青い繭のなかで

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（189文字）

　青い薔薇の花言葉と、それを教えてくれた妻にまつわる、何か奇妙な夢のような一幕のお話。

　とても不思議な物語です。
　何が起こっているやら判然としない、不思議な悪夢を見ているようなお話で、まさに紹介文にある「サイケデリック」という形容に偽りなし。

　状況がはっきりしないものの、少なくともこのままでは良くないということだけはなんとなく伝わる、このジリジリ迫る正体不明の危機感のようなものが味わい深いです。

　作中に繰り返し登場するモチーフ、人工的に作られた品種である「青い薔薇」と、その花言葉が印象的。
　また文章のリズムというか、多めに打たれた読点が独特の店舗を生み出し、なんだか皮膚に重た…続きを読む

・こんな人におすすめ
　幻覚的な文章を読みたい人
・個人的にここが良い！
　キャラ・文体
・読後の満足感
　まん丸　Σ(･ω･ﾉ)ﾉ！
・感想
　急に物語のシーンが変わります。主人公と妻から主人公とある少女に。少女のターンが蠱惑的です。この少女は？　この状況は？　打破してくれる人はいるのか？　いろんな謎を残したミステリアスな仕上がりの作品です。とても楽しめました。

官能的で甘味な文体が非常に好ましかった。
現実と空想の境界が曖昧と化していくトリップ感を、ひたすらに脳髄に流し込まれるような読書体験はべらぼうに愉快で、ともすれば息が詰まるような閉塞感を感じ入る文章の連続であるのにそれがとても気持ちいい。快感だ。現実での苛烈で背徳的な出来事すらも置き去りにして、己の内へ内へと沈みこんでいくような筆致は紛れもなく悦であり、青い薔薇という作品のモチーフの選択もなかなかどうして素晴らしい。