EPISODE.XV 断金の交わり

 人通りの少ない寂れた街並み。


 本来ならば笑顔の民衆で溢れ、商人などが行き交い賑わいを見せるであろうこの道の端には、職を奪われ死んだ魚の目をした浪人や、物乞いたちが日柄ただただ空を見上げて座り込んでいる。


 ここがこの国の中心――朝廷の街であると云われて誰が信じる?


 そんな街道を軍馬に乗った一団がゆっくりと移動していた。


 軍旗に掲げられた文字は『孫』の一文字。南海地方を統治する『呉』の客将たちである。



仲謀ちゅうぼうお姉さま……お父上は大丈夫なのでしょうか?」



 白い軍馬に跨った幼き女児が隣を並走する黒き軍馬に跨る女性に声をかける。



「大丈夫よ、尚香しょうこうお父上のことは心配いらないわ。……そう、お父上のことはね」



 そう言葉にしながら仲謀ちゅうぼうと呼ばれた女性は更に隣の馬に跨る武官へと目配せをしながら言葉を続ける。



「目下の問題はお父上のことよりも……大姉さまの方よ。はあ……それで、見つかったの?」


「いえ、我々の部下も手を尽くしてはいるのですが……中々に……」



 その報告を聞いて仲謀ちゅうぼうと呼ばれた女性は「はあ……」と大きなため息を吐く。


 ――こんな時に何をしているのですか、


  今、一体どこにいるのですか……大姉さま……。




 ■ ■ ■




「ホホホ、のう、そこの者、お主じゃ、お主。大層面白い相が見られるのう。どうじゃ、一つ占っては見ぬか?」



 ――へぇ……占いねぇ。


 行くあても無く風の吹くまま気のままにぶらりぶらりと一人旅。ならばこの道の先、歩むべき道を占いで決めて見るのも又それは一興か?


 しかもこの占い師。外見ではまだ十やそこらの女児にあるにも関わらず、その言葉使いや雰囲気からはかなりの年期が感じられる――これは面白い。



「カカッ、そいつは面白れー、そんじゃ一つ占ってもらいましょうかねぇ」



 アタシはその女児の前に腰を掛けると自分の手相を見せつける。どーだい、お若い占い師。オマエにアタシの道が見通せるかい?


 ――この手がいずれはを取るんだぜ?



「ふぅむ、主――名を何と申す」



 アー、本名はさすがにマズイかぁ……。


 今は文官から逃げるために民の身に扮してはいるがこれでも南海を統治する孫家の次期頭首の身の上だ。相手が幼き女児とは云え『孫伯符そんはくふ』の名は知られている可能性がある。



「アー、そーだなぁ、アタシの名は『天下てんか』だ。カカッ、そう文字通り、――アタシは天下を取る女だからなぁ」


「ホホ、『天下』とな……、ふぅむ、これは中々愉快なことを云う。しかしながら残念であったな――お主。早死にするぞ、恐らくは『蜂の毒』でな」



 カカッ、このアタシが早死に!?


 しかもそれが『蜂の毒』でなんて笑わせる。



「カカッ、おいおい、云ってくれるねぇ、お嬢ちゃん。それじゃ何かい? その死を免れるのにアタシは幾ら払えばいいのかな」



 面白い風体をしていたので期待していたのだが所詮、占い師などこんなものか……先を見通す力など有してはいない。死を目の前にチラつかせその不安を商売とする。


 まあ、良い『蜂の毒』とは笑わせてもらった。少しくらいの駄賃ならば支払てやるとしよう。



「ホホホ、金の類など要らぬよ、の。もし生きる道を探すのならばこれより西へと向かうと良い。そこで主の生涯の友と出会うのじゃ、名は――ふぅむ、こればかりは良く見通せぬなぁ……『しゅう』のあざなを有する者じゃ、ホホホ――儂が見分するに、?」


「なっ――!」



 思わず言い返してやろうと思ったが……アタシに友人……


 あれ……? そう云われてみれば名前がパッとは出て来ない。


 蒋欽しょうきんは……親しいが友人ってほどでもねーし、あれ、おおおおおお??


 ちょっと待ってくれ、あれ?


 ――アタシってもしかして友達いねーのか??


 この占い師の世迷いを真に受けたわけじゃねー、受けたわけじゃねーが……。


 アー、そうだなぁ。もしこの天下を取るアタシと対等に肩を並べられる――そんな『友人』とも呼べる存在がもしもそこにいるのであればこの幼くどこか奇妙な占い師の言葉のままに西へと行くのも悪くない――アー、それはそれで面白い。



 ■ ■ ■


 

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銀色のJOKER きたひなこ @KITAHINAKO

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