第17話「ひにゅー」

 放課後、さっそく二年D組の様子を見に行くと、八木沼はすでに帰った後だった。


「あちゃー、また明日にする?」


 ねとりの言葉に、たかしは首を振る。


「まだ、そう遠くへは行っていないだろ。適当に探してみよう」


 近場の駅までの道を探していると、やがてコンビニ前で、見知らぬ女の子と一緒にいる八木沼を見つけた。


 女の子は中学生くらいだろうか。完全なるロリ体型で、やたら八木沼にベタベタしている。


 よく見ると左右で眼の色が違う。左目が赤で、右目が青のオッドアイだった。

「ひにゅー。おにいちゃん、今日も人気者だったねっ。女の子もキャーキャー言って喜んでた。いっつも仲良しで羨ましいなー」


 八木沼が頭を抱えて首を振る。


「あのなあ、インリ、あの騒ぎはそういう意味じゃ……」


 インリと呼ばれた女の子は、八木沼の腕をぎゅっと取る。


「ねっ、おにいちゃん。いっぱい動いて汗かいたし、今日は一緒にお風呂入ろっか」


「はっ!? 冗談でもそういうこと言うなっつーの」


「えー? 冗談じゃないのになー」


 インリはいじけたようにぽつりと言う。


「おにいちゃんならインリの身体、好きにしていいのになあ」


「んっ、なんか言ったか?」


「えへへっ、なーんにもっ」


 そうしてインリと八木沼は、イチャイチャしたまま帰っていった。

 隠れて話を聞いていたたかしは、思わず飛びだしそうになる。


「スキだらけのくせに、何が好きにしていいだよ……」


「ああいう女、キラーイ(死ねばいいのに)」パコが珍しく不機嫌だ。


「むむむ、なんか、あたしたちにはないものを持ってるよねっ!」とねとり。


 色々と話は尽きないが、まあいい。今回は仮説を実証するため、確かめに来たのだ。


「なあ、パコパコ」


「だから繰り返さないで」


「とりあえずメールを作ってくれ。文面は『秘密を吐き出せ』だ」


 不満顔をしながらもパコは指令通り、吹き出しメールを作成し、さっそく送信準備に入った。


「いくよ」


 放たれた矢が、まっすぐ八木沼に向かっていく。


 その背中に突き刺さろうとした、次の瞬間、青い稲妻と共に、矢はクイッっと軌道を変え、あさっての方向に逸れていった。


「んっ、なんかしたか?」


 八木沼は辺りをキョロキョロしだす。


 あの時と一緒だ。鬼姫に矢を放った時と同じ現象が起きている。

 今度は間を置かず、一気に数通のメールを放たせてみる。だが、その矢はすべて弾かれてしまった。


「実はノーパンなの」「離婚協議中です!」


 周りの不要な秘密が暴露されていく中、


「あー!」と声をあげたのは、八木沼と一緒にいたインリだった。


 彼女は、めもりとパコを指差して、八木沼の袖をくいくい引っ張っている。


 二人の姿が見えるということは。


「やっぱり……あの女がイマジネか」


「えへへっ、バレちゃったね、おにいちゃん」

 インリは舌をペロっと出す。


 八木沼は困ったようにポリポリ頭を掻いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る