EPISODE.X 前世療法


「ピー、ピー、理解いたしました」



 自称『セイバー』――通称『ロボ子』がゆっくりとその瞳を開く。



「つまり現在、マスターは記憶領域ハードディスクに大きな欠損があり、自分の名前も分からなければ、これからどうすれば良いのかもわからない……そう云う状態であるということですね?」


「あー、まじで困ったことにな……」



 俺はロボ子に自分の境遇を簡単に説明した。まさか自分の名前まで憶えてねーなんてなぁ……あー、さすがにこいつはショックがでけぇ。



「@もう一点だけ、データ収集の為に質問への回答を求めます。先ほどの話によればマスターには『超次元時空肉体転移スーパーワールドフィジカルシフト』なる優れた復元機能バックアップシステムが備わっているらしいですが、その機能を使用することで記憶領域ハードディスクの欠損を復元することはできないのでしょうか?」


「ああん? あー、そいつはなんか無理らしい。俺にはどういう理屈かさっぱりわかんねーがグチャグチャになった脳は直せても中身の記憶まではそのまま維持されるつー話だ」


「ピー、ピー、了解です。正常に理解いたしました」



 俺の言葉を聞いてロボ子は納得の表情を見せる。



「はあ? おいおい、理解できんのかよ……俺にはいまいちピンとこねーんだよなぁ。大体、記憶って脳の……あー、何つったけ? あの『海草かいそう』みてーな部分にあるんじゃなかったけか? そこが元通りに復元するんなら記憶も元通りになるじゃねーかと思うんだけどなぁ……」


「ピー、ピー、マスター。脳構造における記憶を保存する箇所の名称について正しくは『海草かいそう』ではなく『海馬かいば』そして『大脳皮質だいのうひしつ』であると指摘します」



 ああん、それがどうした、脳味噌の中の正しい名称なんて知らねーよ。



「補足致します。記憶領域ハードディスクである海馬や大脳皮質は各種データを収納しているだけのただの『箱』に過ぎません。その中には目で見たことが画像(JPG)データとして、そして映像(AVI)データとして、耳で聞いたことが音声(WAV)データとして、人と話した内容やその時に感じたことなどが全て文章(TXT)データとして保存され、そのデータの一つ一つが『記憶』となっているとお考えください」



 はぁ……? ロボ子の言葉に俺はなんとなくパソコンを思い浮かべる。



「では、マスターに問います。その記憶領域ハードディスクを外から物理的な衝撃を加えて破壊します。すると中の各種データはどうなると思いますか?」



 ああん、そりゃー、当然、全部ぶっ壊れるだろ……あれ、そうとも限らねーか?


 中には壊れて読み込めなくなっちまうデータもあるかも知れねーけど、場合によっては無事なデータもあるかもしれねーのか……ああ、なるほどなぁ……なんとなくだけど理解できた。


 確かに壊れちまったハードディスクから中身のデータを救出する方法もあるっちゃある。中身のデータは残ってるけどハードディスク自体がぶっ壊れて読み込めなくなっちまっている状態ってことだろう。



「マスターの『超次元時空肉体転移スーパーワールドフィジカルシフト』は壊れた記憶領域ハードディスク……その記憶を保存しておく保存領域パーテーションをあらゆる次元の形へと変更や復元可能ですが、その中身に保存されているデータまでは影響を及ぼさずそのままであると認識いたします」


「ああん、つまりが……だ、現状の脳味噌は正常に記憶を保存できる状態に治っているけど、あー、なんつーの? いくつか読み込めないデータ領域があってそれがこの記憶の欠落に繋がっているっつーわけだな? つーか、どうしてそんなことになってんだ?」



 頭部を摩ってみるが瘤一つできてない……あー、そりゃそうか、外傷は完全に復元しているんだった……今からでは確認のしようがねーや。



「マスターのお話を拝聴する限り、おそらく大きな事故に合われたその時にデータに欠損が発生したものと推察されます。『重要な記憶』を脳に保存しようとしていたちょうどその時に『何らかの大きな圧力』を加えられた……そうですね、例えるのならばゲームデータのセーブ中にゲーム機の電源を落としたり、メモリーカードを無理やり抜き差ししたりしたとお考えください」



 おー、なるほどなぁ、その例えはすげえ理解しやすいわ……



「んんん……あれ? んでも、そーなると……それで壊れちまったデータって二度と読み込めなくなっちまうんじゃねーのか?」


「いいえ、そうとも限りません。これが単純なゲーム機ならば壊れたデータの復旧には困難を極めることになりますが、人間の海馬を覆う『大脳辺縁系(レジストリ)』には記憶を断片的に予備保存バックアップする高性能な機能システムが備わっております。その断片的な予備保存バックアップデータをうまく引き出すことができれば記憶の復元は十分に可能であると考えます」


「ふーん、それで? その断片的な記憶ってのを引き出すには一体どーすりゃ良いんだ?」


「そうですね……古典的な手段を用いますと、記憶喪失時と近しい体験をさせる、又は、同等の衝撃を与えるなどといった方法がありますが……いかがなさいますか?」



 近しい体験……もしくは同等の衝撃……だとぉ?


 頭の中に薄らとあの時の記憶が蘇る。


 分断された四肢に流れる出る血液。燃え盛り肌を焼く炎の熱さと暗い眠りを誘い、心を凍らせる死の冷たさ……


 おいおい、冗談じゃねーぞ!


 どうしてこの俺があんなひでぇ思いをまた体験しねーといけねーんだ?


 交代だ、交代っ!


 俺はツンと立てていた前髪を下すとゆっくりと瞳を閉じた。




■ ■ ■




「マスター……? いきなり瞳を閉じてどういたしました? これは先ほどお聞かせいただいた事故と同じ体験をする覚悟ができたということでしょうか? ピー、ピー、理解しました。不肖、このセイバー、マスターとの契約を元に全身全霊を持って先の大災害の再現をさせてみせましょう! マスターのその強気覚悟に答えるべく、私も本気で行かせて頂きます。――『約束された勝エクスカリ……」


「ひぎぃ、いきなり交代とか鬼畜が過ぎます! ちょーーと、待って下さい、ロボ子さん! 違います、違います! ストップ、ストップです!」



 おおう、一体どこから取り出したのでしょう?


 メイド服姿のロボ子さんの右手には小型のチェンソーが音を立てて回転し、左手には火炎放射器のようなものが握られて少量の炎がチロリチロリと噴き出しておりました。


 そしてその武装で一体どのような技を繰り出そうとしていたのでしょう?


 途中までとても危険な技名を云いかけていましたが……嗚呼、恐ろしすぎます。


 いくら同じ体験をするのが嫌だと言っても、わざわざこのタミングで僕に交代するとか本当に僕への扱いが酷過ぎます! 面倒事や嫌な事はとりあえず僕に任せようとするこの風潮は大変によろしくありません!


 そう、断固抗議です!


 嗚呼、これは近いうちに必要があると考えます。



「マスター? 何やら先ほどとは中身OSが入れ替わっているような印象を受けます。パラメーターで表すと『攻撃力(ATK)』の値が大幅に低下して『防御力(DEF)』の値が大幅に上昇いたとお見受けしますが……一体いかがなされました?」


「あー、気にしないで下さい。これはまあ……その、一種の持病のようなものです、はい」



 僕のこの現象に関しては記憶の欠落とはまったく関係のないことです。


 ロボ子さん風に言い表すならば、他にも『知力(INT)』の値が大幅に上昇する中身OSも常備しておりますがその辺りの事をロボ子さんに詳しく説明する必要はないでしょう。



「記憶の復元方法について可能であるならば他の方法を提案したいのですが……いくら怪我を復元できる体に改造されたとはいえ、痛い思いをするのは全力でご勘弁を願いたいところです」


