EPISODE.II 俺の名前は『村上吒武』
「おいこら、てめぇー、さっさと起きやがれ!」
こいつがあの程度の攻撃じゃ死なねーことは俺が一番良く知っている。……つーか、わざわざ全部の攻撃まともに受け止めやがって……マゾかてめぇーは?
「ぐっ……かはぁっ! いやぁ、マジで息できなくて死ぬかと思ったぜ……」
チリン、チリーン、っと鈴の音を鳴らしながら
「はよー、タクちゃん……オレどれくらい気ぃ失ってた? あれ、オレの
「てめぇーがぶっ倒れてたのは数分程度だよ、あいつは遅刻しねーように先に行った」
ド派手な金髪に鈴の付いたピアス。学年を表す青色のネクタイを左腕に縛り付け大胆に制服を着崩している。あー、この男の名前は
見るからにチャラそうな外見のこいつは俺とは一つ歳下の幼馴染であり、更には今ではすっかりと俺の
モデルのようにスラリと引き締まった体型に整った顔立ち、黙っていればそこそこ二枚目なんだが、双子の姉である
あー、サボりてー、超めんどくせー。
「おー、手首の骨も見事に外されてらぁ~……さっすがオレの
ゴキゴキと外れた手首をはめ直しながら
どー捉えても『殺意』としか感じられないあの感情を『愛情』と表現するあたり、やっぱりこいつも俺と同じでどこか人格が破綻していやがる――あー、正真正銘、こいつも立派な親父の被害者だ。
……あー、そういやこいつに確認することがあったんだ。
「ああん、昨日、川原でぎゃーぎゃー五月蠅かったろ、あれだ、あれ」
「おー! テレビで見た見た! あの河川敷での大抗争、百人病院送りってやつね! ははは、あれってやーっぱりタクちゃんだったんだ……ナルホドねー、そりゃオレの
チリーン、と耳のピアスを鳴らし猫手でニャンニャンと猫の真似をする
「ああん、正確には九十九人、もっと言えば俺が叩きのめしたのは六十人くらいだ……相手は
「はぁ? ……エビテン? あぁ! もしかして『
あー、確かそんな名前だっけか? 正直よく覚えてねーや。
群がっていた野郎共はどいつも雑魚ばかりで統率も全く取れてねーし、あれなら
あー、だけど、そう、あいつらの
そうだ。あのヘルメットの野郎だけは、ずば抜けて格が違いやがったのだ。病院に送りになったのは
「
「『
あー、はいはい、本当にうぜーなこいつ。つまり
「そんで、そんで? どうだったのよ、その噂の黒メットちゃんは? 勿体ぶらずに教えてチョーダイよーん」
チリンチリン、と鈴の音を鳴らしながら
あー、くそうっとうしい!
こいつに話したら面倒になるのは目に見えている。ぜってー話すもんか、離れろ、この馬鹿!
ベタベタとまとわりつく馬鹿をぶん殴って引っぺがそうと俺は拳を握る。しかしその瞬間、チリ~ン、と不気味な鈴の音を響かせて
「ははは、タクちゃん、ねぇ、タクちゃ~ん、今体触ったときに気が付いちゃったんだけどォ、その腕ェ……もしかして怪我してるゥ? 拳を握って力を入れた時の筋肉の張りからして軽い打撲かなァ? ずるいなァ、タクちゃんばっかりィ……。タクちゃん、ねぇ、タクちゃ~ん、そんな素敵なプレゼント……一体誰に貰ったのォ?」
ちっ、面倒なことになっちまった。つーか、触っただけで気付くか、普通っ!?
俺が立ち止まり、答えず黙っているのを見ると
「おい、待てや……てめぇ、
「ははは、タクちゃ~ん、オレ今日学園は欠席するわァ、チョッチ新潟県まで行ってくるねェ、お土産は何が良いィ? 柿の種ェ、笹団子ォ、瑞花のうす揚なんかも美味しいよねェ……、それともやっぱりィ、黒メットちゃんの首とかが良いかなァ……はは、はははは……」
チリ~ン、と音を立てて振り向いた
あーあ、こりゃダメだ……、完全にキレてやがる。どーにもならん。
病的なまでに生真面目な
ぶん殴って止めるのもありっちゃありだがどーすっかな、あー、つーか、超めんどくせー。
こうなっちまった
あー、そーなるとアレしかねーな……。
俺は
――『【朗報】
送信、ポチっとな。
そう、俺は迷うことなく悪魔に
■ ■ ■
しばらく歩いて学園の校門が見えたところでようやく
おー、おー、よかったよかった、
「ああん、どーした
つーか、色白過ぎてマジでキモいな……これはちょっと引くわ。
「タクちゃん……マジでヒデーよ、学園サボるのチクるとかありえねーよ……、半年ぶりにだよ……、半年ぶりにオレの
おう、そりゃ頭が冷えたようで何よりだ。あの状態じゃまともに話できなかったしなー。緊急処置だわ、許せ。
「ああん、とりあえず、
チリーン……、と力ない鈴の音と共に
あー、なんつーか、哀れなやつだな。まったく同情できねーけど。
「しかしアレだーねー、乱戦とはいってもタクちゃんに一撃を与えるなんてヤツがまだこのあたりにもいたんだねー。黒メットちゃんかぁ……実際どれくらいの使い手なんー?」
そんな何気ない、どこか気の抜けた
あの大抗争の中で、あのヘルメットの野郎と手を合わせたのは実のところ一度のみ。どちらかというと向こうは俺との手合いを一方的に避けているように感じた。
あー、むかつく、ちくしょう!
今思い返してみてもあれは俺の軽率な攻めが招いた結果だ。
――だけど。
「ああん、負ける気はしねーよ、……でも勝てるかどうかも分からん」
口から出た言葉はあの瞬間の立合いを思い出して率直に感じたことだった……そして言ってから「しまった!」と自分の失言に気が付く。俺の言葉を聞いて死んだ魚のように憔悴しきっていた
「え、何ソレ……マジで言ってんの? タクちゃんが? 喧嘩無敗の『武王丸』が勝てるかどうか分からないってッ?」
あー、俺はその瞬間、制服のポケットから携帯電話を取り出すとアドレス帳の中にある『D4C(いともたやすく行われるえげつない行為)』のフォルダから『
「チョッチ、タクちゃん、チョッチ待った! マジもうホント勘弁して! 大丈夫、勝手行動しないから! 約束、約束する!」
チリンチリン、と騒がしい音を鳴らし懇願する
うわ、こいつマジで必死だなー、うまく
そんなやり取りをしながら
「ちょっと、そこの金髪! 一年F組、
「ぅゎー、風紀委員長の
あー、そーいや確か委員会で報告があったよーな、なかったよーな……?
まあ、あいつに声かけられたら無視して通り過ぎるわけにはいかねーよ、残念だったな
俺は朝から受難の続く
―― EPISODE.II END ――
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