第18話「女の乳をさんざん揉みしだいた後、関係性を崩したくないとか言って、わざと付かず離れずの距離を保つタイプ」

 店の前で話をするのもアレだったので、たかしと八木沼は、河原にあったグラウンドにやってきていた。


「鬼姫に力を使ったのはお前か?」


 さっそく問いただすたかしに、八木沼はまっすぐこちらを向いて答えた。


「そうだ。って言ったら?」


 たかしは一歩足を進める。そして両手のこぶしをゆっくり握り込み、おもむろに、


「頼む。解除してくれ!」

 土下座する勢いで頭を下げた。


 たかしの突然の行動に、八木沼も戸惑っているようだった。


「そもそも、あの子に何をするつもりだ?」


「いや、別に悪いことしようってんじゃないんです。ちょっと触りたいというか、いや、ちょっと頭を撫でてほしいだけというか……ほら、鬼姫ってキレイでしょう? 男の素直な欲望ってやつ?」


 男同士なのだから、思いのたけを正直に言えばわかってくれるはず。たかしは八木沼の良心を信じた。


 だが返ってきた答えは。


「そういうの……よくないんじゃないかな」


「ん?」


「本人の意に反して何かさせる気なんだろう? オレたち学生だし、そもそも男と女がそういうことするのは、色々不健全というか……」


「おまえが言うな! おまえが! 色々やってただろ!」


「いや、あれはインリが勝手に……」


「インリがなーにー? おにーちゃん?」


 インリがぴょこっと顔を出すと、八木沼はもごもごと口をつぐんだ。


 あ、ピンときた。こいつアレだ。女の乳をさんざん揉みしだいた後、関係性を崩したくないとか言って、わざと付かず離れずの距離を保つタイプだ。一通り全員の身体を隅から隅まで楽しんだ後、あっさり本命の女と付き合って、その他全員を捨てていくタイプだ。


 思わず舌打ち。いっそ死ねばいいのに。


 ぶつぶつ言っていると、向こうもひそひそと会話を交わす。


「ふぇぇ、おにいちゃん、この人なんか怖いー」


 すると八木沼が、インリの前にスッと立ちふさがる。


「安心しろ。おまえのことは、オレが絶対に守るから」


 イラっ。今度は騎士気取りか。そもそも兄妹でも何でもねえだろ。


「もうやだ。こいつやだ」


 だがどうする。八木沼にはパコの攻撃が一切当たらない。ならばイマジネを直接奪うしかないのか。


「そういうわけで、いけ! ねとり!」

「がおー」

 ねとりがインリに突進するも、抱きつく寸前で、するっとかわされた。その後、何度やっても同じ。


「何やってんだ」

「違う、触れないの」


 よく見ると、インリの身体からは青い稲妻が発せられている。あれがあると、触れることさえできないのか?


 ならばたかしが、八木沼本人を力づくで捕まえようとする。だが、ねとりと同じで、指一本触れられず、あっというまに息が切れてしまう。


 触れることさえできないとなると、二人は完全無敵でないか。


「大丈夫か?」八木沼が心配する素振りを見せる。


 イラッときて足を払うが、それもヌルっといなされてしまった。


 どうあがいても触れられない。薄い膜があるような気持ち悪さがある。


「なんだよ……これ」


 こいつらは、すべての攻撃を無効化できるのか? なんとか次の手を考えようとしていると。


「悪いんだけど……もう帰っていいかな?」


「なんでだよ! そっちからも来いよ!」


 たかしが一人で興奮していると、八木沼は申し訳なさそうに言った。


「そもそも戦う理由がないだろ? オレは……誰も傷つけたくないんだ」


「うぅ、おにいちゃんカッコイイよぅ!」


「ちょ、インリ。抱きつくな、よせって」


 結局、八木沼とインリはラブラブしながら帰っていった。


 後に残されたのは、間抜け面のたかしとねとり。

 パコが興味なさげにケータイをいじる。その背後には(アホみたい)の文字。


「ハナから相手にされてなかったみたいね」


「それが一番傷つくんだけど!」

 たかしの悲痛な叫びは、夕焼けに溶けるように消えていった。

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