「ピー、ピー、別の方法ですか……ならば記憶を退行させていきましょう」


「記憶の退行……? あの……それは催眠術か何かでしょうか?」


「いいえ、そのような特殊な技術は用いません。ただ過去の記憶を探索サルベージするように覚えていることを口に出していくだけのことです。これから私が質問していくのでマスターはそれに回答をしていってください。@覚えていないことは無理に思い出さなくても結構です。分からないことは『分からない』とお答えください」



 ふむ、なるほど……それで些細なことでも思い出せればそこから芋づる式に記憶を復元していくというわけですか。


 嗚呼、それならば試してみる価値はありそうです。



「ピー、ピー、ファーストフェイズです。まずは事故前の記憶です。名前……は覚えていなかったのですよね? どんな所に住んでいたのかは覚えていますか?」



 ふーむ、住んでいた所ですか……ぼんやりとですがその風景が頭をよぎります。



「『道場』……嗚呼、そうです……『広い道場』でよく体を動かしていたような気がします」


「『土壌』……ピー、ピー、検索ヒット二件。ずばり、マスターの正体は『モグラ』か『ミミズ』のどちらかであると絞られました!」


「ストップ、ロボ子さん、全力で否定させて下さい! 『土壌(どじょう)』ではなく『道場(どうじょう)』です!」



 まさか一つ目の質問からモグラさんかミミズさんかに絞られるとは思ってもみませんでした。何故、オケラさんがその対象から外されたのかはご理解できませんがここはロボ子さんを信じて次の質問へと進みましょう。



「ピー、ピー、セカンドフェイズです。『道場』……その『広い道場』にマスターはお一人でしたか? 家族、友人の姿はありませんか?」



 家族……友人……嗚呼、そう云えば……そうです。広い道場で一緒に汗を流す人物がいました。そう、ぼんやりと……ぼんやりとですが徐々に記憶が蘇ります。


「親は……いない、広い家と道場で……そう、一人で暮らしていたような気がします……友人が……はっ、そうです! 義理の妹がいました! 毎朝家にやってきては僕の朝食と昼のお弁当を作ってくれていたのです!」



 そうです! なぜ、僕は義妹いもうと様のことを忘れていたのでしょう! 


 そもそも、あの夜――そう、僕は義妹いもうと様を追って……



「マスター……」



 んん? あれれー、なぜでせう……?


 僕の記憶が戻り始めているのにロボ子さんがそれはもうとてもとても残念そうな可哀想な子を見る瞳でこちらを眺めておられます。



「親の不在の一人暮らし。血の繋がらない義理の妹。毎朝の朝食とお弁当の準備。マスター、断言いたしましょう。それは大変悲しいことに全て貴方の妄想です。検索ヒット一件……『それなんてエロゲ?』」


「いや、いや、いや、いやっ! ロボ子さん! 確かにご指摘の通り『それなんてエロゲ?』的な状況ではございますが全て本当のことなのですよ! 信じてください!」



 そうです、はっきりと思い出しました。事故に合ったあの日の夜、僕は義妹いもうと様の行方を必死に追っていたのです。


 ――事故……??


 いいえ、違います。あれは事故などではありません。


 ――事件……??


 そう、あの事象を言葉にするならば事件です。


 そうです。あの夜に僕は対峙したのです。


 あの人の形をした異形の化物と!


 あの銀色の髪の……







      『 JOKER ――ジョーカー―― 』







「ん、マスター……? 今……なんとおっしゃいましたか?」


「『ジョーカー』です、――そう、『ジョーカー』……それ以上は……うう、思い出せそうにありません」



 嗚呼、頭の中に濃い霧がかかったように再び記憶がぼやけていきます。



「ピー、ピー、超多次元電子情報網インターネットに接続します。ピー、ヒュルルルル……ピー、ヒュルルルル……検索ワードを入力『じょーかー』……」



 ――以下、検索結果を表示します。



 ● 消火(しょうか)[名]


   火を消すこと。


   常用:


  「ブログが炎上してしまったので2chで自作自演を駆使して――する」



 ● ショッカー(しょっかー)[団体名]


   イッー! イッー! イッー! イッー!



