第10話「パコパコ動画」

「相手、見つかったって」


 パコにメールが入ったようだ。獅子王は返事もせずに、パコに道案内をさせる。


「なんか……楽しそうだね」


「別に」そう言いつつも、獅子王の顔は笑っていた。「捕まえたらどうする? 全裸で校庭でも走らせるか? それを写メ撮って、サイトにでも流すか?」


「アハハ、ウケるね」


 そう言ったパコの後ろを、スクロールするように文字が流れた。



(そういうの……本当は好きじゃない)



「あ?」獅子王はパコを睨みつける。「本音が流れてるぞ、パコ」


(……ヤバ、バレた)

 再びパコの後ろを文字が流れた。


 常にケータイをいじっている彼女は、本音が背景に流れていく性質を持っていた。そしてその本音は、主人である獅子王にしか見えない。


 本音が見えるくせに、口先だけ合わせてきたパコの態度に、獅子王は腹を立てていた。


「力風情が何オレに気ぃ遣ってるんだ? 適当に合わせとけば、機嫌良くなるとでも思ったか? あ?」


「……ごめん(本当にごめん)」


「口のきき方には気を付けろよ」


 やがて、二人がやってきたのは四階の真ん中の教室だった。


 周りはすでに壊滅状態。破壊されたのか、後ろの扉だけが開いている。メールで指令を受けたゾンビ連中は、すでに教室の外にまであぶれていた。


 獅子王は中に入ろうとして、ふと足を止める。

「パコ、先行け」


 入った瞬間、相手がどこからか反撃してくるかもしれない。


 パコは中に入ると、ゆっくり周りを見回した。「……大丈夫、襲ってこないよ」

 その言葉に獅子王も中に入る。


 ガランとした放課後の教室。中には、背中にメールの突き刺さったゾンビたちがいるのみ。


 ぱっと見て、隠れられる場所はない。だがゾンビたちの視線は、ある一点に集中していた。


 それは掃除用具のロッカー。


 ご丁寧に、中からはYシャツの端がはみだしている。これで隠れているつもりなのか。


 いや、隠れるというより、籠城だな。他に人が来るまで時間を稼ぐつもりか。だが残念ながら、この能力に物理的籠城は意味がない。


「素直に出てこいよ? 何もしないからさ」


 パコに視線をやると、ピピピっという間にメールが出来上がる。


『両手を後ろに組んで跪け』


 文面を確認して頷く。


 飛び出してきても大丈夫なよう、獅子王はゾンビたちと一緒に、ロッカーの前に立つ。


 目で合図すると、メールはまっすぐロッカーのど真ん中に突き刺さった。


「ソウシン完了」


 終わりだ。後は相手が出てくるのを待つだけ。


 ……だが、なかなか反応がない。確かにメールは、中心を貫いているはずだが。


 中を確認しようと、手をかける。すると、挟まっていたはずのシャツの端が、はらりと地面に落ちた。


 これは……破られた布の切れ端? つまり囮!? 扉を開くも、ロッカーの中は空だった。


『隠れ場所が、ロッカーの中だけだと思ったか?』


 何者かの声がした気がした。隠れ場所はロッカーだけではない?


 と、背後から突然の物音。後ろには誰もいないと思っていたが、振り向いて気づく。


 教室の前方に、一か所だけ隠れるスペースがあることに。


「教卓か……!」


 慌てて足を進めようとする。

 と、いきなり後ろから、何者かにはがいじめにされた。


「なっ!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る