兵と兵とが激しくぶつかり合う戦場、その奥に控える『君』の物語。
あるいは、というか正確には、その脇に侍る『おれ』のお話。
この『おれ』が一応主人公ではあるのですけれど、でも実質的に『君』が行動の主体となっている場面も多く、つまりは事実上の二人称小説です。
普通に「君が」「君は」と二人称体で書かれていて、でもそれがこんなにも自然というのがもうすごい。
ひたすらこの『君』について語られているので、『おれ』についての情報が最終盤まで明かされないところが好きです。
叙述トリック的、といえばそうなのですけれど、でもそう言ってしまうと語弊があるかも。
別に引っかけやミスリードを目的としているわけではなく、ただあからさまに伏せられた情報を後で開示する、という形式。
つまりパズル的な面白みではなく、単純に物語としての中身そのものでぶん殴ってくるところが最高でした。
特に好きなのはやっぱり最終盤、それまで溜めてきたものの炸裂する瞬間。
というか、あんなにストレートに語ってしまっているのに、それが自然なばかりか心にビリビリ突き刺さってくるところ。最高。
悲愴な戦場の光景の重苦しい味わいと、その陰にじっと存在している人知れぬドラマが楽しいお話でした。