 ● 浄化(じょうか)[名]


   きれいにすること。清浄にすること。

 

   常用:


  「『COMIC LO』に三十路女の写真を入れてロリコン共を――する」



 ● 女禍(じょか)[人名]


   古代神話上の女神。


   三皇の一人であり、人類の創造主。



 ● ジョーカー(じょーかー)[固名]


   道化師。死神。


   トランプにおける番外の札であり、最高の切り札。




 ――以上、検索終了。



「ピー、ピー、マスター、検索結果が出揃いました…………イッー! イッー!」



 いや、ロボ子さん、どう考えてもその検索結果では御座いません。確かに僕はあの残念なお姉さんから怪しげな改造手術を受けましたが悪の秘密結社で働いた過去も、これから働く意思も御座いません。


 嗚呼、おそらくこの場合はトランプのジョーカー……つまりは道化師や死神、そして切り札などのことを指しているのでしょう。


 ――それが果たして一体何を意味しているのかは今のところ定かでは御座いませんがトランプのジョーカーを見た記憶が薄っすらとですが御座います。



「……ロボ子さん、ひとまず僕は義妹様を探そうと思います」



 それと、そうです。あの夜、僕は確かに義妹いもうと様の行方を追っておりました。義妹いもうと様に合うことができれば自分が何者であり、そして、一体何があったのか……その全てを思い出すことができるはずです。



「はあ、マスター………空想の義妹さんを、ですか?」


「実在の義妹いもうと様です!」



 どうやらロボ子さんは蘇った僕の記憶に対してまだ半信半疑のご様子です。取り敢えずその可哀想な人を見る目を今すぐに止めて頂きたい所存でございます。


 嗚呼、まあ、ロボ子さんが僕の記憶を疑うのも無理はありません。何せ僕はまだ自分の名前も思い出してはいないのですから……



「ピー、ピー、すると当面の目的は人探しですか……ならば私のデータベースの中に適任者が存在します。ここから北へ数十里離れた位置に『崑崙山こんろんざん』と呼ばれる『闡教せんきょう』の仙人の皆様方が暮らす山があります。その入り口にある『麒麟崖きりんがい』、そこにいる『白鶴童子はつかくどうじ』様ならばきっとお探しの人物を見つけることができるでしょう」



 はあ? 仙人……?


 なんだか一気に話が胡散臭くなってきました。



「@加えて私の創造主であり、マスターに改造手術を施した『太乙真人たいつしんじん』様もきっと崑崙山こんろんざんの方へお帰えりになられていると思われます」


「はい……? あの無駄にスタイルの良いとても残念な白衣のお姉さんが……ですか?」


「はい、太乙真人たいつしんじん様は闡教せんきょうのエリート仙人の中でも『十二大仙じゅうにたいせん』に名を連ねる実力者。エリート中のエリートです。おそらくは崑崙山こんろんざんにあるご自身の研究室ラボへと戻って今回の実験データを元にまたトンデモ兵器の開発に精を出しているものと思われます」



 うーん、『仙人』と言われても……正直なところピンとはきません。


 しかし瀕死の僕の体を某スーパーロボット(復元機能付き)へと魔改造することができるのですからロボ子さんのおっしゃる通り、きっと、性格はどうであれとても凄い人なのでしょう。


 うーん、僕個人としましては、これ以上自分に危害を加えないのであれば特に思うところはないのですが……どうやら僕の中にいるという、暴れん坊将軍があの残念お姉さんを一発ぶん殴ってやらないと気が済まないようなので、それも含めるとロボ子さんの提案通りにその崑崙山こんろんざんとやらに向かうのは悪い選択肢ではない気がします。



