「追い詰めたぞ!ドクター・モルドール!お前の野望は、ぼくと黒鉄丸が挫いて見せる!」
「ええい!毎回毎回わしの邪魔ばかりしおってからに!それにわしのことはリリスちゃんと呼べと言っておろうが!」
題名「痛快冒険浪漫活劇
続・鉄拳機族探偵レン
〜帰ってきたリリスちゃん〜」
そこは、蒸気機関が高度に発達し、紫煙に霞む空の下の繁栄を謳歌する19世紀ロンドン。
蒸気の力で駆動する鋼鉄の機械たちが動かす社会の中でぶつかり合う、正義の少年探偵ーー鉄拳機族レンと、世界征服を企む悪と狂気の天才ロンドン下町の科学者ーードクター・モルドールことリリスちゃん!
長く続いた、そんな両者の戦いは、
「これで……これで終わりだドクター!」
「ば、馬鹿なぁ!わ、わしのフェンリルちゃんがああ!」
「月の果てまで……飛んでゆけえー!」
「お、おのれー!お、おぼえておれ!わしは必ず……必ず!」
レンの操る鋼鉄巨人、黒鉄丸の一撃で、誇張抜きに月面まで吹っ飛んでゆくドクターモルドール!
正義の勝利で幕を閉じた。
「さよなら……リリスちゃん!」
そして……
それから100年後!
「わーっはっはっは!わし、帰還!」
蘇る悪夢!
平和な現代に、狂気の天才下町の発明家が帰って来た!
「よーやく見つけたのう!久しぶしじゃなレン!さあ、あの時の決着をつけようではないか!黒鉄丸を出すがいい!」
「……あの、ぼくはひ孫の蓮太郎ですけど」
「……なぬ?」
「くろがねまる……?あー、たしかどこかにあったかなあ、父さんが事業に失敗して……捨ててはいないと思うんだけど」
(なんやかんやあって、現代的にリニューアルされた姿で登場する黒鉄丸)
「えーとえーと……やっつけろ!黒鉄丸ー!」
「お、おのれー!わしのNEWフェンリルちゃんがぁぁ!」
かくして、ひいおじいちゃんの遺産を受け継いで少年探偵となった、械堂蓮太郎と、不屈の天才科学者リリスちゃんの戦いが幕を開ける!
「うわーっはっはっはゲフォゲフォ!100年未来の愚民ども!このわしが貴様らを導き守り、支配してやろう!さあ、リリスちゃん様万歳と叫び、わしを讃えるがよい!」
「今どき何だよ〈せかいせいふく〉って!
そんなのサービス業みたいなもんだって!
ひいおじいちゃんに代わって、ぼくがリリスちゃんを止めて見せるよ!」
ある時は宝石展で!
「この博物館の宝石を全部いただくぞー!」
「まてー!」
ある時は工科大学で!
「この大学で研究中のレーザー光線の資料をもらってゆくぞ!」
「やめろー!」
ある時は夏のプールで!
「このプールは、天才リリスちゃんさまの臨時水着ライブ会場にさせてもらう!」
「幼稚園児みたいな体で無理しないでー!」
「うるさーい!」
「黒鉄丸!パンチだー!」
「ぬおおおー!わしのNEWフェンリルちゃんマークIIがぁぁ!」
何度も激突する中で、蓮太郎は少しつ疑問を抱くようになる。
「……なんでリリスちゃんは、世界征服なんて企むんだろう?いくらでもみんなを幸せにできる力をもってるのに……」
そして明かされる、リリスちゃんの真意!
「わしは……わしはこの世界が、人間が、世界で人間が生み出す「浪漫」が大好きなんじゃあー!」
「この世界が、浪漫が失われてしまうなんて……断じて許せんのじゃー!」
ネタバレ
実は100年前に繰り広げられた最後の戦いは、初代レンとリリスちゃんの狂言だった。
目的は、リリスちゃんの頭脳と知識、そして彼女自身を月の裏側に逃して、隠すこと。
彼女はその知能で予測していた。
彼女が愛してやまない蒸気文明の世界が、巨大な鉄塊の繰り広げる乱痴気騒ぎの時代が、いずれ一時の徒花として消え去ってしまうこと。
蒸気で駆動する鉄の巨人たちが、まるでそんなものは初めから存在しなかったかのように扱われてしまうこと。
……いずれ世界が、地獄と悪意に飲み込まれること。
各国の政治家たちは、ドス黒い情念に突き動かされてでもいるかのように、より効率的に、より多くの人間をより惨たらしく死なせることに血道を上げるようになってゆくこと。
魂と浪漫の宿った鉄の拳の決闘よりも、より大量の資源と通貨を消耗した、炎と憎悪による滅ぼし合いが選ばれること。
そんな世界の趨勢に、「正義の鉄拳探偵」は全くの無力で無用で、無駄な存在でしかないこと。
「そんな……!それじゃ、ひいおじいちゃんは……!」
その予測通りになったことを、歴史の教科書と、かつてあれほどいた鉄巨人たちが現在では黒鉄丸とフェンリルちゃんを除けば一体も稼働していないことが残酷なまでに示していた。
宿敵にして最大の理解者であるレンをただひとり、これから地獄と化すことがわかっている世界に取り残した。その理由とは……
さらなるネタバレ
「……ようやく見つけましたよ、ドクター」
「な、なんじゃと?どうやってここまで入ってきた!」
「おまえ……警部さんじゃないな!何者だ!」
リリスちゃんが世界をその手に収めようとしていた理由。
それこそは徐々に魔の手を伸ばし、地球を狙っていた……宇宙からの制圧者「うちゅう人(インベーダー)」に、自分が世界を統べることで対抗すること。
数世紀の計画の上で襲来した「うちゅう人」の制圧兵器の前に、予め完全に対策された人類の武器は……
「だ、ダメだ!」
「傷ひとつつけられないなんて……!」
全くの、無力。
しかし
たったひとつ、例外があった。
「情けないのう……100年間何をしとったんじゃ、浪漫と魂じゃよ!それがあれば、あんなハリボテ、何するものぞ!」
「ドクター・モルドールが……!」
「フェンリルちゃんが、街を守ってる……!」
〈NEWハイパーフェンリルちゃん〉の牙が、インベーダーの制圧兵器を噛み砕く!
「おぬしはどうじゃ!レンタロー!おぬしの曽祖父は……まぶしい浪漫と魂を宿しておったぞ!」
「ぼくは……ぼくは、鉄拳機族・少年探偵械堂蓮太郎!レンの曽孫だ!」
全てが明らかになった時、
正義の少年探偵の末裔と、悪の天才科学者が肩を並べ、蒸気じかけの鉄巨人と共に走る!
「行けー!黒鉄丸・真改!」
「すすめー!グレートフェンリルちゃん!」
そして、
浪漫と冒険の果てに待つものは……!