怪獣災害による被災後の避難所を慰安に行くムゥとススム。
思いの外明るい表情の子供たちに安堵しつつ戸惑うものの、ひとりの子供に「世界最後の魔法つかい」が来てるんだよ!と嬉しそうに告げられる。
それはひとりの上品な身なりの老婦人で、避難所の片隅で子供たちに取り巻かれ、次々に色々なものを取り出したり、知るはずのないことを言い当てて見せたりして、驚きと、楽しそうな笑い声とともに受け入れられていた。
「世界最後の魔法つかい、久留島からら」と名乗ったその女性はススムたちにも愛想よく応じ、
「自分の魔法で、子供たちを少しでも楽しませることができれば嬉しい」
と語る。
帰投してから「心のきれいな手品師さんだったな」というススム、だがムゥは言う
「彼女は宇宙人だ。バヤーガ星人という。ああいった力を持ってたはずだ」
自分の見たかららは少なくとも善良な「手品師」でしかなかった。
……だがムゥの言葉も嘘とは思えない。
ならば……
もしも「バヤーガ星人」が「久留島からら」としての身分を乗っ取り、成り代わってでもいるのだとしたら、
いくら善良に見えてもその行いは侵略宇宙人のそれと変わらない。
避難所で見た彼女とそれを取り巻く子供達の姿を思い出して葛藤を抱えながらも、捜査を開始するススム。
結論から言うと、「久留島からら」はたしかに奇術を生業とする実在の人物だった。
だが、伝わってくるその人物像は、ススムたちの見聞きしたものとはかけ離れていた。
奇術師としての腕前は、まず超一流。
その発想力と、精密を極める指先の技の冴え、仕込みさえあれば神だって謀ってみせるであろう、視線や体捌きをも計算に入れ、見るものの心理の裏の更にその裏をつく演技力。
だが……その奇術師としての格の高さに反比例するかのような人間性。
傲慢で強欲、酒と金に汚く、観客のいない舞台裏では常に罵声が飛び交っていた、奇術師業界の鼻つまみもの。……それが久留島かららだった。
どう考えても、あんな風に無償で子供たちに奇術を披露して子供たちを励ますような人柄には思えない。
そう口にするススムにムゥはいう。
「生き物は変わる、変化する。
ぼくだってそうだっただろう?」
……成程、歳とって、善行のひとつもしたくなったってことも、あるかもしれない。
そう思い、直接問いただしてみようと、かららを訪ねるススムとムゥ。
前回訪れた時と変わらず、子供たちににこやかに「魔法」を披露して、笑顔の子供達にとりまかれるかららは鷹揚にそれを出迎える。
場所を変え、対面でかららを問い詰めるススム。
「あなたは久留島かららか?それとも……バヤーガ星人か?」
にっこりと微笑んで応えるからら。
「両方よ」
それが何を意味するか分からず当惑するススム。
「自分は〈世界最後の魔法つかい〉久留島からら。そう言うことにしておいてほしい」
だが、その時振動が避難所を襲う。
……サイボーグ化した用心棒怪獣〈黒髑髏〉。
地を割り、街を揺るがしてその巨躯を表した〈黒髑髏〉は、街の中央部に進撃を始める。
その場をムゥに任せてU M-01を起動させ、迎え撃つススム。
だが〈黒髑髏〉はとても強く、接近すれば怪力で圧倒され、光線も光波カッターも強固な外皮に防がれる。
ヒーローたるU M-01の苦戦を前に、子供達の心を恐怖と絶望が染め上げようとしていくのを感じ取り、ムウは自らの獣体の発動を決断。
かららに告げる、
「ここを、子供たちを頼む、あなたのことは信じてもいい」
ムゥ-システム・ゼトゥムの参戦により2対1の戦いに様を変えるが、それでもなお、〈黒髑髏〉は不沈。
膝をついたU M-01を〈黒髑髏〉の破壊光線が打ちのめし、倒れたところにとどめの一撃が迫るその瞬間。
かららの脳裏に記憶が像を結ぶ。
その傲慢な性格から、孤立し、落魄し、怪獣災害のさ中取り残され、ひとりで孤独にその生を終えようとしていたその時。
死にたくない。
いや、死ぬのは構わない。
だが、こんなふうに死ぬのはいやだ。
死ぬのなら、喝采と称賛を浴びながら……
そんな時だった。
「わたしと一つにならないか?」
不定形の、光の粒子の塊にしか見えないそれが
「バヤーガ星人」だった。
あるものをないように見せ、ないものをあるように見せる。その生まれ持った力から他の宇宙人に利用されてきたバヤーガ星人は、星を失いこの地球に逃げ延びてきた最後のひとり。
かららはそれを受け入れ、不思議な二人三脚の生活が始まったのだった。
無償で奇術を披露し、笑顔を向けられ、「世界最後の魔法つかい」と称賛される毎日は……悪いものではなかった。
「魔法つかいさん!U M-01を助けてよ!」
子供たちに縋るようにそういわれ、かららは
……微笑んで、頷いた。
神経が焼き切れる寸前まで瞬間移動を繰り返して〈黒髑髏〉の攻撃を惹きつけ続け、アウトレンジから弱威力の火球を連射して牽制を繰り返すムゥ。
だが、このままではジリジリと消耗するだけだ。
せめて、光線を吐かせ、それを受け止め打ち返すことができれば……!