「分かりました、ロボ子さん。とりあえずその崑崙山こんろんざんへと向かいましょう。ご案内いただけますでしょうか」


「ピー、ピー、了解しました。……@それと私のことですが、『ロボ子さん』ではなくどうぞ気軽に『セイバー』とお呼びください」


「あー、すいません、それは丁重にお断りいたします」



 その呼称を気軽に呼ぶことで洒落の通じないツマラナイ大人の方々と大変にご厄介な揉め事を起こす気は更々御座いません。



「ピー、ピー、困ったマスターです。『ロボ子』だと姉弟機と区別がつかなくなる恐れがあるのでご提案をさせていただいているのですが……」


「姉弟機? ……え? ロボ子さんには姉弟機がいるのですか?」



 嗚呼、そういえば説明書には『試作型I号』と記載されておりました。確かにあの表記ならばⅡ号機、Ⅲ号機がいても不思議ではありません。



「はい、私、超合金黄巾力士スーパーロボット試作型I号『剣鉄子つるぎ てつこ』にはいくつかの姉妹機が存在します。Ⅱ号機の固体識別名は『弓鞘男ゆみ さやお』――通称『アーチャー』です。@他にも……」


「あー、ロボ子さん、ロボ子さん、もう本当に結構です。これ以上は勘弁してください。大変に危険です」



 著作権侵害という名のリアル『聖杯戦争ほうていさいばん』だけは絶対に避けなければなりません。怒られない限界ギリギリを攻める……そう、この世界は常に危険と隣合わせなので御座います。ことライトノベルというジャンルにおいてある程度やらかしても許されるのは『ジョジョネタ』だけだと言ってもいいでしょう。


 ――否、寧ろ昨今の流行を鑑みるに『ジョジョネタ』を用いることはもはや必須科目といっても過言ではないとも云えます。嗚呼、問題はどこで「オラオラオラオラ!」とラッシュを叩き込むか……そのタイミングが重要なのです。



「ところでマスター、貴方はなぜ上半身裸なのでしょうか? 上半身を露出することに快感を覚える『保坂先輩』に分類カテゴライズされる人種なのでしょうか? きもちわるい……」


「ノー! ノーです! 僕にあのような露出的な性癖はありません。それと『保坂先輩』はネタが少々とマイナー過ぎて多分誰もついてこれていないと思います!」



 嗚呼、そういえばあの残念お姉さんに頂いた胸に『魔人Z』とプリントされたあの悪意全開の糞ダサTシャツはが怒りに身を任せて後先考えずにビリビリと破り捨ててしまったのでした。


 そう、今の僕は上半身裸で腰に布を巻いているだけの原始人ルックスなのです。



「ピー、ピー、マスター。朗報です! 銅貨があるようでしたら三枚で一回、私が『衣装ガチャ』を提供いたしますがいかがなさいましょうか?」



 おおっと、これはまた聞き捨てならないきな臭いワードが飛び出してまいりましたよ。もう『ガチャ』と云うだけでヤバい匂いがプンプンします。



「ロボ子さん、一応聞いておきましょう。『衣装ガチャ』とは何のことで御座いましょう」



 嗚呼、どうせロクでもない話だろうと確信はしておりますがこれは拝聴せずにはいられません。



「……? マスターは取扱説明書を読まれていらっしゃらないのですか?」


「嗚呼、ごめんなさい。僕は少々と機械に疎いところがありまして……ああいった取扱説明書は読んでも読まなくても結局は一緒……『精密機器の類は得てして必ず破壊してしまう』といった超強力な『幽霊波紋スタンド』が備わっているのでわざわざ無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ! な時間を弄してまで読まないようにしているのです」



 そう、どうせ僕が使おうとすればこの世界の機械は全てガラクタと化すのです。嗚呼、あと……『ジョジョネタ』の使い方はこんな感じでOKですかねぇ?



「ピー、ピー、了解しましたマスター。では、私の口から説明を申し上げます。@マスターは私の体にくれぐれも触れないようにお願いいたします。私としてもそう簡単に壊されたくはありません。もしも気軽に触れようものならば『ひぃ、やだぁ、だだだ誰かぁ、この人痴漢ですぅっ!』と大声で叫びます」



 おおう、恐ろしい。その言葉は世の男性を確実に死地に追いやる即死呪文ザラキで御座います。おまけに現在僕は上半身裸といった『保坂先輩みなみけ』リスペクトスタイル……ああ、これではいざと云う時に言い逃れようがありません。僕は両手を上にあげるとロボ子さんからたっぷりと距離をとって耳を傾けます。


「私、超合金黄巾力士スーパーロボット試作型I号『剣鉄子つるぎ てつこ』。通称『セイバー』は基本無料のスーパーサポートメイドロボットです。『メイド×ロボット』……ご理解いただけますか、マスター? そう、つまりが『無敵』の組み合わせなのです。この時点で既にキャラクターの人気投票では確実に一位をとることができるでしょう。フフッ、血の繋がらない義妹キャラなどまるで相手になりません。そんな無敵な私ですが銅貨を支払うことによって更に様々な追加オプションを加えることが可能となり――そしてなんと、マスター好みにカスタマイズすることが可能となるのです!」


「あー、えーっと……つまり『衣装ガチャ』と言うのは……?」


「はい、銅貨三枚で回せる『衣装ガチャ』です。何が当たるかはマスターの運次第……そこで当たった衣装を自由に着せ替えさせることができる仕組みです。そして見たところ私とマスターの体型はさほど違いがございません。例えばこの『衣装ガチャリスト』にある『無地のTシャツ』が当たった場合……」


「あー、なるほど、そちらの衣装シェアできるわけですね!」


「はい、その通りで御座います。私が『無地のTシャツ』に着替えることで、マスターは私が現在着用している『メイド服』をハァハァと……」


「おっと、何ですか、その選択肢は! 絶対にあり得ません!」



 なぜ僕がメイド服をハァハァと興奮しながら着用しなければならないのでしょうか? 即通報間違い無しの事案です。仮にそうなった場合は僕が『無地のTシャツ』を着させていただきます。



「嗚呼、しかし、『ガチャ』というシステムが厄介ですね……これでは何が当たるのかが分からないので怖くてできません」


「ピー、ピー、そうでしょうか? ハズレ無しの良心的なガチャとなっておりますよ? 正直、何が当たっても上半身裸でいるよりかはマシかと思われます……ほら、これなどはいかがでしょうか? てれれれってれー♪ 『紳士の蝶ネクタイ』!」


「ほうほう、上半身裸で蝶ネクタイ装備ですか……嗚呼、それはとんでもない変態紳士さんですねぇ」



 ああ、断固絶対に御免蒙ります。それならばまだ裸の方がマシでしょう!



「ピー、ピー、ちなみに現在の期間限定レア衣装はこの『超絶☆セクシー水着』となっています。このレア衣装はコンプガチャ方式となっておりまして、他の衣装『キラキラ☆ティアラ』、『シマシマ☆ニーソ』、『獣神サンダーライガー☆マスク』をガチャで引き当てて、この三種をすべて揃えることで入手することが可能となっています」


「おっと、ちょっと、ロボ子さん? 早急に確認してください。コンプ衣装の中の一つに少々とおかしな衣装が混ざってないですか? なんと申しますか一つだけ別ジャンルの何かロメロスペシャル的なものが混入されておられませんか?」


「ピー、ピー、@マスター。先に言っておきますが、二種類までは簡単に揃いますけど、@最後の一つがなかなか揃わないのは仕様です。簡単には揃わないようにその瞬間からプログラム上で確率が大きく変動するようになっているので……まあ、その辺りはこちらも商売でやっておりますのでご理解とご了承の上でご利用ください」


