謎に満ちた青春、募集します。
367 作品
まずは、東京創元社×カクヨム 学園ミステリ大賞に参加してくださったみなさんにお礼を申し上げます。面白かった。どの作品にも美点がありました。東京創元社がWeb小説投稿サイトでコンテストを行うのはこれがはじめてのことで、いったいどんな作品を読ませてもらえるのだろうと期待8割、不安2割の心境でいましたが、大いに楽しませていただきました。しかしこういうコンテストの都合上、ただ“楽しい”で終わらせるわけにはゆかず、“選ぶ”という作業を行わなければなりません。今回選ばれなかったみなさんも、これからも書き続けてほしいと願っています。
審査にあたっては全応募作367作品のなかから中間選考通過作61作品を選出し、さらに11作品を最終候補作品として検討を重ね、結果、2作品への大賞授与を決定しました。さらにもう2作に優秀賞を贈り、書籍化の検討を行います。
今回最も重視したのは、学園ミステリというテーマ上、学園が物語の中心にあるか、でした。舞台、人間関係、動機を学園のなかに収めた、これぞ学園ミステリという作品もあれば、面白さでその枠組みを突き破ろうとする作品もありました。さまざまな応募作が揃ったなかで、議論の上、特別支援学校を舞台にいわゆる〈日常の謎〉を描いた「僕たちの青春はちょっとだけ特別」と、群を抜く筆力を持った学園恋愛ミステリ「この恋だけは推理《わか》らない」の同時受賞という結果を出しました。
同級生の顔を誰一人として覚えずに中学校を卒業して、青崎架月は今年の春から特別支援学校に通う高校生になった。
岩永朝司、彼女いない歴17年――
相談すると恋が叶うと噂される<恋愛の神様>扱いされる彼のもとを
一人の少女が訪れる。
「私に小説のネタになりそうなコイバナを教えてください!」
書けなくなった恋愛小説家の小井塚咲那は、
朝司から小説のネタを教えてもらう代わりに頼まれる。
「一緒に恋愛相談を解決してほしい」
恋を知らない恋愛小説家と恋愛の神様は
コイバナに関わる謎を推理していく。
恋人がいたこともない男子高校生が〈恋愛の神様〉扱いされているという設定がまず楽しい。そんな彼のところに小説書きの女の子が訪ねてきます。彼女は他人の心が読めると豪語する。読んでいて「この世に存在しないような特殊能力を扱った作品は対象外——」と言いかけましたが、これはコールド・リーディングで、この世に存在する特殊能力でした。
筆力は群を抜いていました。読ませる力があり、謎解きを絡めた展開にも華があります。すでに一定以上の実力がありながら、まだまだ伸びしろもお持ちだろうと推測し、「僕たちの青春はちょっとだけ特別」と好対照を成す作品として受賞作に推しました。
「チャールズさ、お前幽霊って信じる?」
化学室を根城にする金髪ギャルに巻き込まれ、東京から来た少年は学園に潜む謎を調査研究するためのモルモットにされてしまった。次々起こる事件はまるでオカルトや心霊現象。それでも彼女の手にかかれば、すべては理性で解決可能な科学現象。だが問題が一つ――少年は科学音痴のド文系だった!
一つ謎を解くたびに、理想の青春が遠ざかる。果たして少年は、キラキラ輝く普通の日常を手に入れることができるのか?
地方都市の高校を舞台に、金髪ギャルの科学部員と巻き込まれた文系少年が、次々起こる難事件・珍事件を解決する、学園青春科学ミステリー。
選者の男子校&北関東出身バイアスもありますが、主人公の東京の男子校から群馬の共学校への転校という戸惑いをうまく描き、好感が持てました。理系女子(探偵役)と文系男子(ワトスン役)という組み合わせの妙もあり、オカルト的な謎を化学で解明するというテーマも高ポイントです。しかし、最後の事件後に新聞に名前が出てしまうのは、今の時代ではちょっと危険ではないでしょうか。この点が、正賞の二作と最終的な評価を分けたといえます。
高校生活初日。友達が出来るか不安を抱きながら登校した水城 姫華は、机の中に差出人不明の謎解きゲームの挑戦状が入っているのを発見する。
挑戦状は一組全員に配布されており、全ての謎を解くと「入学祝い」が貰える主旨が書かれていた。水城は近くの席の鈴堂 風雅、廻立 夕陽と協力しながら、手掛かりを頼りに謎を解いていく。
新しい学校、新しい制服、新しいクラスメート――。新生活に対するそれぞれの思いが交錯しながら、謎解きは一組の前に立ちはだかる。
冒頭のツカミがいい。「第1問 グループで一つの答えを探し出せ。答えの数字が示す場所に、次の問いがある」ここから始まる謎解き学園生活を描いた作品です。「ただし、教師陣にはこの謎解きの存在を知られてはならない」というのがまた、そそられる設定ではありませんか。——脱出ゲーム的なクイズ群を、新入生たちの友だちづくりに結びつけたアイデアが光っていました。よく考えてみると無茶をしているところもあるので優秀賞とさせていただきましたが、この作品を楽しんで読む読者はたくさんいるだろう、と感じさせるチャーミングな作品です。
※掲載の並びは作品のコンテストへの応募順となっております
「東京創元社×カクヨム 学園ミステリ大賞」の中間選考の結果を発表させていただきます。
多数の力作を投稿してくださった皆様、並びに作品を読んでくださった皆様には、改めて深く御礼申し上げます。
※掲載の並びは作品のコンテストへの応募順となっております
作品講評
特別支援学校(非常にセンシティブな設定でありますが)に入学した主人公視点での瑞々しい筆致と三つの謎を描きます。普段の授業の中(放課後でないところもミソ)で不思議な出来事に見舞われた主人公が、周囲の助けを借りながら謎解きする――当然ながら彼ら、彼女らにも学園生活という日常があり、そこに謎が発生する、ということに気づかされます。いま「学園ミステリ」として出版すべき作品であると判断しました。主人公たちの成長を、最も見守りたいという気持ちにさせてもらいました。同時受賞の「この恋だけは推理らない」を含め、今回の新人賞を開催して良かったといえる作品です。