第19話「青い稲妻が僕を攻める」
その後も八木沼は相変わらず、女の乳首や尻を触りながら、この世の不幸を嘆いていた。
一方、たかしはそんな八木沼の様子をじっとうかがい、スキあらば「能力を解除してくれ」と頼み込む日々を送っていた。
目的は完全に、鬼姫に頭を撫でてもらうことではなく、八木沼にイマジネを解除してもらうことになっている。こうなったらもはや意地だ。
その日も、河川敷のグラウンドで、いつも通り八木沼にお断りを入れられたところだった。
これだけ丁重にお願いしても、力を解いてくれないのか。かといって向こうからは何もしてこない。さすがに仏の心を持ったたかしも、いい加減疲れていた。
立ち去ろうとする八木沼に、つい一言こぼしてしまう。
「おまえも大変だよな。そこのガキんちょだけでなく、俺にまで付きまとわれてるんだから」
「ちょっと、インリ、ガキんちょじゃないもん!」
意外にもインリが食いついてきた。本人はぺったんこの身体を気にしていたのか。面白そうなので、もう少しいじってみる。
「いるんだよなあ、こういうませたガキが。貧乳好きとか言う奴がいるから、こんな貧相な身体の子供が勘違いしちゃうんだよ」
「ひどい……」インリがぷるぷる震えだす。
と、八木沼がインリの前に立ちふさがった。
「オレのことはいい。けど、インリを侮辱するのは許せない」
さすがは騎士。その顔は怒りで満ちている。たかしはこの時を待ってた。
「許せないならどうすんだよ。なんの手出しもできないくせによ」
言いながら、まるっきり噛ませ犬のセリフだなと思った。
だがこれでいい。こっちからの攻撃が無効なら、向こうが攻撃してくるよう仕向けるだけだ。上手く相手の攻撃を利用できれば勝てるかもしれない。
ワクワクしてながら攻撃を待っていたが、八木沼はなかなかこっちに手を出さない。
と、八木沼はグラウンドに向かって歩くと、落ちていた軟式ボールを拾った。
それをいきなり投げつけてくるが、力が入りすぎたのか、ボールはたかしのはるか頭上を越えていく。
「おいおい、何して……」
視線を戻すと、八木沼の後ろで、インリが指をパチンと鳴らすのが見えた。
と次の瞬間。後頭部にいきなり殴られたような衝撃。
「いってぇ!」
振り返ると、軟式ボールがポンポン跳ねている。
別の誰かが投げつけたのかと思うが、周りに人の姿はない。いったい何があった?
「手は出したぞ」
「べー、っだ☆」
それだけ言って、八木沼はインリと一緒に帰っていった。
軟式ボールとはいえ、不意の一撃だったので、頭がヒリヒリする。
だがどういうことだ? あれで『手を出した』と言ってくるということは、イマジネによる攻撃なのか。
「見えたぞよっ!」ねとりがピッっと人差し指を立てる。「さっきパチンって音がしたよね?」
「ああ、インリが指を鳴らしたんだ」
「あたしね、投げ捨てられたボールの方を見てたんだけど、音がした瞬間ね、ボールに赤い火花が走ったの。そしたら急にボールが動きだして……」
たかしの頭に当たったというわけか。
そういえば最初、八木沼が女子生徒と接触していたときも、パチンという音が鳴った気がする。あれはインリが指を鳴らしていた音だったのか。確かにあの時も、女子生徒に赤い火花が走っていたような。
だとしたら、その効果は何だ? 対象を思い通りに操るのか? それがインリの能力?
だがそれとは別に気になることがあった。
それは、パコの矢を弾くときに現れる、青い稲妻。
そう、どちらかというと、その能力の方がメインだと思っていた。バリアというか、こっちの接触を無効化する時に、それが現れるのだ。
赤い火花と青い稲妻。この二つに何の意味があるというのか。
「その他に不審な動きは見なかったか?」
たかしが尋ねると、パコがすっと手を挙げた。
「ウィンク」
「ウィンク?」
「あの子が指を鳴らす時、右目だけつむっていた」
さすがにそこまで気づかなかった。だが、インリのその行動にはなんらかの意味があるはず。
必死に彼女の顔を思い浮かべる。確かインリはオッドアイだ。左目が赤で、右目が青。右目が閉じていたということは、開いているのは左目の赤い方だけ。
「ん? 待てよ」たかしの頭の中で声が響く。
『赤い火花に、赤い瞳。青い稲妻に、青い瞳。引き寄せられる女の子に、弾かれる攻撃』
そこまで考えてハッと気づく。
「もしかして……切り替えているのか?」
「切り替え?」
ぽかんとするねとりに、たかしは自信満々で宣言した。
「待たせたな、やっとわかったぞ」
「じゃあ」
「奴との戦いは、次で最後だ」
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