「うおーい、射幸心を煽りすぎぃ!」



 嗚呼、なんというアコギな商法……いつかきっと大きなバチが当たることでしょう。悪徳なソーシャルゲームは直ちにグラブルして滅ぶべきです。



「@はそうですね……衣装の他にもボイスなども自由にカスタマイズすることが可能です」


「はあ……ボイス?? へー、声も自由に変えられるのですか?」


「はい、現在は無課金のデフォルト設定の為、私の声は無名の新人声優があてておりますが銅貨を支払うことによって有名声優に変更することが可能となります」



 おお、なんと! それはちょっと面白そうですね。


 一体どんな声優さんに変更することができるのでしょうか……


 嗚呼、これは凄い!


 提示されたリストには僕でも名前の知っている超有名声優さんの名前がズラリと並んでおりました。


 なんと、リストにはあの超実力派人気声優『沢城さわじょうみゆき』さんもいるじゃないですか!



「嗚呼、ロボ子さん! これは銅貨さえ支払えばあの沢城さわじょうみゆき』さんの声にも変更可能なのですか?」


「はい、勿論です、マスター。銅貨さえお支払いただければ今すぐにでも、無名の新人声優であるこの私が『沢城さわじょうみゆき』でも『花沢香菜はなざわかな』でもマスターのご希望とする超実力派人気有名声優のを全力でやらせていただきます」


「うわー、これはきつい! まさかのときましたか……嗚呼、大丈夫ですか、無名の新人声優? 今、中の人、ちょっと声が震えてないですか?」



 嗚呼、期待した僕が愚かでした……あの超実力派人気声優『沢城さわじょうみゆき』さんのボイスをそう易々と使用できるわけはないのです。



「@マスター、『沢城さわじょうみゆき』の既婚者ブスのボイスをご購入の場合は、次の二パターンから選択することが可能です。一つ、マウスプロモーション養成コース時代のまだ初々しく声優という仕事に真摯に取り組み、その役柄によって様々な声色を使い分けていた若き日の『沢城さわじょうみゆき(白)』。二つ、有川浩氏に見初められたり、伝説の大泥棒三世のアニメに出てくる国民的セクシーヒロインに抜擢されたり等など、様々な経験を経てすっかりと天狗になってしまい自己主張の激しい過剰な演技が鼻に付ようになってしまった『沢城さわじょうみゆき(黒)』。……さあ、マスターはどちらがお好みか? ご希望なさる方を全力で声真似させていただきます!」



 お、おおう……これはまた随分と肝のお座りになった無名の新人声優さんでいらっしゃいます。大御所さまに喧嘩売ってしまって大丈夫なのでしょうか?


 僕は中の人の将来がとても心配になります。



「ピー、ピー、ちなみに現在、デフォルト設定である私は『川登綾子かわのぼりあやこ』のボイスを声真似しておりますがいかがでしょうか、マスター。まあ、『川登綾子かわのぼりあやこ』程度の一発屋の芸も特徴も無い小物不人気レベルの声優の声真似ならば無料でも十分に可能なのです(キリッ)」



 ……嗚呼、いけません。


 これ以上、この話を続けると非常に……それはもう非常に厄介なことになります。声優のファンの方々は熱い方が多いので結構怖いのです。下手をすると炎上だけでは済まされない大火傷を負う事になりかねません。



「嗚呼、ロボ子さん、ロボ子さん、カスタマイズのお話はもう良いです。そもそも銅貨の持ち合わせもありませんし……衣服は一度先ほどの洞窟の部屋に戻って適当なものを見つくろうようにいたします」



 そう言うと僕はそうそうと話を切り上げて先ほどの部屋へと戻ります。


 はあ、しかし『仙人』ですか……きっとこれから向かう先の崑崙山こんろんざんという所には僕を魔改造したあのメガネ白衣の残念お姉さんのような一癖も二癖もあるような人物がたくさん暮らしているのでしょう。


 うーん、これは少しばかり気を引き締めていく必要がありそうです。




  ―― EPISODE.IX END ――



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