい行動を起こした。それ故の失態。

 誰もリーダーの指示には逆らえない。避けられない命令を利用した一度限りの戦略ストラテジー


『ナイス!大空君!』


 鳳が放った、ライフルからの会心の一撃で、悔しそうな顔をした速水は一発退場となる。刹那の静止は、生死を分ける一発を撃ち込むには、十分な時間だった。


「君は一体何をしたんだ……?」


 真霧の視線がこちらを向く。冷姫は闇で構築された掌で押さえ付けられて、動けそうにない。鳳も銃で応戦しているが、薄いカーテンのような闇のガードによって、その弾丸も無にす。これで俺も退場か。俺にしては十分に仕事はしただろ。


「ちょっとした弱者の足掻きげこくじょうさ。それ以外何でもないよ」


 そう言い放って、俺も真霧からの闇の一撃で退場させられた。その魔法を見て、圧倒的な力の差を思い知る。ブラックホールに吸い込まれていくように、ゆっくりと時間が経っていくような気がした。



 気が付くと、既に戦いは終わっていた。


「完敗だね、冷姫君。俺がこんなので、本当に申し訳ないよ」


 結果は、真霧の独壇場。呆気ない幕切れだったようだ。速水以外は倒せず、それで終い。あの冷姫でさえ、全く歯が立たなかったようだ。敵チームの最後の一人は、いつものことながら動きすらしてないらしい。何がしたいんだか。

 俺の言葉に冷姫と鳳が、きょとんとした顔を見せる。


「……完敗じゃない。お前、いや俺達は一人倒した。しかも、あの速水を」


 冷姫がボソッと呟く。


「お前……名前は大空って言ったか」


「そうだけど、何?」


「俺達のチーム『ブレイヴ・ハーツ』に入らねえか?バトルメンバーとして。整備士兼任でもいい」


「……へ?」


 俺は冷姫の言葉が信じられなかった。


「勿論、無理にとは言わねえ。考えてくれ」


 そう言って、冷姫達は立ち去った。


「君、面白いね。君に興味が湧いてきたよ。僕達のチーム『ダーク・クルセイダーズ』の一員にするのも良いけど、是非もう一度、成長した君と戦いたいよ。

 良ければ、名前を教えてくれないか?」


 真霧がそう言って、歩み寄ってくる。


「……大空。大空正義」


「へぇ、正義君か。覚えておくよ」


 そう言って、真霧達も立ち去っていった。速水には睨まれたが。あと一人の顔は見えなかった。本当に正体が知りたいものだ。

 その後に、各チーム主将と握手を終えた駿河が歩み寄ってくる。


「学年最下位が自分の得手を活かして、主席のチームの一人を倒す、か。

 私も君の事、気に入った。大空正義君。

 ……私、決めた」


「決めたって、何をですか」


「私が、君をこの学校の祭典、『エルドラード』に連れて行く」


 特待生を除いた各学年の1位のチームを決める、三大バトルイベントの一つ、それがエルドラード。参加チーム数は、学年で8チーム。そこから1対1のトーナメント形式で、各学年の優勝から3位決定戦勝者までが、学園最高峰のバトルイベント、『ラグナロク』に参加する権利を得ることが出来る。そこには、今まで影を潜めてきた特待生も3チームが参戦し、学園1位のチームを決める。


「いや、絶対無理ですって!」


「大丈夫、私が誰だかわかってる?」


 俺は学園第3席の言葉に対して、ぐうの音も出なかった。



 この勝負こそが、俺のこれからの運命を変えたのだった。

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