第13話「悪魔の頭脳(デーモンヘッド)」
パコの能力は解除され、獅子王ブームはあっさり去っていった。
女とは怖いもので、中心メンバーが抜けていくと、流れに乗っていた女子たちも完全に興味を失ったらしい。獅子王プロジェクトも終焉を迎えたようだ。
一方で、学校で起きた事件は、さっそく問題になっていた。
それはそうだろう。教室の扉が破壊され、なおかつ生徒の記憶がほとんどなくなっていたのだから。いくらイマジネでも、物理的に破壊されたものをなかったことにするのは不可能だったようだ。
たかしは、聞き取り調査のため、生徒会長に呼び出しを受けていた。
本来なら聞き取りは先生たちの役目なのだが、今回の件に関しては当事者なので、仕方なく生徒会長が問題解決に手を挙げたそうだ。
どこから話を聞きつけたのが、生徒会室に向かう途中で、唯一の親友のキヨがちょっかいを出してきた。
なんでも生徒会長はヤバイらしい。キヨいわく、会長は日本でも有数の名家の生まれで、骨折や出血多量の致命傷を負っても一瞬で再生できるのだという。小さい頃から軍隊に所属し、その実力は世界も恐れるほど。以前は劣等生だったが、会長となった今では、学校の成績もトップクラスとのウワサ。
『おかげで、ついた異名は悪魔の頭脳(デーモンヘッド)だってさ』
いったいどこのスーパーヒーローだ。たかしは話を聞きながら笑ってしまった。
なんでそんな人物が、この学校にいるんだという疑問はさておき、キヨは本気で心配してくれているようだった。
『とにかく、会長に目をつけられたらヤバイからな!』
嬉しくない励ましを受けて、たかしは生徒会室の扉をノックする。
「どうぞ」
中からの声に部屋に入る。と、一瞬で空気が変わった。
目の前にいた生徒会長、天成無双。
なるほど、キヨが言っていたのも、あながち冗談ではなさそうだ。確かにこの人を敵に回したらヤバイ。対峙して初めて分かった。本物のオーラが。
今まで会った天才たちは、実は秀才レベルだったのだと思えるほど、すべての動作に雰囲気がある。選ばれし人間とはこういうものなのか。もし自分が女性なら、目があっただけで穴という穴から汁を垂れ流しているだろう。
「すまない、同じことを何度も聞かれてるかもしれないが、これも調査の一環でね」
すべてを見透かすような眼。
「いえ、大丈夫です」
と、気づくと、会長の隣にオールバックの男がいることに気づいた。確か、学園一の秀才の副会長。
「白城恒久だ。副会長権限で、ここでの会話はすべて記録させてもらう」
「あ、はい、よろしくお願いします」
簡単な挨拶をすまし、会長による聞き取り調査が開始された。
「それで……キミもあの場にいたらしいが、何か覚えてることはないかな?」
「いえ、自分も記憶があいまいで」
「あの場にいた皆が意識を失ったみたいだからね」
「そうなんですよー、いつどうやってあそこに行ったのかも覚えてなくて」
と、隣にいた副会長が、急に持っていたノートパソコンをこちらへ回転させる。
「じゃあこれはどういう状況だったんだ?」
そう言って見せられたのは、玄関に付けられた監視カメラの映像だった。
監視カメラには、必死でドアを閉めているたかしの様子が映っている。それを追いかける複数の他生徒の姿も。
「これを見る限り、生徒たちはキミを追いかけていたようだが」
副会長の追及に、たかしは一瞬言葉が詰まる。
会長の眼光が一層鋭くなった。
「横溝たかし君だっけ? もう一度聞こう……事件に心当たりは?」
この映像を見ているということは、もう一人も確実に映っているはずだ。悠々とたかしを追いかけてくる獅子王の姿が。
正直どう答えていいのか悩む。襲われたことを話してもいいのだろうか。こっちは獅子王に追われ、逃げていただけだと。そもそも先に襲いかかってきたのは向こうだ。責任は獅子王にあるはず。生活態度から言えば、ペナルティは獅子王に行くはず……。
ただ、それはスッキリしない。やりたいようにやる。それはたかしの信条だが、あくまでも心が痛まない範囲でだ。
悩みに悩んだ末、ようやく口を開いた。
「鬼ごっこ……」
「ん?」
「みんなで鬼ごっこしてまして……」
言いながら声が震える。
「熱中しすぎて、酸欠で倒れたんじゃないかな……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます