あLoveる編 ~恋の駆け引き~

第15話「んっ? なんか言ったか?」

 能力者が他にもいる。


 そもそもイマジネ使いが、たかし一人ではなかったのだから、別におかしくない話だ。

 背後をふよふよしているパコにたずねてみる。


「心当たりは?」


「私はアンタだけだと思ってた。獅子王もそう思ってたし」


 そういえば獅子王は『影からコソコソ見張るような真似してきやがって』と言っていた。あれは前から獅子王が、他の誰かに目を付けられていたということだったのか。


 他にもイマジネ使いがいるとすれば、いったい誰なのか。どんな能力を持っているのか。


 たかしは廊下から、じっと各教室を見回した。


「……で、ご主人はさっきからここで何してるの?」


 ねとりの素朴な疑問に、たかしは自信満々に返事をする。


「いやさ、今、女子が教室で健康診断やってるからさ。なんかチャンスがないかなーって。ほら、壁一枚隔てた、いつも勉強しているはずの場所で、布一枚の姿になっているという異常性に興奮するだろ?」


「うわ……」ねとりがドン引きしているが気にしない。これは男にしかわからない浪漫なのだ。


 そう、例えば何かのはずみで医者に間違えられるとか。白衣を着たたかしは、恐る恐る聴診器で、クラスメイトの胸元を探り始める。外側から丁寧に探っていくうちに、クラスメイトの顔が紅潮してくる。そこで次の作業に移行するのだ。


『あれ? 胸囲測定用のメジャーがないなあ』


 しょうがなく、たかしが丁寧に手でサイズを計るハメになり、そのまま……。


 いや、さすがにそれは無理でも、なんとかして、偶然教室の中が見える角度とかないものだろうか。一瞬だけでいい、一瞬目に焼き付けるだけでいいのだが。


 ふよふよ浮いているパコに尋ねてしまう。


「そのケータイ……写メとか撮れる?」


 パコが無言で蹴り。むしろご褒美です。


 と、教室の前に男がやってきた。ドアの前でウロウロして、様子をうかがっている。


 もしかして同志だろうか。たかしが軽く声をかけようとすると、その男は何を思ったのか堂々とドアを開け、教室内に突入していった。


「え?」


 一瞬の静けさの後、高周波のような悲鳴が湧き上がる。


「何考えてんの!」「ヘンタイ!」


 男は、頭に赤い下着を載せて、そのまま転がり出てきた。


「ち、違うんだって! ここで視力検査やってるって聞いたから!」

「いいから出てって!」


 女子のブーイングに、男は慌てて逃げるようにダッシュ。


 すると今度は曲がり角で、他の女子生徒とぶつかりそうになる。


「うわああああ」


 と、パチンという音と共に、女子生徒から赤い火花が発せられた気がした。


 結局男と女は、まともに正面衝突し、ゴロンゴロンと転がっていく。


 どこでどういう身体の入れ替え方をしたのか、男は女の乳を揉みほぐしたまま、顔をスカートの中に突っ込んでいた。


「むぐ」男がもぞもぞ動く。


「ふぁっ。ちょ、そこ息吹きかけないで」


「ご、ごごごごごめん!」男は慌てて顔を上げる。


「もう、気をつけてよね」


「ほんとごめん! ついうっかりして……」


 女は顔を赤らめて、女の子座りをしたまま、足をモジモジさせている。


「これで午後の授業に集中できなかったら……ちゃんと責任とってくれるの?」


 完全なるメスの顔。


 絶好の誘い文句に、男はとぼけた顔で言い放ちやがった。



「んっ? なんか言ったか?」



「うー、もう! なんでもない!」


 女はぷんぷん怒りながらも、どこかまんざらでもないような顔で立ち去っていった。


 男は大きくため息をつく。


「はあ、俺はなんでこんなに不幸なんだー」


 嵐のような出来事は過ぎ去り、廊下はまた元の静寂に包まれた。


 一連の行動をずっと見ていたたかしは、大きく息を吸うと、


「何が不幸じゃい!」


 全身全霊で叫んだ。


 着替えを見て、乳揉んで、なんか告白されて、完全なる幸せスパイラルじゃねえか。


 どうせなら同じことをしたい。でも二番手だと、さすがに捕まるか? 教室の前をウロウロしていると、


「八木沼のやつ、いつもああなんだよ」


 後ろから別の男が現れた。

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