だが、〈黒髑髏〉はそれを承知しているのか、けしてムゥに対しては光線を吐こうとしない。
奥歯を噛み締めるムゥと、懸命にU M-01を再起動させようと試みるススム。
そんな瞬間、大きな声がスピーカーから響き渡る
「レディースエンドジェントルメン!
〈世界最後の魔法つかい〉久留島かららのイリュージョンマジックショーの舞台へようこそ!」
崩れかけたビルの屋上に立つかららの姿を認めたムゥは、逃げるように叫ぶが……
「閉塞を未来に、絶望を希望に変えてご覧に入れます!
うまくいきましたら……この魔法つかいめと、そして星花のごときムゥ嬢に、喝采と賞賛のお声を!」
パチン!と指を鳴らす音と共に……
瓦礫の町に、光を放ち、1、2、3、4、5、本物を含めて六体のU M-01が立つ。
……〈光の機械人〉が、六体!?
〈登録された戦闘データ〉にない現象に困惑して、出鱈目に突進し、手足を振り回して攻撃する〈黒髑髏〉。
しかしそこにあるのは虚像。
虚像と見せかけて実体。と見せかけてまたも虚像!
狂乱し、コントロールも外れたのか、大きく咆哮し、口を開いてあらぬ方向に破壊光線を放つその先に……
ムゥが、いた。
「これを……待ってた!」
吸収!
増幅!
反射!
〈黒髑髏〉の放った光線が、数十倍の威力に増幅され、自身に向けて降り注ぐ!
光の奔流が駆け抜けた後には、胸部から腹部にかけて表皮を失い痛々しく焼け爛れさせた〈黒髑髏〉が悲鳴をあげていた。
だが、まだそれでも尚、完全に機能を停止させてはおらず……!
出鱈目に振り回した尻尾の先端がかららの立っていたビルを、発泡スチロールでできたミニチュアであるかのように薙いでいた。
「久留島さんっ!」
叫ぶムゥ。
更に瀕死の〈黒髑髏〉はムゥにも最後の力で一撃を加えようとするが……
「スペシウム……」
「セイバー!」
倒れ込む勢いに任せ地を這うような低空の軌道で、表皮を失った剥き出しの地肌につきこまれた、U M01の右腕の〈虚空素粒子刀(スペシウムセイバー)〉が、抉り貫いていた。
しばらくもがいていた〈黒髑髏〉の瞳から光が消えるのを確認してから。
数日、ススムとムゥは懸命にかららを捜索したが、結局発見することはできず。
再度、避難所に行くことになるものの、気持ちは晴れない。
「なんて言ったら、いいのかな」
「うまく言うさ」
が、思いの外元気な子供達から、一通の封筒が差し渡される。
「世界最後の魔法つかいが、ありがとうって言ってたよ!」
「ついさっきまで、また来てたんだよ!」
封筒の中を開いて目を走らせたススムは
「……やられた」
とうめく。
「わたしのショーに協力してくれてありがとうございました。
けれど、あなたたち流星機構の監視下におかれるのはわたしもかららも真っ平ごめんです。
ここはなかなかいいところだったけど、河岸を変えることにしました。
子供達にはまた会いましょうっていっておいたので、うまく伝えてあげてください。
小さなお嬢さんへ
あなたにとってこの星がいいところになる。それがいいことなのかはわからないけど、あなた自身が幸せであるように、祈っています。かしこ。」
……世界最後の魔法つかい、久留島からら。
手紙は、そう結ばれていた。
結局、どこからどこまでが彼女の「魔法」だったのかは
ついぞ、わからない。