都部京樹

鬼才 黒沢清の監督作を擬人化するというコンセプトを元に執筆された本作は、2000年代前後の同監督の作品が含有する退廃的な世紀末仕草と官能的な筆致により形作られている。そうした意味で…続きを読む

円環構造は誰でも手軽に安易に物語の形を美しく定める事が出来るという点でなかなか使い所が難しいと思うのですが、少なくとも本作はそうした構造の美しさだけに終始していない作品であるように…続きを読む

再読。『アンタが言うなよ』と作者様にメタ的で正当なる指摘の二三を入れたくなる怪異発生経緯の滑り出しから、軽妙な筆致で展開されていく殺戮オランウータンによる密室殺人の様相とそれに対す…続きを読む

思春期の人間達に偏在する、自身の人としての中身の無さを『空洞』として称する本作は、決して劇的とは言えない日常の経過に頭を悩ませる等身大の少女の葛藤が描写されていてなかなかに良かった…続きを読む

官能的で甘味な文体が非常に好ましかった。 現実と空想の境界が曖昧と化していくトリップ感を、ひたすらに脳髄に流し込まれるような読書体験はべらぼうに愉快で、ともすれば息が詰まるような閉…続きを読む

方向音痴をテーマとした漫談小説として纏まりがあって面白かった。近大文学に対する重箱の隅をつつくような突っ込みは面白いという視点から、冒頭から矢継ぎ早にスピーディにボケツッコミを繰り…続きを読む

情報の濃淡による怪談描写が相も変わらず巧みで、中身の入った冷蔵庫という表層的にも常世の常識から大きく逸脱した異様と分かる要素から日常に回帰した後の模糊とした薄気味悪さがツボでした。

社会の規範から外れた行いに魅入られてしまった人間が、そう至るまでの切り込み方と過程の詰め方が真に迫る物があって読み応えがあった。連綿と続く欲望の成就を妨げる世界に対しての不平不満を…続きを読む

品性のなさをまるで隠そうともしない野性味溢れる語り口が非常にパンクで痛快ですが、齎される結末によってそれらの印象が大きく変化するのが場面の盛り上がりと併せて見物でしたね。意図的に美…続きを読む

誰かにとっては平々凡々の青い春の一頁が他の誰かにとっては人生の指針となり得る経験になるという、幾許の切なさと懐かしさが同居し伴う構図が好ましかったです──時たまに自分が執着している…続きを読む

物語と世界観の中心に存在する血獣なる生物の設定郡が愉快でしたね──SFならではの飛躍した存在でありながらも、生活に紐づいたそれであるから解釈としてあれやこれやと代替可能で呑み込みや…続きを読む

じとりと肌と心に纏わり付くような厭な心持ちが残る怪奇短編でした。 解決どころか謎すらも曖昧模糊なままに、心の片隅に引っ掛かり続ける真夏の陽炎のような掴み所のなさが怪談然としています…続きを読む

端的に苦虫を噛み潰したような読後感を味わえる掌編となっており、そうした展開を短く詰め込んでそれっぽい話に仕上げているというよりは尺に対して適切な話を組んでいるのが好印象でした──こ…続きを読む

『姉』の足取りから流麗に丹寧に描写されていく風景と共に思い出されるのは在りし日の弟との思い出の数々。一つ一つの描写の解像度の高さが読み手の心を指先でなぞるようなノスタルジーを表現し…続きを読む

文字通りに人が本と化す『本化現象』が世界を緩やかに蹂躙していく中、紡がれる少女と少女の関係。セカイ系の持つ確かな浪漫と廃退的な雰囲気を両立させた素敵な作品でした。 滅亡の先にミライ…続きを読む

短編が好きなんですよ。 短編は、短い物語の中に登場人物達の思想や生き方が詰まっていて、読んでいてすっと頭に入るんです。気軽に読めますしね。 本作における『彼』は君という呼称を幾度と…続きを読む