第11話「ソウシン完了」
「があああああ!」その声はまぎれもなく横溝たかしだった。
振りほどこうと暴れるが、奴は背後から必死でくらいついてくる。ただ、ケンカに慣れてないのか、詰めが甘い。
獅子王が冷静に足を踏みつけると、簡単に力が弱まった。そのままバランスが崩れたところを、腰を払う形で投げ落とす。
床に倒れたところを馬乗りになり、形勢は一気に逆転。
「人を殴ったこともない奴が、ケンカ売ってんじゃねえよ!」
一発顔に拳を叩きこむと、ビビったのか、たかしはあっさりと大人しくなった。
馬乗りのまま、もう一度ロッカーに目をやる。と、先ほどは気付かなかったが、ロッカーの後ろに、人ひとり分のスペースがあることに気づいた。
なるほど、ロッカーの中ではなく、後ろに潜んでいたということか。一度空だと確かめたロッカーには、もう注意は払わないと読んでいたのだろう。
「あっぶね」
危うく引っかかるとこだった。が、もう油断はしない。冷静にパコに声をかける。
「コイツのイマジネが教卓にいるはずだ。捕まえてこい」
「……わかった」
囮として、物音を出したイマジネが潜んでるはず。そいつを捕まえてジ・エンドだ。
「全裸にさせるだけじゃ気がすまない。それ以上のこと、してもらうぞ」
「そ、それだけはどうにか……」たかしはすっかりおびえた表情を見せていた。
そうだ、この顔だ。この顔を見るのが楽しみなのだ。
『アンタ誰?』
そう告げた時の、あの女のように。
絶望と共に、それを受け入れ、服従していく表情がたまらない。その瞬間、自分は選ばれし人間なんだと実感する。そう、追いつめて追いつめて、絶対に敵わないことをわからせて、初めてあの表情が引き出せるのだ。
パコを使って、他の生徒を巻き込んだ甲斐があった。仕上げにもう一発くらい殴っておくか。
そう思い、拳を振り上げた次の瞬間、背中を味わったことのない感触が貫いた。
「……は?」
何事かと振り向こうとするが、体が言うことをきかない。
意思とは関係なく跪き、両手が後ろに組む形になっていく。
それはパコがメールで指示したはずの動き。やがて身体は完全に服従のポーズをとった。
「なん……で……」
「よくやった」
たかしが誰かに話しかけている。なんとか視線だけ上にやると、そこには一人の少女の姿があった。コイツ……もしかして、たかしのイマジネか!?
「いつの間に背後に? 教卓にいたんじゃ……?」
「あれは俺のケータイを、タイマーで一回鳴らしただけだ」
そう言ったたかしに続いて、奴のイマジネも口を開く。
「あなた言ってたよね。女の顔なんか覚えていないって」
そう言ったイマジネの格好に気づく。彼女は周りのゾンビたちと同じ、この学校の制服を着ていた。
「顔を覚えられてないからね、周りのゾンビにまぎれて、反撃の機会をうかがってたの」
そう言って制服から私服に一瞬で着替える。確かにイマジネの恰好は自由に変えられる。
獅子王は、ゾンビたちの中に隠れていたイマジネを見逃したと言うのか。
「いや、そんなはずない。全員の背中に、オレのメールが突き刺さっていたはずだ」
「ああ、これのこと?」
女は吹き出しメールを手にプラプラさせてみせる。
「一人から抜き取ったやつを持って来ちゃったから、何かに使えないかなと思って。こうカモフラージュで、体温を測るみたいに、脇に挟んでたの」
完全にまぎれるための偽装工作か。
たかしが笑う。「どうだ? これで女の顔、覚える気になったか?」
パコが前方でピピピっとメールを作ろうとしていたが。
「動かない方がいいぞ」
たかしが、獅子王の体を盾にする。
「なんだっけ、全裸祭りだっけ? そんなメールをこいつに突き刺しちゃう?」
「ちっ」
獅子王の舌打ちが、放課後の教室に響く。それは同時に、ギブアップの合図でもあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます