第20話「尻で顔を踏まれる男」

「おるかー?」


 たかしがクラスに単身で乗り込むと、八木沼は女子生徒に尻で顔を踏まれていた。

「ちょっとごめん」

 八木沼は立ち上がると、困ったように頭を掻く。

「もう来ないでくれないか?」


 たかしは告げる。「これで最後にする。だから決着をつけよう」

「決着?」

「あんたみたいに物事を曖昧にするのは好きじゃない。そっちが勝ったら二度と近づかない。オッケー?」

「おにいちゃん、こんなヤツ、もうやっつけちゃおうよぅ」

 インリが八木沼の袖をぎゅっと握る。


「……インリがそう言うなら。それで、勝負の内容は?」

「ルールは、ギブアップもしくは戦闘不能に陥ったら負け。単純でいいだろ?」

「ああ」


 校内では狭いということで、全員で校庭へと場所を変えた。

 軽くストレッチをしながら、お互いがお互いの様子をうかがう。


 たかしにはひとつの読みがあった。八木沼は決して直接攻撃はしてこない。それは彼の能力に対してリスクが高いからだ。おそらく仕掛けてくるのは、間接攻撃のみ。

「早く終わらせよう」

 向こうは短期決戦が目的なのか、早々に運動部の置いてったボールを、たかしの背後に転がしていく。


 サッカーボール、アメフト、硬式の野球ボール。今回はかなり多めのボールだった。

 これらが一斉に向かってきたら避けられない。

 だが、たかしはある瞬間を狙っていた。八木沼に一時的に変化が現れる、ある瞬間を。


 勝負は一発だ。

「ボロボロにしちゃうんだよぉ」

 インリがウィンクをして、赤い目が光り始めた。

 パチンと指を鳴らすとともに、全ボールに赤い火花が走った瞬間。


 たかしは八木沼に向かって猛ダッシュ。ボールが向かってくる前に、八木沼の懐に飛び込んだ。


 八木沼が防御態勢を取るが、たかしは一切攻撃を加えず、そのまま素通りする。

 と、たかしを追っていたはずのボールが、角度を変えて八木沼に向かっていった。

「インリ!」

 叫び声とともに、八木沼に赤い火花が走る。

 するとボールが弾かれるように、再びたかしの方へ向かいだす。


 この時を待っていた。

「今だ!」

 たかしの合図で、隠れていたパコが一気に数発の矢を放った。

『思い通りに動け』と書かれた矢たちは、八木沼に吸い込まれるように向かっていく。

「おにいちゃん!」

 インリは今度は反対の目でウィンク。青い目を晒したまま、八木沼に青い稲妻を放った。


 それは紙一重の差だった。八木沼まで、わずか数センチのところで、矢は動きを止めていた。青い稲妻に攻撃は阻まれている。


「くっ!」

 一方で、ボールはすべて、たかしの身体に突き刺さった。えぐられるような痛みに、たかしは膝から崩れ落ちる。

 余裕が出たのか、八木沼は驚きつつも笑みを浮かべていた。

「まいったな。インリの力、全部見抜かれていたのか」

「ああ……予想通りだったよ」

 膝を落としているたかしに代わって、ねとりがタネを明かした。

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