第2話「情報通の男友達」
校門前は、写真を撮る親子や生徒でごった返している。
「たかし、うちらも一緒に写真撮ろっ!」
ウキウキで声をかけてきたのは幼馴染の女の子――ではなく、安定の母親だった。
「イヤだよ、わざわざ並んで撮んなくても」
「すいません、カメラいいですか?」
母親はこちらの言葉も聞かず、人にデジカメを渡し、強引に腕を組んできた。恥ずかしいが、無邪気に喜んでいる姿を見てしまうと、それ以上何も言えなくなる。
「じゃあ撮りまーす……はい」
「ありがとうございましたー」
母親はデジカメを受け取り写真を確認すると、いつにもましてニコニコしていた。
「じゃあ、お母さん先に帰ってるね。これからパートだから」
「ん、気を付けて」
「お昼、冷蔵庫に入れてあるから」
母親は少し足を進めた後、思い出したように振り返ってくる。
「そうだ! 単身赴任してるおとーさんにも写真送らないとね。たかし、パソコン得意だから後で送ってくれる?」
「わかった、わかったから」
「じゃーねー」
桜散る中、ようやく母親を送りだして、ほっと一息ついた。
と、後ろから肩をポンポンと叩かれる。
振り向くと、そこにいたのは同じ中学出身の友人、野中清(通称キヨ)だった。今のところ、この学校唯一の知り合いだ。
「キヨ、いつからか見てたんだよ」
「さあ?」キヨは笑いながら早速尋ねてくる。「でさでさ、そっちのクラスの雰囲気、どうだったさ?」
残念ながら今回は、キヨとクラスメイトではなかった。たかしは少し考えて答える。
「悪くはないかな? 教師は人の良さそうなオジサンだし。けど、こういうのは普通、年増だけど美人で独身の女教師が担当してくれるんじゃないのかよ」
「相変わらず妄想ばっかだな。そんな先生、現実にはいねーってさ」
キヨはケタケタと笑う。
「けど羨ましいってさ、そっちのクラス」
「羨ましいって……なんで?」
「だってさ、あれと一緒なんだろ」
キヨが親指で指した先は人だかり。その中心にいたのは、先ほど生徒代表の挨拶をしたばかりの少女。確か名前は――
「世良鬼姫。挨拶したってことは、きっと入試成績もトップ。さっそく生徒会からスカウト受けてるらしいってさ」
見た感じ、早くも校内の男子たちに口説かれてるようだった。
「キヨ、もっと詳しい情報は? 普通友達ってのは、女のスリーサイズから住所まで、全部把握して教えてくれるんじゃないのか?」
「だから現実にそんな都合のいい友人はいないってさ」キヨは大口を開けて笑った。
「んで、キヨのクラスはどうだったのよ?」
「まあまあってとこ。なんでも学園で一番の巨乳っ子がクラスメイトみたいでさ」
「おー、勝負はこれからだな。お互い、じっくり攻めていこうぜ」
「ああ、進展あったら教え合おうさ」
高校で彼女を作る。それが自分とキヨの共通目標だった。まるで戦地に出向く親友のように、コツンと拳同士が触れ合う。
互いの健闘を祈りあい、勝負の入学式は幕を閉じていった。
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