概要
此の少年は、金魚を描くために座敷牢で飼われてゐる――
「金魚を飼《こ》うてて、どれだけ可愛がっちょっても名前だけはつけたらいけんのよ」
筆軸の先で、真っ紅な金魚が跳ねた。
美しい金魚だった。触れなば濡れん。水の滴るような絵だった。
絵があれば、絵を描くものがいる。
白い金魚のような美しい少年はみずからの血潮を筆に吸わせて、絵のなかの金魚に命を吹きこむ。
彼は金魚を描くために座敷牢で飼われている――
少年の世話係をする訳あり奉公人と命を削って金魚を描き続ける少年絵師の、昭和幻想
「そんなもん与えたら、人間様と同等や思うて死ぬる時に連れていってしまうけぇ」
筆軸の先で、真っ紅な金魚が跳ねた。
美しい金魚だった。触れなば濡れん。水の滴るような絵だった。
絵があれば、絵を描くものがいる。
白い金魚のような美しい少年はみずからの血潮を筆に吸わせて、絵のなかの金魚に命を吹きこむ。
彼は金魚を描くために座敷牢で飼われている――
少年の世話係をする訳あり奉公人と命を削って金魚を描き続ける少年絵師の、昭和幻想
「そんなもん与えたら、人間様と同等や思うて死ぬる時に連れていってしまうけぇ」
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!ああ……
ああ……、で、言葉が詰まる。
本作のどこに魅力を感じるかは、それこそ読者によるのだが、およそ昭和の序盤から戦後まもなくくらいであろう時分を背景とした設定がまず私の気を惹いた。何となれば、私は昭和四十七年生まれで、自分の親や祖父に当たる世代からとぎれとぎれにそうした時分の話を聞いてきたからである。
そんな折に、昭和どころか江戸の風味を……苦い形で……遺した家を、主人公達の『水槽』とするのは当然の考察ではある。が、ここでは少しひねって、『井戸』としたい。水が湧きはするが、人手をかけない限り水位は上がらず、縁から溢れることもない。そして、水の代わりに血という名の思索が湧く。
そんな代…続きを読む - ★★★ Excellent!!!命を燃やす一念の、鮮烈な『赤』
瀬戸内海をのぞむ斜陽の炭鉱町、金魚、座敷牢。
死んだようなモノクロの町で、少年が描いた金魚だけが赤い。
文字が語る映像美とレトロ感。
少し悲しくて寂しくて、懐かしい。
こういう世界、良きですね。
はにかみながら語られる、方言の対話。
少年たちがいる街の閉鎖感や暗さが伝わってきます。
命を燃やす赤と、金魚の赤、血の赤。
ホラー、ミステリー、幻想譚、ぜんぶあるのだけれど、互いを想う情念を貫く、彼らの幼い切実さが、とても好きです。
陽の目を見ずに生を終える宿命に、どういう形で抗ったのか。
囚われた者、解放する者。
虚像と、実体。
幾重にも『うねり』が仕込まれており、読み応えがありました!